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ミトスター・ユベリーン  作者: カズナダ
第1章 同盟の幕開け
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対価

ゼーレフォン沖海戦の翌日、日本国外交官と一部の武官はクレー・ハーゼ両騎士団護衛のもと、ジュッシュ公国公都「ゼーベルムート」に入った。


 ゼーベルムート 外交議事堂

 特別応対室に案内される。この部屋は外交交渉において最重要の事態にのみ開かれ公王も参加することなっている。


 椅子は人数分用意され、上座には一つだけ豪華に装飾さえた玉座を思わせる物があった。


「こんな質素な準備しかできず、申し訳ございません。」


 クローディアが頭を下げて謝るが・・・。


「いえいえ。逆にあんな感じで飾られるのは苦手で・・・。」


 日本国外交官・的場が指さしたのは公王の椅子であった。


「やめてください!」


 血相を変え、クローディアは腕を払った。


「貴方の今の行為は公王を侮辱するもの!命を救っていただいた恩に免じ見なかったことにしますが、本来なら不敬罪で斬首です!」


「いっ以後気をけます。」


 この世界では全面的に外交のやり方を改める必要があると痛感した。


 夕刻、日本が異世界転移後初となる外交交渉が始まる。

 開始予定時間10分前には、日本国外交団が着席していた。


日本国

 ・的場 外務副大臣

 ・西村 大臣補佐官

 ・梅津 第1護衛隊群司令

 ・谷川 ヘリコプター搭載護衛艦いずも艦長


 5分前にはジュッシュ側に高官が入ってきた


ジュッシュ公国

 ・シーラッハ 公国首相

 ・オームゼン 外務長官

 ・ホルステ 陸軍大臣

 ・ルフト 近衛兵団団長


両国仲介人

 ・クローディア クレー騎士団団長

 ・リオネン ハーゼ騎士団団長


 日本側にもジュッシュ公国側にも軍属が出席している。日本にしてみれば有り得ないことであるが、これはジュッシュ側の出席者を知っていたクローディアの提案によるものであった。


 余談だが、ルフトはクローディアの実姉である。とは言え妹のクローディアとは違い耳は普通の人間の物であった。そのため彼女には外見上のコンプレックスは無いものの、その勝気な性格から異性との付き合いが長続きしない事を気にしていた。

 またクローディアの親友、リオネンもまたルフトを『姉貴』と呼ぶぐらい親しい仲であった。


 開始時刻になると・・・。

「公王陛下のぉぉぉ、おなぁあありぃいいい。」


 この言葉と共に室内の者全員が立ち上がり、ジュッシュ公国公王シュヴァーベンを迎える。

 シュヴァーベンが上座に座ると一泊を置き全員が席に着く。


「ではこれより、公王シュヴァーベン陛下の名の下に、ジュッシュ公国と日本国の外交交渉を行う。」

 進行役がそう言うと、オームゼンが手を挙げた。


「日本・・・と言ったか?公国は貴国を新興国家と見ている。どのような国なのか教えていただけるかな?」


 的場が対応する


「我が国は貴国の西方約4500㎞の海上に転移した島国です。面積は約38万㎢、人口約1億3000万人です。」


 ジュッシュ側は動揺する。


「馬鹿馬鹿しい。公国でも面積約78万㎢、人口も約8000万人だ。」


「だいたい、4500㎞西の海上に転移など、お伽話にもならん。」


 シーラッハとホルステはこう言うが・・・。


「転移の原因については不明で現在でも調査中です。」


 いたって冷静に対応する西村であったが、ルフトを除く三人は興奮状態であった。


 見かなたシュヴァーベンは手を挙げ制止させる。


「日本がどの様な国なのかなどどうでも良い。現にボルドアス帝国と戦争中の予が知りたいのは日本と国

交を結ぶことで公国にどのような利益があるか、だ。」


 その事に三人は我に返りうずむく。そしてルフトは仲介人として在席する実妹、クローディアに問いかける。


「クローディアよ、日本と手を組めばどのような利益が生まれる?」


「それについては、私だけでなくリオネンからの発言も許可してもらいたい。」


「陛下、どうしますか?」


「許可しよう。」


 二人から紙の束が配られた。


『ゼーレフォン沖海戦に関する戦闘経過の詳細』


「これなら知っている。神のご加護を得た我が軍が敵を一掃したのであろう?」


「その通りです。そして、その神こそ日本なのです。」


「どう言う事だ?」


「そこに書いてある戦果は全て日本軍によるものです。」


 戦闘経過は次の通りである。

1・海戦前夜、クローディアが病に倒れる。

2・クローディアを欠いた守備隊の士気は低下。正午にボルドアスの大船団が現れる。

3・攻撃準備に入る敵船団の更に西から深緑の細長い空飛ぶ箱が三つ飛来する。

4・その箱は町の上空で向きを変え敵船団に白く光る矢を大量に浴びせ8割を殲滅した。

5・逃走を図った敵旗艦を含む10隻は、灰色の巨大船7隻の砲弾の前に撃沈。この時巨大船が放った弾数は10発であった。

6・海戦後-


「こんな物、誰が信じる!?」


 シーラッハは再び血気立つ。だが、ルフトは・・・。


「だが当事者が目の前に二人も居る。・・・これは、どっちが書いたのだ?」


 別の部分に注目した。


「経過はあたしが見たものだよ。」


「誰がクローディアを助けた?」


「これに記してあることは全て日本軍によるもの、私はそう言いました。」


「日本軍が助けたと?」


「書いてあることが全て嘘であっても、私達はここに居ます。」


「・・・何が言いたい?」


「全て嘘なら、私達はここに居ません。」


「そうか・・・。」


 ルフトは梅津の顔を見る。


「・・・。梅津提督。」


「!?どっどうされた?」


 梅津は、いきなり呼ばれビックリした様であったが、


「クローディアを、妹を助けてくださったこと、この場を借りて感謝申し上げる。」


 ルフトは深々と頭を下げる。


「何をしている!?こんな連中に頭を下げる義理など-」


「貴殿等に無くとも私には有る!クローディアは、私のたった一人の家族なのだからな!!」


「落ち着け!」


 シュヴァーベンが再び制止させる。


「ルフトよ、神聖な外交の場に私情を持ち込むでない。」


「はっ!申し訳ございません。」


「ふん。オームゼンよ。」


「はっ。」


「話を進めよ。さっきから全く進展がない。このままでは朝になるぞ?」


「御意。的場殿よ、日本は公国に何を求める?」


 ようやく交渉が流れに乗った。


「第一に食料、第二に資源です。」


「食料?」


「ハッハッハッ!」


 オームゼンの間の抜けた返事にシュヴァーベンは高笑いする。


「食料が欲しいと?なら運が良いなあ。公国の国土は、その約7割が穀倉地帯でな。隣国の「キシュキ

ダー」に麦や野菜を売っている。それでもまだ余るぐらいだが。」


「年間どの程度ですか?」


「多すぎてわからん。」


「年間約4000万tです。」


 シュヴァーベンは諦めたが、クローディアがすかさず割って入る。


「ああ、そうであったな。いやぁ民や家畜、隣国に分け与えてもそれだけ余るのだから困ったものよ。」


「ではその4000万t、日本が買い取ります。」


「何と!!?」


 ジュッシュ側全員の度肝を抜く発言であった。


「かっ金は払えるのか!?公国内ではタダ同然でも国外に売るとなれば話は違う!」


「勿論承知しています。ですので正式な為替が成立するまでは日本の技術力を提供します。」


「技術?」


 的場から資料が渡される。


 その中には生産中の自動車、建造中の10万t級の貨物船、天高く伸びる高層ビル、どれもこれもジュッ

シュ公国の力では作れない物ばかりであった。


「余り余った麦や野菜で公国がさらに豊かになる。」


「魅力的ではあるが、足らんな。」


「は?」


「日本は軍事力も提供せよ!」


「なっ!?」


 日本が最も恐れていた要求であった。


「当然であろう?仮に日本の技術で公国が発展しても、外敵から守れなくては意味ないであろう?」


「日本は武力の行使を憲法と法律で固く制限されている。そう易々と提供できるものではありません。」


「なら交渉は決裂だな。」


 ジュッシュ公国と貿易すれば日本の食糧問題は解決に大きく傾くが、ここでも憲法が足を引っ張る。


「貿易できないなら、一つ提案があるのだが?」


 梅津が何か思いついたみたいだ。


「ほぉ~。どんな提案だ?」


「日本は先週、ボルドアスから攻撃を受け戦争状態にあります。我が国は早期講和を目指している。それ

を実現するまでジュッシュ公国に協力を仰ぎたい。」


「つまり自分たちがボルドアスを相手にするから、公国は食料をよこせと?」


「そうなりますな。」


「よかろう。だが条件がある。」


「条件?」


「ホルステ、ルフト。」


「「はっ!」」


「日本へ赴き軍事力を確かめよ。公国の役に立たぬと判断した場合、二人の権限で提案を拒否せよ。」


「「ははっ!」」


 クローディアは気の毒に思い梅津達を見たが、彼等は肩を震わせ笑い出すのを堪えていた。


「力を見せろ。それが貴国の条件ですか?それでしたら八月末にとっておきの催し物があります。」


「八月末って一週間後ではないか?」


「問題ありません。日程は公都から一時間でゼーレフォン沖の護衛艦に乗艦に三日掛けて日本の港、横須

賀に行きます。」


「・・・?」


 ジュッシュ側の一同は再び動揺する。自分たちの常識では考えられない時間配分であった。


 この会議で決まった事は、ホルステ、ルフトの二名は日本へ行き軍事力を視察し、その結果次第で今後の交渉を進めるというものであった。


 閉会後・・・。

「姉様。」


 帰り支度を整えるルフトをクローディアが呼び止める。


「何だ?」


「私達の同行を許可してもらいたいのですが。」


「遊びに行くんじゃないんだぞ?」


「なぁ頼むよぉお。それに姉貴見張ってないとすぐ男と夜あそ-、ぐえっへ!!」


 リオネンはルフトの鉄拳を腹部に受け、吹き飛ばされる。

 その拳に怪我人だからと言う手加減は一切無かった。


「それは禁句・・・。」


「それで、本心は?」


「ああ、私達、国交樹立までの間日本の手助けをすると決めているんです。」


「助けてもらった恩からか?」


「それもありますが、私には手助けをするうえで必要となる知識が不足しています。ですが、日本に行け

ばそんな事は無くなります。」


「そうだなぁ。なら私から話をつけておこう。」


「!・・・ありがとう!」


 気絶したリオネンをよそに、クローディアの来日も決まった。


 全て密偵に聞かれているとも知らずに・・・。

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