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ミトスター・ユベリーン  作者: カズナダ
第5章 転移紀
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油田爆破

 バン


 格子の落下した音は管理区画を中心に広く響き渡り、神宮寺ら棟内の隊員にも聞こえた。


 特戦群全員は施設の構造を把握しきっている。なのでどこで音が鳴ったのかは大よそ特定している。


 スタッ


 格子の外れたダクトからミランダが降りてきた。地面との高さは5mはあったが、彼女にして見ればそんなの階段を下りる程度のものであった。はずなのだが・・・。


「ぅぐ・・・。」


 何故か右腕、特に斬られた部分が尋常でないほど痛む。切り傷などいくらでも負ってきているのに今回ばかりは違う。その部分の痛覚のみが研ぎ澄まされているようだ。


「何でだろうな・・・?」


 その痛みもやがて、好敵手を見つけたことに対する微かな喜びに代わり、血の滲みが広がるのと同時に体中を充足感に浸らせていた。


「居たぞ!!」


 だがそんな事している場合ではなく、直ぐに逃げなければならない。


 特戦群第3中隊は管理区画から最も遠い採掘区画を警備していたが、侵入者が管理区画に現れたことで管理棟の外周を警戒することになった。


 そしてその侵入者が現れた。


「逃げたぞ!追え!!」


 管理区画の北、分留区画に逃走。射撃命令は出ているが、油田施設での発砲など考えられない。当たれば良いが、そんなに上手くいく訳ない。万が一油送パイプやタンクに命中すれば大惨事は避けられない。


 それに、あの侵入者は唯一の参考人であるので何としても生け捕りにしたかった。


Xエクスレイ9、先行しろ!」


 だが、相手の脚力は軽装とはいえ特戦群の隊員と大差なく、全く相互の距離が縮まらない。そこで足に自身のある隊員を先に行かせて見失わないようにすることになった。


 ミランダは構造を全て把握しているわけではなく。来た道を帰るように特戦群から逃走していた。聞こえてくる足音のうち一つが凄い勢いで接近してくるのが分かった。


 ミランダはペースを少し上げ、後ろの集団の足音が小さくなったところで、貯蔵タンクの柱に身を隠した。1対1の状況はミランダにとって願ってもないものであった。ミランダの知る限りゼロレンジコンバットを実戦レベルで習得しているのは、自分と師匠であるジグソーと日本軍に一人のみ。勝利の自身しかなかった。


「ぅっ!?」


 銃が見えたところで左手でバレル、右手を相手の左腕の下から通してストックを掴み、銃全体を時計回りに回す。


 相手はトリガーに指をかけていたが、指はトリガーガードからすり抜ける。


 奪い取った銃のストックを右肩に当て、自由になった右手をトリガーにかける。左手はバレルから被筒部に持ち替える。バレルを素手で握っていれば、銃身内部と弾丸の摩擦熱を直に受けてしまうからだ。


 そして、照準はその動作を行うのと同時に行っている。後はトリガーを引くだけだ。そうすだけで目の前の日本軍に致命傷を与えられるのだから。


「っ!?」


 だがトリガーは予想を大きく上回る重さで、接着剤で固められたのかあるいは偽物なのか・・・。どちらにしろ弾丸が発射されえることは無かった。


「ふっ!!」


 特殊作戦群X9こと辻隊員は小銃こそ奪い取られたが、安全装置のおかけで撃たれることはなかった。そして、相手が戸惑っている隙に左腰に付けた89式多用途銃剣を逆手で引き抜き、振りかかった。


「ぐわっ!?」


 だが、相手はそんな戸惑いなど嘘の様に小銃を巧みに使い、攻撃を受け流した直後にカウンターで銃剣を右肩に刺した。振りかかりに加え、カウンターで更に速度が乗っていたので鍔まで深々と刺さった。その痛みのあまり後ずさりをし跪く。


 そして相手は再び小銃を構える。今度は安全装置を操作する動作をした。切り替えレバーは『ア(ンゼン)』の位置にあるので、いくら日本語が分からなくても他3つの位置全て発砲が可能だ。


「っ!」

 

 ダダダン


 相手は3点バーストで撃ってきた。『タ(ンパツ)』でも『レ(ンパツ)』でもないのは、数字は分かるということだ。


 辻は発砲する直前に体を右に回転させ何とか回避できた。だがまだマガジンには弾が入っている。


 しかし相手は辻を狙うわけでもなく銃口を別の方向に向けた。


「(まさか!?)」


 その方向を見た辻は驚愕した。なんと相手はガソリン貯蔵タンクを狙っていた。


 ダダダン ダダダン ダダダン


 89式普通弾には数発に一発の割合で曳光弾が入っている。通常はこれで弾道を確認できるのだが、曳光弾は一種の焼夷弾のようなもので、熱で光を発する。なので可燃物に着弾すれば引火する可能性がある。そしてその可燃物はガソリンだ。


 すぐさま身を低くし爆発と熱風に耐える体制をとる。


 バァァァァァァァァァアアアアアアアンンンンンンン


 やはりタンクは大爆発を起こした。


 その爆発による火球は隣国キシュキダーでも確認でき、衝撃波はサンジェロワはおろか、房総半島でも観測した。


 帰投中の第7師団・・・。

 ボルドアスの時とは違い充分準備を整えれたので90式戦車を75両に加え15両の90式戦車回収車が装備されていた。


 ギル王国との戦闘の可能性が高く、重要施設であるサデウミス油田が在るユークノトス半島東部ガツゥバロー海岸に展開したが、第4潜水隊と第5護衛隊、F-2戦闘機の波状攻撃で全滅したことで出番なしとされた。


 バァァァァアアアアン


 サデウミス油田の爆発を確認するまでは・・・。


「なっ!?」


「ゆっ油田が・・・!?」


 敵艦隊が全滅したということは間違いだったのか。サンジェロワの通信科連中に滑腔砲を撃ち込んでやりたかったが、今はそんな事している場合ではない。


「師団、急速反転!油田に向かうぞ!!」


 秋山陸将は間髪居れずに師団に命令を発した。油田火災にどれだけ対処できるか分からなかったが、行かないという選択肢は無かった。


 サデウミス油田・・・。

「全隔壁弁閉じろ!!」


 炎がパイプを通り隣接する他のタンクに引火しないようにパイプの隔壁を閉じ流れを断つ。


 だがタンク一つ当たり2500バレルの燃料を積載できる。爆発と同時に積載していたガソリンが燃えながら四方八方に飛び散っていた。


 だが、ガソリンは完全に燃え尽きれば二酸化炭素と水になるので、このまま消化剤を撒かずに放置すれば自然と鎮火すると思われた。


 バゴォォォォォォォォォン


 更に爆発が発生した。


「どうした!?」


「軽油タンクが爆発!おそらく、飛び散った破片がタンクに穴をあけたものかと!」


 ガソリンタンクの隣に合った軽油タンクが爆発したとなれば続けざまに重油やディーゼル燃料にまで引火しかねない。


 神宮寺はサンジェロワ航空基地に救援を出すと同時に、特戦群全員に消火を命令した。


 火災発生から数時間。爆発を聞きつけた第7師団、第4潜水隊、第5護衛隊の援助と、翌朝から航空自衛隊のヘリによる消火を開始。陸海空自衛隊の総力を上げた消火活動の結果、正午過ぎに8割がた消火を完了し被害の全容が見えてきた。


「何と言うことだ・・・。」


 火災は分留区画を燃やしつくし、火の手は油水分離区画や採掘区画にまで迫っていた。


 サデウミス油田は日本の唯一の石油産出地であり、経済の中枢と言っても過言ではない。その油田が半壊したとなればオイルショック以上の混乱が日本を襲うと誰もが思った。当然復旧作業も行うが半年以上は掛かると見ている。


「辻・・・。すまない。」


 特戦群第3中隊の辻隊員が焼死体で発見され、第3中隊を中心に重軽度の火傷を負ったものが多数居たが、不思議なことに爆破した張本人と思われる人物の死体が見当たらなかった。


「どこかに飛んでいったと?」


「そう・・・かもな。」


 部下の問いに神宮寺は遠まわしに死亡していると答えたが、内心生き残っているのかと思えて仕方が無かった。


 彼は左手にミランダが投げつけたナイフを血が滲むほど握り締めた。右腕の傷が痛むのを誤魔化すように。


 ソプラソット山脈 山中・・・。

 ここからでも油田から立ち昇る黒煙がしっかりと確認できた。そして、それを見つめる一人の女性が居た。

「これで五分五分になればいいが・・・。」

 爆発から奇跡的に生き残ったミランダは王国の勝利を期待しながら再び山中に消えていった。だがそれでも、彼女の右腕の傷の痛みは治まらなかった

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 油田に石油精製施設もあるのかな?
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