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ミトスター・ユベリーン  作者: カズナダ
第5章 転移紀
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講和の兆し

 サデウミス油田が爆破されたことで、日本はありとあらゆる産業に影響をおよぼした。ガソリン価格は1L/200円まで一気に跳ね上がりなおも増加。石油化学製品は全国で品切れが相次ぎ、転移直後の混乱を遥かに上回る『オイルショック』となった。


 政府は油田の早期復旧とそれに伴う修理部品の製作・輸送と現地で使用する重機に国内に備蓄してある全ての燃料を割り当てることを宣言。これにより国内すべての火力発電所は停止し、夜間の電気の使用が禁止され昼間も使用電力は75%未満に抑えることを義務付け、更に自動車の使用も禁止した。


 だが、ここまで露骨な倹約令は国民全体に多大な不信感を与え、更に混乱を悪化さ内閣支持率は急降下した。


 防衛省・・・。

 そして、自衛隊が最も懸念したのはギル王国の再攻勢であった。


 油田が半壊している現状ではタンタルスに派遣している第7師団の主力90式戦車はもちろん、護衛艦も潜水艦もまともに動かすことが出来ない。


 そんな中でどのような行動に出るか。省内では意見が割れていた。


「こうなれば短期決戦しかない!国内の船という船をかき集め、持てる最大戦力で敵地に乗り込む!」


「輸送艦隊の護衛はどうする!?具体的な兵力は!?根性論だけではインパール作戦の二の舞になるだけだぞ!」


「だったらイプシロンロケットの先端を爆薬に詰め替えて種子島から飛ばせば-」


「弾道ミサイルに転用する気か!?そんなこと国民が認めるわけ無いだろ!!」


「ならお前はどの様に防衛計画を練るつもりだ!?」


 守備を続けようが、攻勢に転じようが動きが制限されていることに変わりは無い。


 会議は躍れど進まず、空しく時間だけが過ぎて言った。


 ギル=キピャーチペンデ王国 王都ソーンヘルム・・・。

 だが同じようなことはギル王国でも起きていた。


 日本の力を侮ったが為、海軍兵力の約3割を一回の海戦で消失するという一大事に緊急王前会議が開かれた。


 だが出てくる意見は大きく分けて『前回を上回る数の艦隊での再攻撃』と『ニホンの反撃に対処するため本土の守りを固める』ことの二つであったが、どちらにしろ講和を申し入れると言い出すものは思っていても口に出しはしなかった。


「(ニホンを甘く見ていたか・・・。)」


 会議を終え、軍需省副長官のジグソーは足早に部屋を後にする。


「ジグソー殿!お待ちを!」


 その後を追って海軍参謀長官の『オルギル』がジグソーを呼び止めた。しかしジグソーは歩く速度を遅めただけで決して止まろうとはしない。オルギルはジグソーの右斜め前で彼を同じぐらいの速さで歩き本題をぶつける。


「更なる軍艦の建造を、少なくとも500!許可して貰いたい!」


 ギル王国では、銃や大砲・軍艦などは全て民間企業が生産しそれを軍に納品している。軍需省は国の年間予算と相談のもと生産の許可を出している。軍が新兵器を開発しようとしても、これにも軍需省の許可が必要になってくる。なので軍は常に軍需省の尻に敷かれる関係にあった。


「そんな量の軍艦、一体何に使う気だ?」


「反乱分子への抑止力にです!これだけでもまだ足りないぐらいなんです!」


 タンタルス大陸はフォーネラシア大陸の衛星大陸の一つで、先の海戦には王国本土からボルドアス帝国に払い下げるはずだった300隻の装甲戦列艦と北東の『ヴォリッシュ大陸』と南東の『パーカルア大陸』から蒸気帆船300隻ずつが派遣された。だが、ヴォリッシュ・パーカルア両衛星大陸でもギル王国が独立保障を掛ける小国とその敵国との間で紛争が続いるが、ギル王国お得意の『二枚舌外交』と海軍艦艇の存在で長期化していた。


「海軍の艦艇が姿を消したとなれば、奴等はそれを好機と思い攻勢に出るでしょう。」


「確かにアヤツ等が決着をもたついているが故、随分と良い稼ぎになっている。それを失うわけにはいかんな。」


「ですから直ぐにでも-」


「血迷ってまたタンタルス大陸に攻め込む気であろう?」


「そそそ、そんな事は・・・!」


 ジグソーに確信を突かれオルギルは激しく動揺する。ジグソーが見抜いた通り、オルギルは兵力の回復を待ってタンタルスに攻め込む『攻勢派』の人間であった。


「良いかオルギル殿?今回の相手は今までも弱小国とは訳が違う。

 ニホンはゼーレフォン、そして先のザーパト海での海戦で、併せて400隻にもなる軍艦を沈めている。しかも300隻が一回の海戦で失われたのだ!」


「それは単なる偶然では?」


「私も最初はそう思ったわ。だがザーパト海の結果を見て確信したわ。王国はニホンには勝てない!決して!!」


 何とジグソーはまだ多くの重鎮が残っているにも関わらず、王国が敗北すると宣言した。


 だが以外にもジグソーを非難する声は彼が予想していた以上に聞こえてこなかった。恐らく多くの者がそう思っていたことのようだ。本来ならそう言う者たち全員は『敗北主義者』として処罰されるのが落ちであった。


「な、何故そう言い切れるのですか!?」


「ヨル=ウノアージン聖皇国・・・。そういえば分かって貰えるかな?」


 ジグソーが口にしたのは、この世界の者なら知らぬものは居ないとされる列強首国。他の6つの列強が束になっても決して敵わないとされる世界最強の国家であった。


 ジグソーは続ける。


「かの国がニホンの後ろ盾となっている場合、どうなる?」


「ニホンは大枚を叩いてでも、かの国の軍艦を購入し実戦に投入する・・・?」


 ボルドアス帝国や王国海軍を圧倒した事、全てヨル聖皇国のバックアップが存在していたとすれば。そう考えれば納得せざるを得ない。


「・・・。」


 オルギルは歩みを止めた。


「私は直ぐにでもタンタルス大陸に出立する。泥沼の戦争になる前に終わらせるのだ。」


 実質的なヨル聖皇国対ギル王国の戦争。こんな戦争続けるだけ無駄であり、ジグソーはニホンとの講和を模索し始めていた。


 ギル王国では普通、このようなジグソーの行動は直ぐに止められるが、国王ギル=シンボラーはこれを黙認。ヨル聖皇国その物を相手にしている訳でないにしろ、後ろ盾と言うことだけでもギル王国に勝利の可能性は一気に低下する。


 不利な講和条件になることを覚悟しながらもこのままでは国が滅びる。それだけは何としても避けたいが為、一部は不服なれどジグソーに全てを任せることになった。

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