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ミトスター・ユベリーン  作者: カズナダ
第5章 転移紀
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交渉3

 翌朝、朝食を済ませたシガラー達であったが、日本側の要請で急遽会談場をクインテッサホテル佐世保から佐世保総監部に変更となった。


 そして、ホテルのロビーで迎えが来るのを待つ。


「いきなり変更とは、何かあったのでしょうか?」


 部下の何気ない疑問であったが、シガラーは周りを一回見渡し答えた。


「人目のせいかもな。」


「は?」


「ここはホテルだ。我々が通告も無く来たことで準備が整っておらんのだろ。

 それに総監部と言う名前からして、恐らく変更先は政府管理の施設なのだろ。そこなら一般人の眼を気にする必要は無い。」


「なるほど、流石シガラー様。」


 シガラーは部下の相槌など気にせず、自らの持論を述べる。


「それに、新興国であろうと無かろうとニホンとしてもこの会談は失敗できん。我が国の後ろ盾さえあれば、多少無理な外交でも押し通すことが出るからな。」


 そして、二人の下に迎えの者達がやってきた。


「ヨル=ウノアージン聖皇国のシガラー様ですね。私は日本国外務省職員の真島です。大臣の命を受け貴方方を佐世保総監部まで送迎させていただきます。短い間では有りますがよろしくお願いします。」


 清潔感溢れるパシッとした黒のスーツに几帳面な挨拶。シガラーの感じた第一印象は文句なしの満点であった。


 真島の両脇の者達も彼に引けを取らないほど几帳面な挨拶をした。


 そしてシガラーたちの荷物を代わりに持とうとするが・・・。


「いやぁ結構。あまり他人に触れさせたくないので。」


 シガラーは丁重に断った。


「失礼しました。」


「そんなことより早く向かおうではないか。」


「はい。では、こちらに。」


 送迎車は昨日の『タクシー』と呼ばれる車ではなく、黒塗りの胴長の高級車・・・『リムジン』であった。


 乗り込み、ドアが閉まるとリムジンは音もなく発進した。タクシーと同様、いやそれ以上に雑音も振動も無い。そして、内装と合わさってまるで動く会議室であった。


「このままこの場ではじめても良いんではないのか?」


「はっはっは、ご冗談を。」


 あからさまな冗談。無論あっさり見抜かれ失笑された。


 とはいえ、シガラー自身も車内で出来るとは思っていないし、真島たちは単なる迎え。だがあえてこんな冗談を言ったのはその反応見るためであった。


 他の列強国に赴いたときも同様に、相手からしたらある意味脅しと捉えかねない冗談を言ったとき、迎えの者は顔面蒼白となって「止めて下さい!!」と泣きついてきてたが、今回の場合は泣きついてこないうえ顔色も変わっていない。


「(中々面白い。この国は飽きさせてくれない。)」


 ゆえにシガラーは深く感心すると共に、改めて気を引き締めた。


 佐世保総監部・・・。

 正門から正面玄関前のロータリーまで続く花道。その両脇に出迎えの兵士、その数21人。その内20人が銃剣つきの歩兵銃を携えている。


「ささーーげーーーっ・・・銃っ!!」


 部隊長の車内まで響く号令に兵士のこの一糸乱れぬ挙動で歩兵銃を体の正面に掲げる。更に彼らの顔はリムジンの、それも後部座席に追従する。全く持って関心の至り。やっぱりこの士気の高さは聖皇国軍も見習わなければならない。


 そしてリムジンが全員の前を通り過ぎ、正面玄関まで辿り着くと・・・。


「直れーーーっ!!」


 正門から正面玄関までかなりの距離があるがそれでも部隊長の号令は車内まで届く。


 シガラーには見えていないが、ここでも一糸乱れぬ挙動で歩兵銃を下ろしたのだろうと。他国の兵のはずなのにシガラーには一種の信頼感と言う物が芽生えた。


 車から降りたシガラー達は、総監部内の会議室にまで案内される。


 そこには、先に到着していた日本の外交官が準備をしていた。


 そして彼らは、入ってきたシガラー達を見るなり、手を止めて挨拶する。


「始めまして。日本国外務大臣の錦戸です。」


「副大臣の的場です。」


 まさかの外交のツートップであったが、それほどまでに日本がこの会談にかける思いと言うのがうかがえる。


「ヨル=ウノアージン聖皇国外務大臣、ハスメット・シガラーです。」


 部下も続いて挨拶した後、遂に会談が始まった。


 数分後・・・。

「・・・と言うのが我が聖皇国の大まかな概要です。」


 シガラーからヨル聖皇国の概要を聞いていた錦戸と的場。二人はある一点に着目した。


「簡潔明瞭な説明ありがとうございます。」


「しかしあの初代総統と言う人。ヒトラーに負けず劣らずのカリスマだったのでしょう。」


 『初代総統』と呼ばれた男の存在であった。突然現れて大衆を扇動し内戦を終結させ、第1海洋界全域を制圧した後、動機不明の自殺を遂げたと言う、謎多き人物。


 だが日本人からすれば彼の大衆扇動の言い回しは、ナチスのボス『アドルフ・ヒトラー』を彷彿とさせるものであった。


「「何故それを!?」」


 ヒトラーと言う言葉を聴いた途端あれほど冷静だったシガラーと部下は激しく動揺する。


 その狼狽っぷりに錦戸と的場は体をビクつかせ、何かまずいことを言ったのではないかをいう感じで互いに顔を向け合う。


 そして、一拍の時間を置いてシガラーは落ち着きを取り戻した。


「・・・!失礼しました。」


「あの・・・。シガラー殿、よろしければ貴国の初代総統の名を教えてはいただけませんか?」


 錦戸は、疑心を確信に変えようとする。


 これの返答の内容によってはヨル=ウノアージン聖皇国との付き合い方を変える必要が在る。


「はい・・・。『ヨル=アドルフ・ヒトラー』・・・です。」


 これで決まった。聖皇国との外交方針が。


 ピリリリリリリリリ ピリリリリリリリリリ


 ここで的場の携帯に着信が入る。的場はいったん席を外した。


「まさか、ヒトラーが貴方方の・・・。」


「総統閣下は偉大なお方でした。内戦を終結させたのは無論、経済・技術・軍事・・・。ありとあらゆる物が我々の常識を根底から覆すものばかりでした。


 総統閣下の神の御神託があればこそ、聖皇国は世界一位の座を確固たる物にしました。そして遺された遺産は死後20年となった今日こんにちにあっても、聖皇国を発展させています。」


 若干俯いて表情はよく見えないが、錦戸には分かった。無表情で目の奥に光が燈っていないシガラーの表情が。


 そして通話を終えた的場が入ってくるなり錦戸に何やら耳打ちする。


「シガラー殿。一旦、休憩を挟んではどうか?貴方も気が動転して話にならんのではないでしょう?」


「・・・はい。構いません。」


 会議室を出た錦戸と的場は部屋で待機するシガラー達に聞こえない場所と声量で話をする。


「で、緊急事態とは?」


「はい。在ジュッシュ大使の西村から、ギル王国が宣戦布告してくる可能性があると。」


 錦戸はこれに複雑な心境を寄せた。


 ギル王国に対しヨル聖皇国の後ろ盾があることを示せば、無用な戦闘を避け白紙講和とすることが出来る。しかしそうなればいくらヒトラーが居ないとは言えナチスに対価を支払わなけれならない可能性がある。状況が違うにしてもジュッシュ公国でさえ食料提供の対価として軍事力を求めるぐらいだ。


「国民はナチスに協力しようなどとは絶対に思わないでしょう。最悪国交すら結ぶことはないでしょう。」


 国民が反ナチスなのは百も承知である。ともなればギル王国には日本単独で対処しなければならない。そうなれば戦闘で圧倒的戦力差を見せつけ、相手の戦意を削いだ後講和を持ち込む。これしかない。


「後は今の講和だが・・・。虚勢を張ろう。」


 休憩を終えて再び会議室の入る。シガラーは平常心を完全に取り戻したみたいだ。


「では、会談を再開させていただきます。」


「はい。今度はニホンのことを教えていただきたい。」


 錦戸等はここで一計を謀った。


「日本には三千以上の以上の歴史が有り、その中でも『ヒトラー時代』と呼称される時代が存在します。」


「ヒトラーは何処からとも無く現れ、農業や漁業以外に目立った産業が無かった我が国に改革をもたらしました。」


 第一次産業以外目立った産業が無い、と言うのはアメリカ軍の爆撃機B-29によって焼け野原にされた終戦直後の日本を指し、改革はその後訪れた『高度経済成長期』を指した。


 無茶苦茶な事を言っているようではあるが、ヨル聖皇国はヒトラーを神格化している。故にこの急発展も『ヒトラーの御蔭』とすれば納得がいくものであると思った為だ。


「やはり総統閣下は・・・。なら何故ニホンに留まらず聖皇国にやって来たのかが疑問になります。」


「真意に付いては我々の理解を超えているとしか・・・。強いて言うなら、あの方が統治するには『日本』と言う国は小さすぎたとか・・・。」


 互いにヒトラーを話題とした雑談が暫く続いた。


 そして日が傾きだしたとき、ようやく会談が本題に入った。


「ところでシガラー殿。貴方が日本に来た目的を聞いておりませんでした。」


「?ああっ、私もすっかり忘れていました。目的としては単純です。貴国と国交を樹立したい。無論・・・対等な関係で。」


 以外であった。仮にも列強国1位のヨル聖皇国から対等な関係での国交樹立を提案されるとは。恐らくヒトラーの話が大きかったのであろう。やったことは許せないが、ここは素直に感謝したい所だ。この世界の国であった場合はだが。


「個人的にはこの提案には大いに賛成ですが、我が国は議会制民主主義の国。国民の判断に委ねるゆえ暫くお時間をいただきたい。」


「具体的には?」


「2ヶ月・・・でしょうか」


「我々は一度本国に戻り成果の程を報告しなければならない為、早くて3ヶ月。遅くとも4ヶ月後に再び参ります。そのときで結構です。」


「分かりました。ではそのように取り計らいます。」


 一通りの日程を終えて会談はヨル聖皇国にとっては成功と言って良かった。日本にしてみればナチスに協力することは避けられたが、同時にギル王国との戦争にかけられる時間が決められた。


 佐世保警備隊桟橋・・・。

 錦戸たちは伊藤海将たちとシガラーが搭乗する駆逐艦ベラガと見送った。


 航路に入ったのを見計らい錦戸はすぐさま後ろを向き懐から携帯を取り出した。


「(防衛大臣は・・・。)錦戸です。はい。外交官は航路に付きました。2ヶ月です。2ヶ月でギル王国を交渉の席に付けてください。でなければ日本はナチスに協力することになるでしょう!」

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