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第11話 レンタル料は500円

「スマホ電源入らない……。 電池切れてる……」



 朝からバッテリー残量が半分を切ってたから、時間の問題だとは思ってたけど、予想よりもはるかに早く電池は空っぽになっちゃったみたい。


「やだ美咲ったら充電忘れたの? 」

「昨日メッセに夢中になっちゃって、ベッドで寝落ちしちゃったの」


 ナツのメッセが長くて長くて。 今回の告白相手は結構頑張ったらしく、話が面白くてつい聞いてしまったのもあるから仕方がない。 なんにしても今は付き合うつもりがないみたいで、全部断ってるって言ってたけど。


「なに美咲彼氏でもできたの!? 聞いてないよ!」

「ち、違うよ、お友達! 」


 お友達、でいいのかな。 ユニットのメンバーなんて言ったらどうなっちゃうんだろ。

 と思っているところに、眼前に黒いバッテリーが差し出された。 思わず差出人に振り向く。


「ほれ、貸してやるよ」

「え? いいの? 」

「レンタル料500円な」


 千春のときだったらもっと優しくするくせにー! 地味にしてたら金とるっていうの!? なんて、本気じゃないよね。


「その微妙にありそうな価格設定がなんかやだなぁ」

「なーに、菊野って美咲のこと好きなの〜? 」

「ちょっと友紀、何言ってんのよ! 」


 完全に恋バナモードになってる友紀は、菊野くんにけしかけていた。 このデレの要素が微塵も感じられない無気力星人さんがそんなわけないでしょ。


「お? 好きだぞ。 嫁にもらいたいくらいだ 」


 あれ? 今あたしのこと好きだって言った? 千春? いや、違う、いまそっちじゃない。 こんな冗談言うタイプだったっけ。


「ちょっと菊野。 美咲をからかわないでよ。 女慣れしちゃって」

「悪い悪い。 部活が部活だからな」


 そっか、吹奏楽部だから女の子いっぱいいるもんね。 冗談でも言いながら、かわしてるのかしら。

 そっちがその気なら、あたしだって――。


「あ……あの、あたしも、好きだよ? 」


 口をパクパクさせながら、顔を真っ赤にしている菊野くん。 あたしの演技力も捨てたもんじゃないみたい。 ふふっ。


「なーんて。 惚れちゃった? 」


 未だ口が開いたまま硬直している菊野くんのところに、田中くんがやってきて言い放った。


「二人して顔真っ赤にしてなにやってんだ〜?」

「やかましいっ! 飯にすんぞ! 」


 あたしも顔赤い!? やだ、まだまだ女優さんにはなれないな。 ならなくていいんだけどさ。





 放課後までモバイルバッテリーを借りてたおかげで、充電は満タンまで回復した。


 最近、もっさりとした動きな上、電池の減りがすごく早く感じる個人用のスマホ。 バッテリーのリフレッシュだとか、バックグラウンドで稼働してるアプリがあるだとか、横文字ばっかりの対応策があるみたい。


「バッテリーありがと」

「ん」

「このバッテリーってコンセントにも差せるんだね」

「そうそう、スマホ充電しながらバッテリーも充電できて結構便利なんだよ」


 そっか〜。 菊野くんってスマホとかのガジェット好きなんだね。 なんて思ってたら、菊野くんから見つめられていた。 アイドルやってたって、こんな至近距離で見つめられるなんてことないから、ちょっとドキドキしちゃう。


「え? な、なに? 」

「ごめんごめん。 ボーっとしてた」

「そ、そっか。 あのさ、菊野くんってスマホとかIT系って強い? 」

「んだな。 割と得意な方かもね」

「それじゃさ、最近スマホのバッテリーの減りがすごいはやくって、ちょっと見てくれない? 」

「いいよ、バッテリーかぁ 」


 机の上にスマホを置いて、指紋認証でロックを解除する。 菊野くんは、設定アプリとかバッテリーの管理項目を確認しては、ああでもない、こうでもない、これは大丈夫、だのと独り言をつぶやいていた。


 菊野くんは集中すると周りが見えないタイプみたい。 あたしは友紀や他のクラスメイトが帰っていくのに手を振って見送った。

 そして、あたしと菊野くんを除いては最後の一人を見送ったとき、菊野くんはようやく一つの結論にたどり着いたみたい。


「とりあえず怪しい点はないね。 たぶんバッテリーがヘタってるだけ・・・あれ? 誰もいなくなってる」


「うん。 菊野くん集中してたもんね。 あたしは挨拶したりしたけど、みんな部活に行ったりしてたよ」


 結果としては、経年劣化だったみたいだけど、それならもう買い換えるしかないって諦められる。


「ゲッ、今何時だ!? 」


 菊野くんが顔を上げたとき、教室のドアがガラっと開いた。


「おうおう。 部活にも来ずに何をしているかと思えば、放課後デートかい? 」

「いやいや、違いますって。 ちょっと相談に乗っていただけで。 すぐ楽器取ってきます。 悪い、春山。 また明日な」

「ううん、こっちこそ時間取ってごめんね」




「クラスメイト、よね? 春山ってもしかして」

「あ、そうです。 前に吹奏楽部の副部長やってた春山の妹です」

「なるほどー。 菊野くんと付き合ってるの? 」

「いえ、そういうわけでは」


 このひとは誰なんだろう。 菊野くん敬語使ってたし、2年生なのかな。


「なーんだ、違うのかー」

「そう見えます? 」

「そうね。 部活だと菊野くんが女の子と仲良くしてるのなんて見ないから」

「今日、女慣れしてる、なんて話になってたのに」

「ププーッ、誰の話よ」


 昼間の会話を思い出して話してみたら、その先輩は爆笑していた。 部活でもとても『女慣れしてる』状態からは程遠いみたい。


 こんな話をしてるの菊野くんにバレたらまた怒られちゃう。そろそろ逃げなきゃ。


「それでは、あたしはこの辺で。 失礼します」

「はーい、お邪魔してごめんねー」


 ペコリとして教室を出て昇降口へ向かっていると、楽器を携えて渡り廊下を歩く菊野くんが見えた。

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