一室
ジュッシュ査察団がホテルに到着してすぐに昼食会が開かれた。公国では貴族階級の人が食す様な料理の数々であったが、日本では無論高くつくが一般庶民でも食べれという。つまり、公国よりも日本の方が裕福だということだ。
その後同じ会場で日本国の紹介と今後の予定に関する説明を受けた。その中には梅津が言っていた「面白い物」と思われる物も含まれていた。
「陸上自衛隊 富士総合火力演習」
ジュッシュ査察団はその来賓として招かれていた。
「(情報の伝達が早い。わずか数日で5000㎞近く離れた場所に伝えるなど、戦略の幅が大きく広がる。武器や軍艦は手に入れられずとも、このシステムは是非とも公国軍に取り入れよう。)」
戦争で最も重要なのは、補給線を通信手段の確保である。
日本の通信手段を丸々コピーすることは当然の如くジュッシュ公国には不可能である。が、狼煙や早馬といった日本で言うところの戦国時代に活用されていた連絡法なら、ジュッシュでも実用化できた。
ボルドアス帝国との戦争状態と防戦一方から膠着状態、あわよくば攻勢に出られるように、ルフトとクローディアの決意が固まった。
夜・・・。
与えられた部屋でルフトが報告書に作成に手間取っていた。
本来なら旅の疲れを取りたいところだが、さっさと仕事を終わらせたいという思いであった。
「(日本の力は公国はおろか帝国をも凌駕している。公都に現れた空飛ぶ箱もそうであるが、港や町の規模もジュッシュ公国の全てが足元に及ばない。ボルドアスとの戦争に勝利するため、公国の発展のために日本との同盟は必要不可欠で-)」
グシャグシャグシャ
ルフトは報告書を握りつぶす。
「これは日本側に肩入れしすぎている。それに、目的は日本軍の力を査察すること・・・。あ~あ。なんで報告書の一枚や二枚、すらすら書けないんだろう?」
自問自答しても仕方なく再びペンを手にするが・・・。
コンッ コンッ コンッ
ノック音した。
「はい?」
「クローディアだけど・・・。」
かすかな声で名乗る。
大臣だったら追い返そうと思っていたが、ルフトも実妹となるとそうともいかずに扉を開ける。
「どうした?こんな時間に?」
「・・・。・・・。」
クローディアはそわそわして、視線も定まってなく落ち着きがない。
ルフトはこの状態のクローディアのことはよく知っている。幼い頃に父を事故で、母を病気で失い、妹
一人を残して夜遅くまで家に帰ることがことが多かった。そんな時のクローディアもまた、そわそわして
視線は定まらず落ち着かない様子であった。近寄り呼びかけると、勢いよく抱き着き、泣いた。
「(寂しがっているのか)入りな。」
ルフトはクローディアを部屋に入れ、自身はベッドに腰掛けると・・・。
「・・・!!」
クローディアを胸に抱き優しく頭を撫でた。
「おねえ・・・ちゃん?」
今にも泣きだしそうなかすれ声でルフトを呼ぶ。
「大丈夫。お姉ちゃんは側に居るから。」
「うん・・・。・・・うん。」
そのままベッドに横たわる。
だがクローディアは今にも泣き出しそうな顔をしている。
「・・・。そんな顔するなよ。お前ももう二十歳なんだろ?」
「・・・。二十一・・・。」
「・・・。明日の事言ってないか?」
「ダメ?」
「いいよ。」
「じゃあ、少し早いけど、お願い聞いてもらっていい?」
「なんだ?」
「腕枕して?」
「あいよ。」
ルフトが左腕を差し出せば、クローディアはその上に頭を乗せる。
そして、ルフトに擦り寄り、両足を右足に絡め、胸に顔を埋める。
「おい、ここまでするとは-」
「姉冥利に尽きるんじゃない?」
実際二人しかいない家族である。
こうやってクローディアを愛し愛される。ルフトにとってこの上ない喜びである。
「まぁ・・・。それもそう・・・。クローディア?」
だがそれは、クローディアにも同じことが言え、それからくる安堵感からかクローディアは直ぐに寝てしまった。
「・・・お休み。」
そんなクローディアの額にルフトは自身の唇を触れさせ、後を追うように安眠に入った。