いずも会談
「ううん・・・。」
リオネンは目を覚まし気を失う直前まで覚えていた事を思い出す。が、視界に映る光景はそれとは全く
違うものであった。
「ここは・・・、天国・・・?」
口には半透明の何かが被さり、両腕には少し太い糸が繋がれていて、ピッピッピっと不気味な音が響いていた。
「違う。」
「!?」
クローディアの声がする。体を起こすとするが激痛に襲われ起き上がれない。
「・・・クローディア、居るのか?」
「ええ。貴女の左に。」
その方向に顔を向ける。どうやら頭だけなら動かしても大丈夫なようだ。
「ここは何処だ?」
素朴な疑問を投げかける。
「ここまで追ってきた貴女なら分かるでしょう?」
「すまん。あんたのことに必死だったから、周りよく見てなかった。」
「馬鹿ね。」
いつもなら、「馬鹿ってどう言うことだ」と軽く怒鳴っていたが、今は・・・。
「エッヘッヘ。」
笑うしかなかった。
「失礼します。」
誰か来た。声からして女性だ。
「点滴交換しますね。」
「あの?」
クローディアが話しかけている。
「はい?」
「真ん中のカーテンをどけてください。隣の人と面と向かって話がしたいので。」
「わかりました。」
少しゴソゴソした後、二人の間にあったカーテンが無くなり、お互いの顔を視認できるようになった。
「ヒドイ格好だな。」
「お互い様よ。」
二日後、クローディアとリオネンを縛り付けていた糸がはずれ、動けるまで回復したが、右足を挫いているリオネンには松葉杖が提供された。
「部屋の外に居る人に付いて行って下さいね。」
クローディアとリオネンは着替えて準備をする間に星野から次の事に関する指示を受ける。
「貴女まで来なくても良いのよ?」
「いぃや。付いて行くよ。」
「そんな足で?無理しないほうが・・・。」
それでもリオネンは「付いて行く」と言って聞かない。そうゆう頑固なところがリオネンの悪いところ
であったが、クローディアはそこが気に入っていた。
部屋の外には白いピシッとした服の男が居て言われたとうりに付いていく。
「ちょっと!クローディア手ぇ貸してぇ。」
狭い急階段は松葉杖状態のリオネンにはやはり辛いようだ。兵士達からは猛将と称えられているとは到底思えない情けない声で助けを呼んでいた。
「だから無理しないでって言ったのに。」
クローディアはブツクサと文句を言いつつもリオネンに手を貸す。
やがて「艦長室」という部屋の前まで案内され入るよう促される。
中には案内した人と同じような人が居たが、直感的にこっちの人の方が上の立場であると分かった。
「日本国海上自衛隊第1護衛隊群指令の梅津です。」
「ジュッシュ公国クレー騎士団長のクローディアです。」
「同じくハーゼ騎士団長のリオネンです。」
用意された椅子に座り、会談が始まる。
「早速ですが本題に-」
「その前に助けていただいた事に返礼をしたい。」
「そのお気持ちだけで-」
「いえ。私達だけでなく、ゼーレフォンに住む民まで救ってくださった。何か御礼をしなければ気がすまない。」
頑固な性格のリオネンに困り果てる梅津であったが、この後クローディアから驚きの発言が飛び出す。
「リオネン、それぐらいにしなさい。」
「だけどよ、あんただって同じ気持ちだろ?」
「ええ。でも相手を困らせては元も子も無いでしょう?」
「そりゃあぁ、そおうだけど・・・。」
「こうゆう人達にはこちらから提示しないと。」
「例えば?」
「そうねぇ・・・。この人達の国(日本国)と私達の国(ジュッシュ公国)との国交樹立を支援する。と
か?」
「なっ!?」
梅津は驚きの表情を隠せない。二人に頼もうとした事を、クローディアはいとも簡単に言い当てたのだ
から。
「ふう~ん。まっクローディアが言うのならそうなんだろうな。そんじゃ、あたしは黙っとくよ。」
ここからは梅津とクローディアの一対一であるが・・・。
「医学と軍事力はこの身を持って実感したのとリオネンから聞いたことで多少は理解していますが、貴国
の事はまだよくわかりません。」
「かっ簡単な資料があるので、拝見していただければ・・・。」
梅津は資料を鞄から出そうとしたが・・・。
「人口約1億3千万人、面積約37万8千k㎡、四季はとても鮮やかで美しい。美味しそうな料理もたくさ
ん。」
「・・・・・・。」
梅津は汗を流し固まる。これから説明しようと内容を全て言い当てられているのだから。
「・・・、クローディアさん。」
「何ですか?」
「これはあくまで非公式な会談です。」
「それがどうかしましたか?」
「もしこれが正式な外交交渉であったなら、我々の完敗です。」
「そう言われましても、私はその場の思い付きで言っただけなのですが。」
不適に笑うクローディアに梅津の背筋が凍り付いた。
この日の昼食は海自定番のカレーライスであったが、会談のこともあり、梅津のスプーンは一向に進まない。
片やクローディアとリオネンは・・・。
「かっらああああああいっ!!」
「お水・・・、お水を・・・。」
子供のように辛さにもがいていた。