戦勝とクローディアの危機
ゼーレフォン
リオネンは目の前の光景に絶句していた。あれほど強大なボルドアス艦隊は友軍を名乗る空飛ぶ箱が放った矢と、灰色の巨大船7隻の大砲の前に全滅した。歓喜と同時に恐怖も覚えた。もしかの船団の大砲が公国に向けられた場合、打つ手など無いのだから。
少ししたらあの7隻より更に巨大な船が現れた。そしてその船から空飛ぶ箱が舞うのが見えた。箱は前に現れた深緑ではなく、真っ白で全体的に太い感じだ。そして箱は港町の広場に降り立ち、その中から人が現れた。
「この町の守備隊指揮官は誰か?」
兵士たちが一斉にリオネンを見る。
「(やめてよ!否定できないじゃない!!)」
額や背中から汗が噴出してくる。
「貴女がそうですか?」
ここまでくればいくら隠そうとしても後の祭りである。
「(ああもう!)そう。あたしが副官のハーゼ騎士団長のリオネンさ。」
「司令部まで案内していただけますか?指揮官とも話したいことがありますので。」
「そいつは今診療所に・・・、・・・!!そうだクローディア!」
リオネンは面談中にも関わらず診療所へと一直線に走り出した。
その足の速さはさっきまで流れていた汗を吹き飛ばす勢いであった
「ああ!?ちょっと!?」
制止など彼女の耳には入らない。
診療所に着くと
「先生っ!クローディアは!?」
「かなりまずい状況です。」
そこには全身から汗を流しベッドの上で苦しむクローディアの姿があった。
「クローディア!しっかりしろ!!」
リオネンがいくら呼び掛けてもクローディアの反応は変わらない。
「困ります。いきなり-」
先ほどなで話していた男性が付いて来たようだ。その人はクローディアを見るなり・・・。
「要救護者1名!」
その声と共に、左腕に赤い十字の入った白い帯を付けた三人が診療所に入ってきた。
「この娘の容態は?」
「昨晩に高熱を出しまして・・・。」
「解熱剤が氷は?」
「昼過ぎに使い切りました。」
何やら取り出しながら先生と話しているが、今度は仲間と・・・。
「脈は?」
「心拍数80高すぎます。」
「体温は?」
「39・1℃」
「点滴つなぐ、アルコール綿。」
手際が良すぎるのか、リオネン自身が医学に疎すぎるのか、またはその両方なのだろうか。
「艦で治療する必要があります。」
「わかった。担架!」
すると橙色の板の様な物が現れ、掛け声に合わせてクローディアが移され、運び出せれる。
「彼女を何処に連れて行く気!?」
「自衛隊の艦です。」
「ジエイタイ?」
リオネンは訳が分からなくなっていた。だが警戒心や恐怖感より「クローディアが助かるかもしれな
い」という願望が勝っていた。
細道こら大通りに出て広場に向け疾走する。広場にはボルドアス兵が道のわきに座らせていて、ジュッシュ軍の幹部と黒くパリッとした服の男が話していたるのがわかったが、今のリオネンからすればクローディアのこと以外どうでもよかった。
クローディアを乗せた板は、彼らの白い箱に入れられ、リオネンもその中に飛び込んだ。箱は甲高い音を発しながら宙を舞い、「ジエイタイ」とかいう連中の一番大きな船に降り立つ。
扉が開き再びクローディアが連れ出され、跡を追い船内に入る。だがリオネンは細く狭い階段に足を踏み外し転げ落ちる。視界が歪む中、クローディアが一室に運び込まれるのが見えた。
リオネンは何とか部屋の前まで来たが扉は閉まり、立ち尽くすしかない。
「ここまでかぁ・・・。」
ため息をつきながら壁にもたれ掛かり扉を見る。
「・・・白地に、赤十字・・・。うぐっ・・・!」
描かれているマークと見た途端、全身に激痛が走った。特に右足の痛みは尋常ではない。
「くそっ・・・!さっき挫いたか・・・。」
耐えようとする意志に反し視界が暗くなる。