惨劇
はじめまして。
今作が初投稿となります。著者のカズナダです。
この「ミトスター・ユベリーン」はとある異世界転移の作品に感動した私が、コンセプトを参考に完全オリジナルのストーリーとなっております。
是非との、暖かい目で最後までご覧下さい。
2025年 8月・・・。
悲劇の大戦から80年。
猛暑の下、多くの人々で賑わう海岸線、『九十九里浜』。
だがいつもと違い、海岸からわずか2kmの距離に10隻の船が停泊していた。外観はまさに江戸幕府に開国を迫ったアメリカの『黒船』その物であった。
水着姿の人々は海水浴に来たことを忘れ、スマフォやカメラを取り出し撮影や動画配信を行っていた。
これはある動画配信の様子である。
チャンネルの主はハイテンションで現状を伝える。
「今!九十九里に来てんだけど!なんか黒船いたわ!まじヤベェ!」
コメント蘭には1200人もの視聴者のコメントが物凄い勢いで流れていた。
『マジで黒船!?』『ヤベー!カッケー!』『カイコク、シテクダサーイw』
こういった関連の動画は直ぐに一大ニュースとなり、現地メディアも挙って九十九里に集結。警察も出動し規制線が張られようとしていたまさにその時・・・。
「ご覧ください!たった今、蒸気帆船の舷側から大砲らしきものが出現しました!」
蒸気帆船の片舷16門の門扉が開き、そこから大砲が姿を現した。
それは動画配信を行っているスマフォのカメラ越しでも充分確認できた。
そして現地住民、LIVE配信の視聴者の歓喜が頂点達したとき・・・。
バババババババババッバババババババババババババッ
『・・・え?』
九十九里浜は地獄と化した。
ヨル暦1935年8月 某海上・・・。
月明かりとわずかな篝火のみが蒸気帆船の周囲を照らし出す。甲板に上がれば心地よい潮風が流れていた。
10隻の蒸気帆船は等間隔に一列に並び進路を南に採っていた。その船団の正体は、『第5海洋界』と呼ばれる、面積で言えば太平洋に匹敵する広大な地域の1大陸、『タンタルス大陸』の北半分を支配し、どう大陸に覇権を打ち立てることを目的とする『ボルドアス帝国』海軍の船団であった。
そして船団旗艦『ベンジャー号』の船長室では、蝋燭一本の明かりに映る、口髭と顎鬚をたっぷりと蓄えた、大航海時代を知るものであれば直感的に『黒髭』を予想する風貌の男、ボルドアス帝国第3戦隊の指揮官『ベルテクス提督』が、5年という長きに渡り抵抗を続けている『ジュッシュ公国』に対する奇襲作戦の最終調整に入っていた。
「(船団はこのまま南下。ゼーレフォンの南に兵を揚陸させ注意を引き付ける。その後第1戦隊の援護を受けた・・・)-ッ」
「ベルテクス提督、ちょっと来てください。」
そこに副長のバクトが呼びに来た。
ベルテクスは「ジュッシュ奇襲の計画を見直している時に」という感情を表に出しそうになるが、そこはグッと堪える。
「何かあったのか?」
「わかりませんが、とにかく来て下さい。」
バクトに言われるがままベルテクスは操舵スペースの甲板に連れ出された。篝火で見えにくいが、甲板では水兵たちが、甲板の掃除や帆綱の調整を行っていた。
「(よろしい。よろしい。)」
士気の高さに感心しているとバクトから望遠鏡を手渡された。
「あちらです。」
バクトが指差したのは船首方向にやや右の方向であった。
その方向に向けて望遠鏡越しに見つめると、小さく燈る灯りが見えた。
「船団でしょうか?」
バクトが問いかける。
「いや、灯りの間隔が狭いし、どうも一列に並んでいるように見える。」
「とするとあれは、海岸線の灯り?」
望遠鏡をおろしたベルテクスの目には、船乗りとしての冒険心と軍人としての野心が宿っていた。
このあたりを写した地図には陸地は描かれておらず、仮に見えた灯りが未発見の大陸であれば・・・。
「バクト、この海域はジュッシュからどの程度離れている?」
「はっ!およそ4500kmです。新大陸とは・・・、およそ数十kmです。」
この位置なら偏西風に乗りやずか7日でジュッシュ公国に達する。更に未開拓の地であるなら、大量の人的、工業資源が手に入る。
長き渡る戦争で疲弊している帝国にとって喉から手が出るほど欲しいものであった。
「よし、夜明けまでに沿岸まで接近しろ。この大陸を王女殿下に献上し、ジュッシュ攻略の足掛りにするのだ!」
「はっ!!」
ベルテクスは独断で作戦を変更。新たに新大陸制覇を付け加えた。そして、その事は後方のデュリアン艦隊に報せなければならいが・・・。
早朝、船団は新大陸の沿岸およそ2kmで錨を下した。
「予想以上にデカイな。」
大陸の地平線は南北に大きく広がっていた。
「これだけ巨大な大陸・・・。殿下もさぞお喜びになられるでしょう。」
「うむ。だが・・・。」
ベルテクスは望遠鏡越しに浜辺を見る。そこには既に2000人程の原住民が集まっていた。彼らの服装は全体的に肌の露出度が高く、ベルテクス以下全員が「蛮族」という感想を持った。
「提督、陸戦隊の準備が出来ました。」
「陸戦隊長ヴァルサル、流石に速いな。」
ボルドアス帝国海軍の中でも選りすぐりの精鋭たちで構成された第4陸戦隊。その隊長ヴァルサルは若干30代であったが、卓越した戦術眼と部下からの厚い人気に後押しされ、この精鋭部隊を任せられたエリートの中のエリートであった。
「速さは奇襲成功の可否を左右します。」
「よろしい。きたるジュッシュ戦のため、日々鍛えてきた精鋭一万に蛮族がいくら束になっての敵うまい。」
ここで砲術長が割って入ってきた。
「では、全艦に砲撃用意させます。」
蒸気帆船7隻、揚陸船3隻の合計124大砲が浜辺を向き・・・。
「放てぇえええええっ!!!」
一斉に火を吹いた。
直撃すれば即死するが、砲弾には着発信管が組み込まれ、着弾と同時に爆発。密閉された外殻の強度を内部で燃え上がる火薬の圧力が上回ったとき、周囲に高温の金属片をばら撒き、傍に着弾しただけで四肢を引き裂く。
海岸から原住民を一掃した後、陸戦隊一万が上陸、逃げ惑う者に容赦なくマスケット銃の戦列射撃を浴びせた。また命乞いをする者に対しても容赦なく銃剣で刺殺し、家屋に押し入り住民を殺害しては、略奪する。悪行の限りを尽くした。
「よおし!二日後到着する援軍を待つ。橋頭堡の確保を急がせろ!」
同刻、総理官邸・・・。
突然の人工衛星からの電波やアメリカ合衆国、ホワイトハウスとのホットラインが途絶したと思いきや、今度は武装勢力による九十九里浜への強襲上陸など、立て続けに起こった緊急事態に国内と同様に、官邸でも同等以上の混乱が広がっていた。
だが、それでも対策を打たねば取り返しのつかない事態になりかねない。
「総理!事態は急を要します!即刻、自衛隊による反撃をー。」
防衛大臣、角谷は防衛出動を要請したが、外務大臣の錦戸と国交大臣の松木が水を差す。
「いや、こんな時こそ穏便に解決すべきだ。」
「そもそも防衛省は何をやっていた!?蒸気船の動きすらまともに掴めんのか!?」
防衛省の当然の対応を却下すべきとも取れる提案と、予防できなかったことに対し批判が出たが、角谷は一切動じることなく反論し総理に直訴する。
「国内の混乱で哨戒網がなばらになっていたんだ。それに穏便というが、問答無用で撃ってくる連中は、海賊でありテロリストだ!そんなのとまともに話し合える分けない!総理っ!ご決断を!!」
「・・・。わかった。第一師団と陸上総隊に反撃命令を出せ。それと警視庁のSATも予備軍として投入しろ。」
戦後約80年と続いた日本の平和はこうして破られた。後に「九十九里事件」と呼ばれるこの出来事は日本に与えやれる数多くの試練の始まりに過ぎなかったのだ。
御精読ありがとうございました。
まだまだ半人前の初心者で皆様のご期待できる物ではないでしょうが、
裏方の友人と共に、この「ミトスター・ユベリーン」を、後悔も恥の無い良作に仕上げます。
今後とも、私カズナダと「ミトスター・ユベリーン」を宜しくお願いします。
余談ですが、「ミトスター・ユベリーン」はドイツ語で「転移・サバイバル」と訳せます。