新たな敵
2月17日 ゼーベルムート 日本国大使館・・・。
ジュッシュ公国の駐在大使に就任した西村のもとに来客が訪れた。
「日本国、ジュッシュ駐在大使の西村です。」
「突然の面会の申し入れ、ご対応頂き感謝します。私はギル=キピャーチペンデ王国のミランダと申します。」
「(ギル王国。)」
西村にとって、この国の接触は避けて通れないものと覚悟していた。
なので、名前を聞いただけでは決してうろたえない。
「御噂は聞いております。フォーネラシア大陸とその周辺の島々を支配する『大国』と。」
「大国ですか・・・。」
存在は知っていても列強と認識していない。だが、自国より国力は上である。故に大国と言う表現を使った。ミランダはそう解釈した。
「私がここに参ったのは、貴国にお伝えしたい事があるからです。」
「お聞きしましょう。」
「タンタルス大陸はボルドアス、そして我が王国の支配から逃れました。そのせいで周辺諸国がざわめいていて苦労しているのです。」
どういう理由があるにせよ、日本に全責任を擦り付けようとしている。まるでC国とK国だ。
「そこで、貴国に言っておきたい事がありまして・・・。」
ここまでくると大体予想が付く。
「この『第5海洋界』で勝手な事をしないで頂きたい。」
「よれは我が国に対する内政干渉ですか?でしたら応じるわけにはいきません。」
「そうですか。でしたら仕方ありません。後日、国王陛下の正式な書簡をお送りいたしますので、それを貴国の王にお届け下さい。」
いきなりの最後通告。リーエンフィールが言った通りになった。ギル王国は、日本に戦争を仕掛けるつもりだ。
「でしたら、我が国からも御一つ、お伝えいたします。今の日本は武力行使も辞さない心構えに有ります。貴国を滅ぼす事になっても抵抗感と言うものは殆ど無いでしょう。」
「脅しているおつもりですか?」
ミランダは、表情にこそ出さないようにしているが、言葉には少なからずの憤りが混じっていた。
「ここまでくれば外交交渉ではありませんね。」
「そうですね。お互いに最後通告を受け、後は正式な宣戦布告を待つだけなのですから。」
「貴国の様な恐れを知らない国は初めてではありません。ボルドアス帝国を滅ぼしたからってタンタルス大陸を支配したわけではありません。」
「支配と言うのは武力が全てではありません。日本がタンタルス各国に行っているのは・・・、経済的支配とでも言いましょうか。」
「経済的?」
「各国の民はこう思っているでしょう。日本なくして国の発展はありえない、だから日本の機嫌を損ねないために最低限いい顔はしておかなくてはならない。と。」
「実に甘い考えだ。いずれ呑み込まれるでしょう。」
「噛み付いた時点で口は血まみれでしょうな。」
「王国に血を流せれば、それだけで誇りになるでしょう。楽しかったですよ。生きていればまたお会いしたくなるぐらいに。失礼します。」
「お元気で。」
お互いに不気味な笑みを交わしミランダは退室、西村も直ぐさま本国に報告した。
日本 首相官邸・・・。
西村からの報告を受け、緊急閣僚会議が開かれた。
「お集まりいただいたのは他でもない、この世界の列強国ギル王国が日本に対し戦争を仕掛ける可能性が出てきました。」
「西村大使は忠告通りに、辞さずの覚悟を示したのですがどうも引き下がらなかったようで。」
「正式な国書が届くまでの間、タンタルス大陸の防備を固めます。何処から攻撃してくるか分かりませんが、大陸の東に一個護衛大群、南北に潜水隊を配置、航空支援も出して万一の上陸を許したら地上部隊で殲滅します。」
「日本本土にも一切近づけさせません。」
タンタルス大陸には一個旅団と特戦群百名が駐屯しているが、敵の規模が分からない今は援軍を送らない選択肢は無い。
直ぐに第7師団と第1護衛隊群、第2・第4潜水隊の派遣が決定。航空戦力は、『ファントム』を中核に対艦武装の『P-3C』をサンジェロワ航空基地に渡航させた。
ギル=キピャーチペンデ王国 王都ソーンヘルム・・・。
ミランダからの報告を受け、軍会議が開かれた。
「打通信号の試験は成功したようだな。」
「はい。報告では、日本国は王国からの忠告を一蹴しただけでなく、逆に挑発したと。」
「愚かな国よ。ボルドアスの発注した軍船百隻は既に完成している。やつらなどこれで捻り潰してくれるわ。」
ギル王国は結局は日本を衛星大陸タンタルスに属する島国としか認識していない。
ギル王国は確かに第5海洋界を治める列強国であったが、主な装備は『ボルトアクション式単発銃』『蒸気帆船』で19世紀初頭から半ばの技術で作られた兵器が殆どであった。
「奴等には末代まで植え付けるのだ。タンタルス大陸の新の支配者はギル=キピャーチペンデ王国であるという事をな。」
翌日、正式な宣戦布告書を第3国経由で送りつけ、到着とほぼ同時刻に攻撃を開始できる体制を構築していった。