第一話 始まりは唐突に
第一話です。前に書いていたころは途中で息切れしてしまったので今回は必ず完走できるようにゆっくり更新していくつもりです。感想やアドバイスを頂けると作者のモチベーションにつながるのでぜひお願いします。
それでは短いですが第一話をどうぞ
いつもと変わらず日が昇り、時間がたてば日が暮れる。あるものは自作の作物を売り、あるものは料理を提供するもの。また、とあるものは勉学に励み、また別のものは子供のために身を粉にして事務仕事に精を出す。そんな当たり前の日常を過ごしているのが世の中の大多数なのだろうが、ここラギル公国で少しばかし状況が違う。
この国には他の国がうらやましくてたまらないものを有している。ダンジョン、迷宮、怪物箱などと様々な呼び方が存在する洞窟が存在する。どうして国の中にこのようなものがあるのか定かではないのだが、そこに国があるのは危険を度外視するほどの利益が存在しているからだ。ここでは仮に怪物箱と呼ぶがその怪物箱内部にはこの国を丸々支えられるだけの資源となりえるものが眠っているためだ。
もちろん、その資源を採取するのには危険が常に付きまとうため最初の頃はやからの持ち腐れだった。しかし、とある日にギルドという組織が立ち上げられ怪物箱を探索するものをサポート始めるとあっという間に冒険者と呼ばれる怪物箱探索で生計を立てるものが大量に現れたのだ。一度の探索で巨額の金銭を稼ぐことが可能なため増えていったのだろうが、その反面怪物箱内で命を落とすものも多い。
この極限のハイリスクハイリターンに身を投じる命知らずの冒険者がこのラギルには毎日のように集まってくるのだ。そんな今日もとある青年が一人この国へとやってきた。
「まったく、親にあれだけの啖呵を切ってラギルまで来たはいいものの、移動だけでもう財布はすっからかんか……」
地元王国から着の身着のまま家出に近い形で出てきた青年ルネは早々に困り果てていた。小さい頃絵本で読んだ冒険者に憧れ、冒険者が集まるラギルに親の反対を押し切ってきたもののそんな親からお金を借りられるはずもなく今日の夜泊まる宿代もないありさまだった。
このままでは冒険者になる前に路地裏で飢え死にである。そうならないためにも、羞恥を捨ててでもなにかしらの手を打つべきなのだがあいにく彼はそうすることはないだろう。
彼はラギル公国から少し離れた小さい国の中心貴族の息子である。育ちが貴族のため他人に施しを乞うのはプライドが許さないのだろう。貴族の彼が冒険者になるために貴族の肩書を捨てたことを彼のことをよく知る人からすれば驚くことだろう。それだけの覚悟がるなら多少のプライドは捨てるべきだろう。
「腹も減ったけど食うものを買う金もないし、いよいよやばいな」
そんな途方に暮れているルネのもとに近づく一人の女性がいた。男の中では小柄な部類に入るルネと同じくらいの背丈である。制服を着ているところをみるとどこかの組織に所属していることは明らかだろう。
ルネの小さなプライド知る由もないその女性は小さい頃から続けている困っている人を見かけたら助けるという一つの使命感ともいえるものにかられ声をかけるのだった。
「あの、何かお困りでしたか?」
背後からいきなり知らない女性に声をかけられたルネは驚き自然とその女性から距離をとるのであった。一種の防衛本能に近いものなのだろう。知らない人にいきなり声をかけられたらリアクションに大小はあるだろうが警戒するのは当然の反応だろう。むしろ、まったく警戒をしない人間はただのお人よしか相当のバカではないだろうか。
当然の反応とはいえ親切心から声をかけたこの女性からしたら多少なりとも傷つくものがあるだろう。そんな気持ちはつゆ知らないルネは突然声をかけてきた女性をにらんでる。ほかっておいてくれと言っているように。
そんなルネの気持ちは華麗にスルーされて女性はルネに一歩、また一歩と近づく。
「なんなんだよ、俺に何か用でもあるのか?」
「いえ、この街に慣れてなさそうで困っていたのでつい声をかけてしまいました。ご迷惑でしたよね、すいません……」
ルネに睨まれてしまった彼女は肩をすくめ立ち去ろうとしたのだが、背後からグーという大きな音が聞こえ振り返ると、ルネが真っ赤な顔をしてお腹を押さえていた。
「すまん…… お金ないから飯を奢ってください……」
ルネを連れた彼女が向かった先はこの国の中心に存在するギルドであった。ギルドに連れてこられたことに気づいたルネはタダで食事にありつけると思っていたのか明らかに落胆している。誰もが食事をしにギルドに行くわけないからである。今日、別の国からやってきたルネにもそれくらいは理解できていた。
そのことに気づいたのか彼女は勘違いされないように慌てて説明を始めた。
「私はここ、ギルドで普段働いている職員なんです。それで、今ならギルドの社員食堂に何かあるともって」
「そうだったのか…… わざわざありがとう。てっきり、不審者と間違われてギルドにでも突き出されたのかと思ったわ」
そんな、彼の発言には彼女も苦笑いを浮かべるしかなかった。そんな、やり取りをしているところにギルドからまたもやギルド職員とみられる女性が姿を現した。
「ティルス、いつまで外で油を売ってるんだい早く仕事にってそいつは誰だい?」
「フュルネさんすいません、帰り道に困ってる人を見つけてしまってつい……」
まるで捨て猫を拾ってきたかのように状況を説明するティルスにまたかといった感じでフュルネは頭を抱えざるおえなかった。ギルド内ではティルスは誰にでも親切で冒険者からの評判は非常にいいのだが、同じ職員同士になるとまたきれいなくらい逆転するのだ。
事務仕事は苦手、簡単なミスを繰り返す、問題に自ら首を突っ込むなどあげられたらきりがないほどである。俗にいう、かなりの天然なのだ。それも、彼女自身は無自覚であるのでたちが悪いのだが……
そのため、ティルス=トラブルメーカーという図が職員の間柄で自然となり立っているのだが幸い、ミスは多いものの仕事に対しては誠実でまじめなティルスの性格をよく知る職員たちは男女問わず、またティルスかといった感じで手を貸しているのだ。そのおかげで何とか仕事を全うできているといっていい。
そんな心の優しい職員が多いのもここの支部長しているフュルネの人柄といったところなのだろうが。
「そうか、であんた名前は?」
「ルネ=ニールです」
ルネの名前を聞いてフュルネは思うところがあったのだ。ルネの姓であるニールは彼女自身の出身地にほど近い国の主要貴族の姓であったからだ。
貴族は例にたがわず、冒険者やギルド。大きくいえばこの国自体をあまりよく思っていないことが多いのだ。モンスターと戦うのは野蛮だの、怪物箱は完全に封鎖するべきだと思っているのだ。ラギルにいる貴族は怪物箱からの利益を直に受けているので例外ではあるが……
このラギルは怪物箱での利益でここまで国が大きく成長したことは間違いなく怪物箱を封鎖するなどこの国に住む人々なら考えもしないだろう。
「そうかい。ティルスこいつにさっさと飯で何でも食わせてやりな。貴族は我慢が大の苦手だからね」
「あ、はい。ちゃんとした自己紹介がまだでしたね。自分はティルス=ストラスです。さ、ルネさんこちらへどうぞ」
ティルスに連れられてギルドの社員食堂へと案内されるルネであった。
やっとのことで食事にありつけたルネは一安心する間もなくこの後をどうするか悩んでいた。お金がないのは変わりなく資金がなければろくな武器や防具も買えやしない。それどころか今夜の寝床すらないからだ。これからどうするかに頭を悩ませながらティルスにお礼を告げギルドをあとにしようと目の前にフュルネが立ちふさがった。
「何か用ですか?」
「あんた金もないのにこれからどうするつもりだい。さっきの飯代はティルスの給料から点引きするからいいけど。泊まるところもないんだろ?」
フュルネの言っていることは的を得ているためにルネ自身何も言い返すことができなかった。そんなルネにフュルネが思ってもみないことを告げた。
「ルネ=ニール、お前さんは今日からここで働きな」
「はあああぁぁぁ!?」
今日もラギル公国はお日柄もよく平和であった。ただ一人を除いては……
最後までお読みいただきありがとうございます。
更新は週1から2でできたらいいなと思ってます。ゆっくり待っていただけると助かります。
前書きでも書きましたがよかったら感想をよろしくお願いいたします。
それでは次回更新まで失礼します。