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成人の罪  作者: AT
8/15

信頼できる罪

 鎖巫子は分かっていた。三科太にどうしようと、必ずまた何かをする。その行動は人を惹きつけるだろう。ならばその人を奪えばいいと、あの女は考えたんだ。

 治代の叫んだ声は広く、皆に聞こえていた。近くにいる人は三科太達を見ている。佐剛は治代の胸ぐらを掴んだ。


「お前……何ふざけた事を言ってる。三科太がそんな奴じゃねえ!」


 治代は佐剛が掴んだ腕を軽々と外し、佐剛の胸ぐらを掴み返した。治代は佐剛の目を睨んで言った。


「本当に思ってるのか? たった数日の関係で、本当に信用しているのか?」


「それは…………俺の勘だよ」


 苦しみながらも言う佐剛は、目を逸らして答えた。佐剛の答えに治代は呆れた。


「治代、離してやれ……お前一人だけ説教部屋に行かされたが、俺達も連れて行かれて当然だった筈だ。俺があいつらの仲間でも、佐剛や窓辛も連れて行かれるだろ」


 三科太に言われた治代は、ニヤリと笑った。治代が掴んだ手を外すと、佐剛はバランスを崩して尻を着いた。


「だが俺だけでいいと、お前が裏で指図した。そう考えるのは妥当だ。お前が何と言おうと、俺はもう信用しない。俺はテストを合格する」


 治代は佐剛から離れて行った。三科太は咄嗟に引き留めた。


「待て治代。お前は知っているのか、テストの内容を?」


「さあな、そもそも知っているお前に話す必要はない。何が来ようと俺は合格するさ。もう集団で動く理由もない。あと言っておくが、あれは説教部屋なんかじゃない」


 治代はそう言い残して、三科太達から離れた。次第に人混みや物で、姿が見えなくなった。佐剛は起き上がって舌打ちをした。


「あいつ……変な事を言いやがって」


「いや、あいつの考え方は間違ってない。俺があいつらの仲間だと思うのは当然だ」


「三科太、本当は違うんだろ?」


「もちろん違う……と言っても、それが本当か嘘かは俺以外分からないだろ。だから佐剛、窓辛……あれ? あいつどこ行った?」


 いつの間にか窓辛はいなかった。周りを見渡しても見つからない。


「とにかく俺と話すのは止めとけ。お前達も疑われる。窓辛にも伝えてくれ」


 三科太は佐剛から離れようと決めた。こいつにまで、変な噂を流されないようにしないといけない。


「待てよ三科太!」


 佐剛は三科太を引き留めようとするが、いなかった窓辛が佐剛のところ戻ってきた。


「どうしたの、二人とも?」


「窓辛、お前どこに行っていたんだ?」


「あっちで飯が食ってた」


「この馬鹿! こんな時に飯を……食えるのか!?」


 佐剛は窓辛に飯の場所を聞くと、三科太をほっといて走って行った。飯の匂いは三科太の所にまで広がってくる。腹が鳴る。食べようと佐剛達の方に向かう。そんな三科太を、何人もが疑惑の目で見ている。小さな声で呟いているが、こういうのは聞こえてない様で、誰にでも聞こえてる。三科太にだって聞こえているが、何もしなかった。こんなのは無視しておけばいい。

 部屋の端にあったのは、セルフで料理を取っていく。いわゆる小さなバイキングだ。佐剛は既に取り終えて席に戻って行く。あったかいご飯、味噌汁、そして肉と野菜の炒め物という、極めて普通のメニューだ。佐剛は食べて涙を流す。ご飯がとても美味い。毎日食べていたご飯がこんなに美味いのか。

 三科太はとにかく何でもいい。とにかく腹を満たそう。取るだけ取って席に座ると、前に男が座った。他の罪人とかじゃない。白衣を着た非話だ。


「やあ、三科太君だっけ? 君は随分と面白い事をしてるね」


「あんたは何故ここにいる……鎖巫子の命令か?」


「ご名答。しかし僕と話せるのは君だけだ。なぜかって? 鎖巫子ちゃんに許可されているからだ」


「俺がお前達の仲間だと、皆に分からせるために。あの女の考えか」


「気付いていたのか。流石だね。でもそれに気付いて、君はどう行動するのかな?」


「何を言いに俺の前に来た?」


「単刀直入で、簡単な話、スパッと諦めなよ。君は正義感が強い。だがそんな君がここにいるのは、罪を犯したからだ。罪を償う必要がある。たった一度。されど一度だ」


「俺は罪を犯した。だがあの女がやる事、日本が決めた事が正しいと思わない。あんたは不思議に思わないのか? そもそも何故あの女に付いている?」


「何? 僕と鎖巫子ちゃんの関係が気になるのかな? まあ分かるよ。あんな美人を気にするのは当然さ。しかし鎖巫子ちゃんも、罪な女だぜ!」


「おい……俺の話を聞いているのか」


「何言ってるんだ。聞いている訳ないだろ」


 こいつは鎖巫子と違う意味で腹が立つ。話を通じて素直な所は、普通いい事なのに、それがムカつくのだ。三科太のそんな反応を見て、非話は馬鹿にする様に笑った。


「ハハハ、やっぱり君、面白いよ。じゃあ次は何をするのか、楽しみにしてるよ」


 非話は席を立つと、三科太の横を通って行った。この様子を見ていた佐剛は、さっきまで非話がいた席に座った。


「あいつ、何しに来たんだ?」


「さあな……て、あまり俺と話さないほうがいいと、さっき言っただろ」


「分かってる三科太。もし頼みがある時は言ってくれ。俺はお前を信頼しているからな」


 さっき俺より飯の方に行った男がかっこいい事言うじゃないか。


「もう一つ」


 それは佐剛の声じゃない。三科太が振り返ると、非話は後ろに立っていた。不意を突かれた三科太は驚いた。非話は笑顔を見せた。


「正しい事が本当とは限らない」


 そう言うと非話は振り向いて歩いて行った。三科太はなんの事か分からなかった。問い詰めようと非話を呼び止めた。


「おい待て!」


「なんだよ!なんでダメなんだよ!」


 非話ではなく、違う男の声が聴こえてきた。部屋の端にある食事を取る場所からだ。どうやら空楽だ。太っていたが、ここ数日で大分痩せている。こんな生活で痩せてない方が変だが、太っていたから余計分かる。口喧嘩の様だが相手は曽手だ。


「お前は飯を食う資格はねえんだよ! いつも集団行動をミスして、足を引っ張ってよ。もっと痩せろ!」


「俺だけじゃない! 何で信じてくれないんだ」


「お前しかいないんだよ。このノロマニート」


「ニートじゃない! 俺はゲームの実況動画を公開してる。ネットでは結構有名なんだぞ!」


「知るかオタク! てめぇがしっかりしねえと、俺達まで死ぬかも知れねえんだぞ!」


「どういう事だよ?」


「こんだけ練習したんだ。テストは多分、集団行動だ」


 曽手は予想したが、三科太はそれは無いと、すぐ判断した。なぜならそれでその人が正しいかどうかなんて、分からないからだ。三科太はそれよりも、空楽が言った言葉が気になった。佐剛に聞いてみた。


「なんであいつ、あんなに言われてるんだ」


「気付かなかったのか? 空楽の奴、集団行動でよくミスしていたんだよ」


「ふうん……」


 三科太はハッと気付いた。非話がいなかった。あいつにはまだ聞く事があるのに、いやその前に、あいつはちゃんと答えるのか。迷ってる暇はない。

 三科太は立ち上がった。非話を探し出そうと決心した。だが窓辛が目を輝きながら、三科太の所に向かって来た。


「凄いよ三科太、ここ二階もあるよ。あと体育館っぽい所もあったよ」


 三科太は座った。非話を探すのは諦めようと決心した。




「ふむふむ。順調順調」


 鎖巫子は机に寄りかかって、コーヒーを飲みながらモニターを見ていた。この部屋には沢山のモニターがあり、そこには罪人達が映っている。


「順調なのはいいが、この様子だと、受かるのは少ないだろうな」


 椅子に座っている亜道は溜め息を吐く。


「それでこそ順調ですよ」


「それにしても、非話に見廻りを任せてよかったのか?」


「大丈夫でしょ。彼もやる時はやる男です」




 あれから結構時間が経ったが、そろそろテストが始まってもおかしく無いと思うが。


「集合!」


 来た。部屋の扉の所に亜道が立っている。聞こえた罪人は集まったが、全員はここにいない。


「お前達何してる? 全員を集合しないといけないだろ」


 三科太は気付いた。このままだとダメだ。


「お前達! 別れて皆を呼びに行くぞ」


 三科太を含めて何人かは走り出した。だが動かない人もいる。そこには治代もいる。

 数分後。全員集まると亜道に連れて行かれた。どこかの部屋じゃない。外だ。だが空は見えず、何かに覆い囲まれている。運動場の様な場所で奥には門がある。朝礼台の周りには、黒スーツの男達が並んでいる。亜道に整列と合図を出され朝礼台の前に並ぶ。朝礼台に上がるのは鎖巫子だ。


「今から全員、これを着けろ」


 鎖巫子は上に掲げたのは黒い紐の首輪だ。着けろと言われたが、黒スーツの男達から無理矢理着けられた。首輪の中央には丸い形の玉が付いている。


「それはお前達では外れない。変な事したら電気流れるからな」


 簡単に説明をされたが、とんでもない物を着けられてしまった。


「今からお前達は、あの門を出て、街に行ってもらう。そして今から渡す紙の内容を遂行して来い。制限時間は三十分だ」


 皆は単純に聞いていたが、三科太は同じてつは踏まない。


「今何時か教えろ!」


 鎖巫子は小さく舌打ちをした。腕に着けた時計をチラリと見た。


「いい質問だ。今は九時ちょっと前だ。九時に開始だ。勿論、ちゃんと教えるつもりだったぞ」


 嘘つけ。さっきの舌打ちは何だったんだ。黒スーツの男が鎖巫子に大量の紙を渡した。


「それではこの紙を……」


 紙を見た鎖巫子は、今まで見たとても怖い笑顔でニヤけた。三科太はまさかと思ったが、鎖巫子はその思った行動をした。


「拾え! クズ共!」


 紙を投げ捨てた。大量の紙は飛び散りヒラヒラと舞い落ちる。鎖巫子は笑顔で叫んだ。


「それじゃ開始だ!」


 黒スーツの男の一人が、いつの間にか持っていたシンバルを叩いた。

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