臨界点
ゼーベルムート 屋外集会広場・・・。
いくつかの商店に混じって、陸上自衛隊の野戦病院キットで造られた医療施設が置かれていた。
クローディアは検診の結果、軽度の低体温症と診断されたが、首筋の注射痕を見て何らかの薬品が投与されていると判断し、後日日本の病院で精密検査を受ける事になった。
「いいなぁ。また日本に行くんだってぇ?」
「茶化しか、冷かしか、どっちが良い?」
クローディアはリオネンに辛辣な言葉を投げかける。
「ひっでぇ!変な気遣いさせないようにと思ったのに!」
と言い、リオネンはクローディアの隣にドンッと座る。
しかしクローディアの視線は冷たい。
「病人のアンタを心配している親友の気持ちぐらい-」
「貴女だって怪我人じゃない。」
「誰のせいで悪化したと!?」
「誰だろうね~?」
クローディアは口笛を吹いてしらを斬る。
「部下の前では威張っているくせに、夜になると『おねえちゃ-」
「それ以上言うなーっ!!」
クローディアはリオネンに襲い掛かり頬を引っ張る。
「いらい!はふぁへほ!!(痛い!離れろ!!)」
リオネンも負けじと引っ張り返す。
まるで子供の喧嘩だが・・・。
「それは一体どう言うことですか!?」
ルフトの怒鳴り声で静止する。
「敵首都への攻撃は、現状では難しいと言ったのです。」
どうやら日本陸軍の神宮寺と今後の方針で揉めている。
クローディアとリオネンはテントの影からヒョッコリと見つめる。
「貴国の力を持ってすれば、ボルドアスの都市の一つや二つ簡単に吹き飛ばせるでしょう?」
「我々は殺戮に来たのではない!それに今回の救出作戦事体、かなり無理をしてたんですよ!」
「貴方達は皆無傷ではないか!?」
ジュッシュ公国に野戦病院キットを持ってきたのは隊員の健康状態の維持が主な理由であったので、神
宮寺が「攻撃は難しい」と言ったのには、隊員とはまた別の問題があった。
「隊員は問題ではありません。我々に足りないのは弾薬と燃料です。」
「弾なら公国が-」
「規格が違いすぎます。陸、海、空の各自衛隊が使用する弾は、この世界で唯一日本だけが作る事が出来ます。ですが製造された弾薬を輸送するにも燃料が必要となります。燃料の入手に目処が立っていない現
状では、現有戦力のみで戦う事になります。」
「そんな・・・!何とかならんのですか!?」
「何度も言いますが、燃料・・・つまり『燃える水』さえ入手できれば-」
「燃える水さえ手に入れられれば良いんですね?」
クローディアが割って入ってきた。
「クローディアさんは在り処を知っているのですか?」
「はい。公国の南隣の国『サデウミス集合国家』です。」
「それは秘密事項だぞ!!」
ジュッシュ公国でも一部のものしか知らない『サデウミス集合国家』。この国の存在は、タンタルス大
陸の血塗られた歴史を知ることになる。