ラブングル会戦 3
ゼーレフォン・・・。
「着水っ!」
US-2は燃料のほとんどを消費しつつも、無事ジュッシュ公国にたどり着いた。
機内からゴムボートで上陸したルフトとクローディアは馬舎へとひた走る。
「よしっ!二頭居る!」
ルフトとクローディアは馬上からホルステ達に・・・。
「我等は先に公都に向かい反撃に出ます!」
「たのむ!儂も後から向かう!」
「では!」「お先に・・・。」
精鋭中の精鋭、近衛兵団とクレー騎士団が参戦するとはいえ、ホルステの不安は拭い切れない。
「ホルステ殿、良い知らせがあります。」
「江田野殿・・・。何か秘策が?」
「現在、陸上自衛隊の精鋭100名がこちらに向かっています。」
「たった100名だと!?近衛とクレーを合わせても約1万!貴国は公国を助ける気があるのか!?」
「大いに有ります。貴国を失って一番困るのは日本なのですから。もう1時間すれば戦場に降下しま
す。」
「はっ?」
この期に及んで虚言を言っているとも思えなかった。何故なら、ホルステは日本ならやってくれると、
内心期待を寄せていた。
ブルフ平原 ハーゼ騎士団本陣・・・。
「うっ・・・。」
リオネンはボルドアスのカノン砲の砲撃から、からくも生き残ったが・・・。
「(確か、砲撃されて・・・。!?)誰か!誰か居ないか!?」
リオネンの供回りは全員戦死。残った者で動ける者は極僅かであった。
「・・・!」
敵の大軍が来る。督戦隊は逃げ帰っている。自分一人では何もできないが、せめて一矢報いる。
「止まれぇえ!」
腹の底から出した一声に、敵は足を止めた。
「我こそは、ジュッシュ公国ハーゼ騎士団団長リオネンッ!!ここから先、通ることは決して許さ
んっ!!」
先頭に立つ大将と思わしき大柄な人物に宣言する。
「小娘がっ!そんな身体で我々に刃向かう気か!?」
その男の側近はそう言うが・・・。
「かまなん。手柄には丁度いい。」
敵将が誘いに乗った。
「我はボルドアス帝国伯爵リゴー。貴様の首、われの手柄としてくれよう。」
リゴーは馬を降り、リオネンの前に立つ。
「はぁ。はぁ。」
武が悪すぎる。リオネンは右足を負傷していて満身創痍のうえ、武器は貧弱なレイピア。対するリゴー
は無傷なうえ、武器は大型のハルバード。
だがリオネンの目的は、1分でも1秒でも持ち堪え、来るとも知らない援軍を待つことであった。
「来ないのか?」
「・・・。」
「ならこちらから行くっ!」
「-ッ!!」
リオネンはリゴーの右上からの振り下ろしを受け流したが、刃が交わった時の衝撃が右足に響く。
「うぐっ!?」
「せいやあああっ!!」
今度は振り上げ。構えた剣は簡単に弾かれる。
「っ!いやああっ!」
鋭い突きも足に力が入らす剣先が遅い。
「はっ!」
リゴーはハルバードを水平振り軽く逸らす。
それでも、リオネンは健全は左足を軸に体を縦方向に一回転させながらレイピアを振り下げる。
「-ッ!」
まさか体制を崩された状態から攻撃を加えてくるとは思いもよらなかったが、リゴーは咄嗟にハルバー
ドを両手で水平に構え受け止める。
易々と押し返し右上からハルバードを振り下ろす。
だがリオネンは右半身を引き、前髪数本を犠牲に回避する。
「はぁぁっ!!」
リゴーは攻撃の勢いで胴体に大きな隙が生まれていた。そこにリオネンはレイピアを左手に持ち替え、
左足で踏み込んだ一撃をリゴーの心臓目掛け打ち込む。この時リオネンは思ったであろう、「獲っ
た!」っと。
「-ッ!!」
「なっ!?」
だが、リゴーは自由な状態に合った左手でレイピアの剣先を掴み、リオネンの渾身の一撃を受け止め
た。
そして今度はリオネンの方に大きな隙が生まれた。
「ぬわぁぁぁ!!」
「-グハッ!」
リゴーはハルバードを振り返りながら大きく外側に振り払う。その一撃をリオネンは諸に腹部に喰らい
胃酸が逆流し唾液と混ざり口から漏れる。そして仰向けのまま地面に叩きつけられる。
この時に当たったのはハルバードの刃ではなく柄の部分であったのが不幸中の幸いであったであろう。
「ゲホッゲホッ」
だが余りの衝撃に咳き込み動けなくなる。
「ふんっ!」
リゴーはリオネンのレイピアを投げ捨て、そんな状態のリオネンの右足をリゴーは踏みつける。
「ぐああぁぁああああ!!!」
リオネンは今まで感じた事の無い痛みが脳内に響き渡り、頭を抑えもがき苦しむ。
「はっはっは。いい声で鳴いてくれるなあ。」
右足を抱えて痛みを堪えるリオネンの胸倉をリゴーは左手で軽々持ち上げる。
「首を取るのはやめだ。」
「・・・っ!?」
「お前は奴隷商に出せば高く付きそうだ!散々こき使った後、売りとばしてやる!最後の最期まで我の為
に尽くす。素晴らしいだろぉ?」
「ぷっ。」
リオネンはリゴーの頬に唾を吐いた。
「下賤な野郎にはこれがお似合いだよ!」
「この・・・っガキィイイッ!!」
リゴーは自軍の中にリオネンを投げ入れた。
「そいつを好きにしてよい。殺すもよし、すべてお前らの自由だ。」
「(ここまでか・・・。クローディア、ごめん。)」
リゴーの言葉に己の終わりを悟る。
しかし・・・。
「リゴー様ー!」
ボロボロの兵士が走って来た。
「何だ!?」
「輜重部隊が攻撃を受けています!」
「何っ!?ジュッシュの攻撃か!?」
「いえっそれが-」
キィィィイイイイイイイイイゴォォォオオオオオオオオオオーー
リオネンとボルドアス兵の頭上を巨大な翼鳥が通り過ぎる。
その羽と胴体には赤い丸がクッキリと描かれていた。
「太陽・・・。日本が・・・、来てくれた。」
誰にも聞こえないその言葉と共に、リオネンはその時を待つ。