決戦 ラブングル街道5
ブルフ平原に差し掛かった機甲師団の前に、長大な塹壕が待ち構えていた。
「第1師団が残した塹壕が利用されているぞ!」
「あいつ等の尻拭いか、気は進まねぇがこれを突破できるのは俺達だけだ。突っ込むぞ!!」
時速40kmで塹壕に迫る90式戦車に向け数多の弾丸が発射される。
カンッカカカカンッカカンッカカカンッ
その中にはM2重機関銃も含まれていたが、44口径120mm滑腔砲を使用して発射されたAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を弾き返す正面装甲を、マスケット銃の銃弾が貫けるわけも無く、車内にはノックオンがけたたましく響いていた。
「そのまま乗り越えろ!」
勢いそのままに塹壕を踏み潰し、平原に展開する。
「主砲、榴弾装填!」
48両全ての主砲からJM12A1対戦車榴弾が塹壕目掛け打ち込まれた。
更に90式戦車の後方の『73式装甲車』と『89式装甲戦闘車』が歩兵隊を降車させ・・・。
「突入っ!!」
塹壕の掃討を開始する。
銃剣付き89式小銃を連射した後、塹壕に突入。持ち前の銃剣道術で圧倒し速やかに制圧した。
降伏したボルドアス兵は、捕虜となったが、数が多く移送に手間取る。
それをラカヌデンの森から見ていたマスケツは、
「撤退しかない。重い物は置いて行け。」
戦車隊がこちらに来る前に、一刻も早くボルドロイゼンに撤退しようと、全将兵に軽装を指示じ、撤退を始めていた。
ジュッシュ公国やボルドアス帝国の感覚で見れば、完璧と言えるタイミングであったが、それでも自衛隊から見れば遅すぎた。
ジュッシュ・ボルドアス国境線『ランスニ川』南岸・・・。
第7師団と第12旅団が、塹壕を攻撃している間に、第1師団が急速に北上、ランスニ川に架かる橋全てを『96式装輪装甲車』『軽装甲機動車』『高機動車』『16式機動戦闘車』で封鎖し退路を完全に塞いだ。
「慌てふためくボルドアス軍の顔が目に浮かぶぜ。」
「例えあいつ等が見えても、先に撃つなよ?降伏させるんだ。」
「分かってるよ。」
挟撃、もしくは包囲された部隊が取れる行動は二つ、『降伏』か『徹底抗戦』か。相手は50万を超える大軍なので後者の可能性が高いが、実力差を見せ付ければ降伏も止むを得ない。そう判断するだろうと踏んだ。
「来たぞー!!」
撤退中のボルドアス軍の先頭が、第1師団と接触した。
ラカヌデンの森・・・。
マスケツの元に最悪な報告が次々と舞い込んで来る。
「報告します!日本軍がランスニ川南岸に陣取り、進む事ができません!」
「ジュッシュ軍の騎兵隊が追撃を掛けて来ます!!」
進路も退路も無い袋小路に追い込まれ、手勢は多いだけの軽装備の歩兵のみ。このまま手をこまねいていては死者を増やすだけ。今マスケツが取れる最善の命令は降伏しかなかった。
「おらおら!どうした!?掛かってこんかー!!」
撤退するボルドアス軍を追撃するリオネンは、ゼーレフォン沖海戦の時からまともなに戦えていなかった。右足の捻挫が完治した今は、まるでその時からの鬱憤を晴らすように追い立てていた。
ボルドアス兵にとっては悪魔を相手にしているようなもの。向かってくる者ど居るわけがない。
「ちぃっ!つまらん。」
「騎馬が一騎、向かってきます。」
馬に跨るその男の鎧は賢覧豪華で、大将と認識する。
「ふっ。やっと面白そうな相手に合えた。」
「・・・。」
「私はクレー騎士団副団長リオネン。ボルドアスの名立たる将とお見受けいたす。尋常に勝負されよ!」
「・・・その勝負、一つ条件がある。」
「条件を飲めば、受け入れると?言ってみよ。」
「兵達を殺さないで貰いたい。」
「それは-」
「双方剣を納めよ!」
鎌田が水を差す。
「鎌田殿!」
ジュッシュ軍の兵士とは一線を隔す緑色を基調とした斑模様の服の人物が現れた。おそらく日本軍の軍人だろう。
「貴方が日本軍の・・・?」
「『日本軍』ですか・・・。いかにも、私は日本陸軍の鎌田将軍である。」
やはり、この世界でもいくら『自衛隊』と言いつくろっても『日本軍』と認識されているようだ。〇等〇佐・尉・曹・士は日本独自の言い回しであったが、『将軍』と言ったのは『軍』と認識されている相手には一番納得がいく答えと思ったからだ。
「我々の一騎打ちを邪魔する気か!?」
興奮冷めやらぬリオネンは、そのまま斬りかかる勢いで鎌田に迫るが、鎌田は臆することなく答える。
「一騎打ちの必要は有りません。将兵全員の武装を解除し、我等の指示に従って頂ければ良いのです。無抵抗の者は決して殺さない、それが日本軍の規則です。
それにリオネン殿。『一騎打ちの邪魔をするな』と言っているが、貴国には『ボルドアスとの戦闘は日本軍が引き受ける』といっているはずですが?」
これを言われれば、さすがのリオネンも引き下がるしかない。
ボルドアス軍全将兵約70万は、日本・ジュッシュ連合軍に降伏した。
第2次ラブングル会戦
日本・ジュッシュ連合軍
戦死:800・1100
ヘリ:3機撃墜
ボルドアス・ロシア協力軍
戦死:10万・11
捕虜:70万・3
ヘリ:4機撃墜
ジュッシュ軍の目立った損害は『ゼーベルムート攻防戦』で、自衛隊に至ってはロシア軍に与えられたものだけで、史上稀に見る圧倒的勝利であった。
捕虜を移送する傍ら、自衛隊が何かを探している。
「何を御探しになっているのですか?」
クローディアが純粋な疑問を鎌田に投げかけるが、鎌田は顔を合わせず答えた。
「仲間の遺体です。遺族の元に返してやらねばならので。」
「日本にも死者を弔う風習が?」
「はい。さすがに、異国の地に埋める訳にはいきません。祖国に帰してやらねば。」
「埋葬・・・、ですか?」
「埋める過程で、一度棺ごと遺体を焼く『火葬』をします。魂は、立ち上る煙と一体になり、この空に広がり、世界の一部となる。それが日本の、葬儀です。」
胸の前で手を合わせ黙祷を捧げ、空を仰ぐ鎌田の頬を涙が流れる。クローディアも鎌田と同じように黙祷を捧げる。
「ありがとうございました・・・。本当に・・・。」
自然とクローディアの頬にも涙が流れた。




