番外編 アストラン島裏工作
アストラン共和国・・・。
かつて、魔女ゴルゴーンにタンタルス大陸を追われ、流れ着いた人類と島の原住民共生した末に建国した国であった。
目立った産業は農業や漁業などの第1産業が主体であったが、ボルドアス帝国の植民地となってからは第2産業、特に造船業が急速に発展し、軍船・貿易船のおよそ3割はアストラン島で生産された物であった。
この島のミリタリーバランスは、現地徴兵されたアストラン人が多い陸軍に対し、ボルドアス人が大部分を占める海軍の発言力が強い。だが陸軍も志願すれば海軍陸戦隊に入隊できる。ヴァルサルはこの制度でのし上がり、第4陸戦隊の指揮官にまで抜擢された。
しかし、日本での惨敗でボルドアス帝国に対する忠誠心は無くなり、今では『祖国復興』の思いだけが彼を突き動かしていた。
アストラン島北西部・・・。
島の南東部は海軍基地が在り侵入は不可能であったので、死角となる北西の沖合まで新鋭護衛艦『しらぬい』で進出、ゴムボートで上陸した。しらぬいはこの後基地の艦隊に攻撃を加える予定であった。
「ここから南東部の町『ズナホ』へ向かう。」
ズナホには海軍基地が在り、兵力はここに集中していた。
メンバーはヴァルサルと海上自衛隊の特別警備隊5人の計6人。
「南西部にも町は在りますが出来る限り避けので、山岳部を通ることになるが、問題ないか?」
「協力する勢力が在るのか?」
「反乱勢力の『ザスパー』の拠点がある。まずはそこに行く。」
ザスパーは『アストラン島解放戦線』の通称で、アストラン島各地でボルドアスの地方政権に対し、要人の暗殺など重大犯罪を繰り返している組織で、幹部クラスは全土で指名手配されていた。
「まさかテロリストに協力する事になるとは。」
特警隊が本来取り締まるべき相手だはあったが、『敵の敵は味方』という理論で味方する事になったが、ヴァルサルを含め、あまり信用してはいなかった。
ザスパーは『ミクロス山地』に点在する洞窟を根城にしていた。目立った武器はマスケット銃の機関部を改造した改造したクロスボウで、メンバーには女性も多く含まれていた。
資金源は麻薬で、ボルドアス各地に密輸して多額の資金を得ていた。
ザスパーとの共同戦線は双方不本意であったが、ヴァルサルが指揮を取る事になった。作戦の内容は自衛隊に多大な負担が掛かるものであった。
「しらぬいに海軍基地を潰させる!?」
「出来なくはないだろ?日本軍の火力ならボルドアスの装甲戦列艦程度一撃で沈められるであろう?」
しらぬいの主砲は5インチ(12.7cm)なので、撃沈は容易である。
地上目標に関しては、むしろこの砲は対地砲撃を想定した設計なので、本業とも言える。
「良いでしょ。ですが、対価は高く付きますよ。」
2日後 夜・・・。
ズナホ海軍基地には宗谷岬沖海戦で敗走してきた装甲戦列艦『ローグフリート』を含む30隻の戦列艦が停泊中であった。
「あんな戦い・・・いや、あんなのは戦いではない。一方的な虐殺だ。」
宗谷岬沖海戦の艦隊指揮官『スリンガー』と、ギル=キピャーチペンデ王国の観戦武官『アンサロワ』の二人は、両本国向けに報告書を作成していたが、現実離れ過ぎる戦闘経過に頭を悩ませていた。見たものを忠実に記しても誰も信じない。かと言って、都合の良いように記したとしても自分の保身が保障されない。
「くっそー。どうすればいいんだ!?」
これまでにない難関作業であったので、朝から今に至るまで報告書の執筆に当てられていたが、見出しすら出来ていない。
そんな二人の苦悩を打ち破り、拍車をかける事が起こる。
ボゴォォォン
遠くの方であったが、その音は確実に港の方から聞こえた。




