ジュッシュ査察団 出発
ゼーベルムート 屋外集会広場
いつもなら公国民の憩いの場であるが誰も居ない。いや正確には広場に通ずる大通りや路地を警備兵が塞ぎ、そこに何事だ何事だと市民が集まっているのだ。
入れない理由は単純で、日本の要求で一時的に立ち入り禁止になっているからだ。
その広場のほぼ中央に、視察団メンバーのクローディアが一番乗りとして立っていた。
「クローディア様。」
警備役には近衛兵や陸軍のほかにクレー、ハーゼ両騎士団が就いている。
「あら、リオネンは?」
「それが、今朝呼びに参ったのですが、「腹と足が痛いから無理」と言う物でして。」
「はっはは。」
乾いた笑いを返す。
リオネンの体調を伺ったクローディアであったが、実際のところ、自分はそうなることを昨日のうちに知っていた。
ルフトの鉄拳をモロに喰らって、壁に叩きつけられ右半身から落下するのを隣で見ていたのだから。
「何か御存知ですか?」
「いえ。私は何も知りません。」
なので、こんなの完全な嘘である。
そうこうしていると・・・。
「おはようございます。クローディアさん。」
日本の外交団が来た。
「おはようございます皆さん。昨晩は良く眠れましたか?」
「ええ、それはもうぐっすりと、あと残るは・・・。」
「姉様とホルステ様だけですね。」
少しして、馬車が現れた。
「良い天気だな諸君!さて、日本はどのような余興を見せてくれるのかな?」
残るホルステとルフトだけでなく、シュヴァーベン公王まで付いて来た様だ。
「もうすぐで、迎えのものが来ます。」
谷川はそう言うと西のほうを見る。
それにつられ視察団も西を向く。
「何か見えるか?」
ルフトがクローディアに問う。
「箱・・・。三つ・・・。いや、五つ・・・。」
クローディアの脳裏には、ゼーレフォン沖に停泊していた『いずも』から同市内に送り届けてくれた飛行物体に似た物が2つと、若干細身であったが種類的にはそれらに類似する物と考えられる物が3つ映った。
どうやら当たっているらしく谷川が梅津に聞く。
「これですか?クローディアさんの「心眼」っていうのは?」
「そうだ。恐ろしいだろ?」
「はい。まったくです。」
外交においても、軍略においても、相手に考えや隠し玉を見破られる事ほど恐ろしいものは無い。
そして・・・。
「来ました。」
ゼーベルムート全域に『ワルキューレ騎航』が響き渡る。
「あいつ等ワーグナーを流してやがる。」
「空の戦列歩兵にしては数が足らないけど。」
日本側は呆れ、
「見たこと無い種類も居るわね。」
「なんと面妖な。」
ジュッシュ側は驚愕する、
ジュッシュ公国・公都ゼーベルムートに姿を現したのは、3機のAH-1Sコブラと2機のSH-60Jであっ
た。
爆音を轟かせ、SH-60J2機は広場に着陸した。
「さあ皆さん!ロクマルに乗って下さい!!」
谷川はジュッシュ側の三人に登場するよ促すが、彼女等にしてみれば得体の知れない箱の中に入るな
ど、棺おけに詰められるのと同等であった、が・・・。
「早く行きましょうよ!」
クローディアがホルステとルフトを急かす。
「ほら早く!」
とうとうルフトの背中を押す。
「やめろ!大臣の前でこんな仕打ち・・・!面目が立たんではないか!!」
「一向に動こうとしないのが悪いんです!」
クローディアは実姉である事などおかない無しにルフトを荷物の様に機内に押し込みそのまま自身も搭
乗し、ホルステも恐る恐る乗り込み、最後に谷川が乗り扉を閉める。
2機のSH-60Jは上空で待機していたAH-1Sと共に西に向かう。
そのSH-60Jの機内では・・・。
「わぁ~。公都ってこんな感じなんだぁあ。」
クローディアは好奇心を露にし、
「主よ、どうか我をお守り下さい。」
ホルステは加護を得ようと神に祈り、
ルフトは・・・、
「もう終わりだ・・・。私の団長人生全部・・・。」
「そんな大袈裟な。」
失意し谷川に慰められていた。