表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成人の罪  作者: AT
5/15

裏切る罪

「美味しくない……」


 窓辛が涙を流してカンパンを食べている。


「泣くな! 余計辛くなるだろ!」


 佐剛も窓辛に言っているが、涙目になっている。食事も前と変わらないメニューだ。三科太が成人式に買ったスーツは、ここに捕まってから、もうしわくちゃのままだ。


「計画を立てて一日が経ったが、上手くできたか?」


「まあ一日って言うより、一回の授業を受けた後が正しいんだけど。あれは授業じゃなくて拷問か」


 確かに治代の言う通りだ。朝からのあの校訓、集団行動に失敗すれば筋トレを、休まず続いた。だがやらなくてはいけない。

 他の奴等も、説教部屋に行きたくない為に必死だった。あの倉負が、昨日とはまるで別人だったからだ。校訓はハッキリと言っていたが、いつも震えてみえた。どれだけ酷い事をされたのか、皆が予想してしまう。

 説教部屋に行かれない様に、俺達は調べた。そして今、五時間の休憩中に、集めた情報で策を立てる。


「窓辛、お前に頼んだ事は、外に行くルートを見つける事だったな」


「お前の言った通りやった。まずここが何階か分かればいいんだよな。トイレに行く途中に気持ち悪いと言って、無理矢理窓を開けた。黒スーツの男は、慌てて閉めたが、ちゃんと確認した。ここは二階だった」


 そうなると階段が必ずある。もし学校と同じならその近くに出口があるはずだ。

 窓辛は高所恐怖症だったため、案外高くない階でよかったとホッとした。


「次は佐剛、黒スーツの男に頼んだのは、どうだった?」


「ああ、絵を描きたいから、紙や書ける物はあるか聞いた。だがそんなものはないと言われた。次に手首が痛いから一度手錠を外してほしいと頼んだ。これはできそうだったが、運が悪く鎖巫子の奴が居てできなかった」


 佐剛の言った言葉が、三科太は不思議に思い、聞いてみた。


「できそうだった? つまり黒スーツの男は鍵を出して、手錠を外そうとしたのか?」


「ああ、だけどその時に鎖巫子がーー」


「どこから出した? その鍵をすぐに出したか? それに鍵はいくつ付いていた?」


 三科太の急な質問ばかりに、佐剛は慌ててちょっと待てと、手を三科太の顔の前に挙げた。


「たしか……腰のベルトから出した。数は二つだ」


 二つ。もしそれが手と、座る時に付けていた足の手錠なら、奪えば外せる。書くものが無いなら、黒スーツの男達はペンなどの刺す物も持っていない。すでに銃を持っていない事を、自分は知っている。つまりあいつらは力だけで、俺達を抑えるつもりだ。


「治代は武器になりそうなの、見つけてくれたか?」


 治代は話す前に、佐剛が口を挟んだ。


「聞いていた時も思っていたんだが、武器になるのとかそうそう無いぞ」


「俺達が座っていた椅子、そして机も投げれば武器だ。廊下には消火器があった。それに黒板消しだって、使い方次第じゃ武器になる。あとは……そんなとこだ」


 治代の調べに、なるほどと佐剛は納得した。治代はもう一つ思いついた。


「それにあの女! 鎖巫子は銃を持っていた。他の奴が銃を持っていれば、それを奪ってーー」


「黒スーツの男達は銃を持っていない」


 三科太に口を止められた治代は、なぜそんな事を知っている三科太に一つ聞いた。


「三科太。聞いていなかったが、お前は何か調べたのか?」


「俺は黒スーツの男達の事を調べて、人数を数えていた」


 三科太が調べていたのは、大勢の黒スーツの男達だ。それを聞いて、佐剛は鼻で笑った。


「数えていたって、あんなの数えられるものじゃないぞ」


「黒スーツの男達も人間だ。髪型、肌の特徴、癖などが見れば数えられる。例えば、佐剛の鍵を持っている奴は、口の左下にほくろがある。窓辛のは右手に切り傷を縫った後がある奴が、鍵を持っている」


 本当にあるか確かめる前に、三人は三科太の驚きの行動に、言葉が一瞬出なかった。佐剛があまりの凄さにビビっていた。


「お、お前……そんな事一日で調べたのか?」


「俺達の鍵を持った黒スーツの男達は、昨日から分かっていた。後のは一日で調べたものだから、正しいかは分からん。まず一人ずつ監視しているから三十人。この休憩中に、男女を警備しているのが三人で二人体制で交代している。そして緊急時に動く二人。説教部屋に連れて行かれる時に、この二人は動いてる。全部で計三十五人。そこに鎖巫子と年寄りの亜道、白衣を着た非話を入れて三十八人だ。あくまで俺の調べだが」


 調べた事は凄い事だ。だが三科太にとって普通の事だった。三科太は聞いた情報を整理して、どう行動するか考える。四人で強行突破は難しい。危険が多いが一人ずつ行動をするか。四人だと捕まりやすくなるし、相手を分散させれる。しかし一人だと助けは無い。

 そして問題は鎖巫子だ。あいつがどう動くか、検討がつかない。


「おい、何か策はできたか?」


 黙っていた三科太に、しびれを切らした治代は早く考えろと急かす。とりあえず三科太は、今の考えを話した。


「あの女、鎖巫子になって考えてみた。外に出る為に何重の鍵をかけてるはずさ。ならその鍵を手に入れる必要がある。見つける為に、二人ずつ別れようと思う」


「それでいいじゃないか。何を悩んでいる?」


「俺がまだ知らない事がある。本当に大丈夫だろうか? もう少し調べた方がいいんじゃないか」


「三科太……この状態じゃもう調べようがない。もう賭けになるが、するしかない。他の奴等が下手に脱獄して、警戒が強くなる前に……」


 治代の言う通りだ。治代の言葉を聞いて三科太も決心した。


「よし、これでいこう」



「それでは朝の朝礼、始め」


 朝なのかは、三科太にはよく分からないが、この朝礼は始まった。いつも通り一人ずつ立って、声を出している。そこに一人、治代が手錠された手を挙げた。


「すまない。気分が悪くて……ちょっと休ませてくれませんか?」


 治代の言葉に少し疑惑を持っている亜道だが、少し考えて答えを出した。


「……いいだろう、保健室に連れて行け」


 治代は黒スーツの男に、辛いからゆっくり歩かせてくれと頼んだ。そして教室から出ていった。

 黒スーツの男は治代の後ろを歩いていたが、あまりの遅さに、黒スーツの男はイライラしていた。


「もう少し早く歩けないか」


 分かったと治代は言うと、少しだけ足を早く動かした。随分と教室を離れた事を確認した治代は、急に座り込んだ。


「おい、どうした?」


 近くに来た黒スーツの男を治代は押し倒した。そして上に乗り、口を手で塞ぎ、首を絞めた。


「安心しな。気絶させるだけだ」



「まず一人が保健室に連れて行かれる」


 三科太の一つ目の策を出したが、佐剛はちょっと疑問があった。


「保健室なんてあるのか?」


「ある。あの非話って奴は、多分病人の対処する人間だ。だからそういう場所があるだろう。これは行く途中、教室から離れて、黒スーツの男に不意を突いて倒せる奴がいい」


「なら俺がやろう。後輩に恐喝する事で慣れてる」


 治代がそんな事に慣れているのかはともかく、三科太は釘を刺しておいた。


「いいだろう。だが殺すなよ」



「すいません……トイレに行かせてください」


 教室で窓辛が手を挙げた。亜道はそれを見て溜め息を吐く。


「また窓辛か……君は腹の調整を整えてきなさい。仕事中だとダメだからね」


 窓辛は苦しそうに、ゆっくりと歩いて行く。治代と同じ様に、黒スーツの男と一緒に教室から出た。


「二人目はトイレに行ってこい」


 二つ目の策は普通の事だ。その後何か言うのかと三人は待っていたが、三科太は何も言わないため、待てずに佐剛は聞いた。


「で、その後は?」


「待っていろ。そこを一度、集合場所にしよう。これはもう窓辛がいいだろう」


 窓辛は分かったと返事をした。


「それとこれは朝礼が終わる頃だ」



 最後の一人が朝礼を言い終わり、亜道はよしと合格を出した。


「次、集団行動だ。グズグズするなクズ共」


 教室の机と椅子を片付けて、広いスペースを作っていく。三科太は佐剛に近付き、誰にも聞かれない様に佐剛に言った。


「いいか、合図通りに行くぞ」


 佐剛ら黙って頷いた。亜道は皆が片付けが終わるのを確認すると、年寄りとは思えないほどの大きな声を出した。


「集合!!」


 集まって整列して行くのに時間がかかっている。整列した瞬間、亜道は疑問に思った。真ん中の一列が誰もいない事に気付いた。



「それで俺はどうやって教室から出る」


 佐剛は早く聞かせろと焦っていた。


「お前は無理だ。俺達は真ん中の縦一列だ。これ以上人が減ると、流石に疑われる」


「じゃ、じゃあどうするんだよ!?」


「だから、二人同時に出るぞ。疑われるなら一気にやろう」


 なるほどと納得した佐剛だが、一つ気になった。


「でもそれだと俺達、手錠が外れないぞ」


「無理に四人の手錠を外せなくていい。最初の日に手錠を壊した奴がいた。後で壊す事ができるって事だ」



「早くしろ!」


 トイレの前にイライラしている黒スーツの男は、ずっと待っている。後ろには三科太、佐剛、治代が揃った。佐剛は男の口を手で塞ぎ、三科太は男の両手を抑えて、治代は男の首を絞めた。


「殺すなよ」


 分かってると言っているが、治代は必死にやっている。気絶をやるのも難しい事だ。トイレに入ってる窓辛に合図した。


「俺だ」


 窓辛はドアを開けて、佐剛は黒スーツの男をトイレに押し込んだ。窓辛は忘れずに鍵を取って手錠を外そうとしている。


「あれ? 開かない?」


 それを聞いた三科太は、黒スーツの男の手を見て、顔を確認した。


「この人、俺の鍵を持っている人だ」


 三科太は窓辛の鍵を貰うと、手錠に使うと外れた。なぜなのか不思議に思ったが、計画には特に問題は無かった。


「三科太……ありがとう」


 治代は笑顔で右手を前に出した。


「それはまだ早くないか? まだ先は長い。一緒にここから出よう」


 三科太も笑って手を出して握手をした。治代は左手に今まで隠してた手錠を、三科太の手に掛けた。三科太は驚いて止めようと咄嗟に左手を出したが、治代は隙もなく左手にも手錠を掛けられた。


「言わなかったが、手錠もまた使える」


 三科太は治代に押されると、佐剛と窓辛にぶつかった。


「あいつらには餌が必要なんだよ。お前らを食っている間に俺は逃げさせてもらう」


「裏切るのか?」


「元々仲間ってもんじゃ無いだろ。精々頑張って犬達を連れて行ってくれ。生きてたらまた会おう」


「馬鹿野郎……お前は大事な事を忘れている」


 後ろには鎖巫子が立っていた。


「手を挙げろ」


 銃を向けられた治代は、ゆっくりと手を挙げた。鎖巫子は躊躇わず引き金を引いて、治代の手を撃った。治代は倒れて苦しむ声が響く。手から赤い液体が流れ出てくる。


「手を挙げろ」


 鎖巫子は笑顔で言い続ける。こいつを四人がかりで倒すことがベストだった。銃声を聞いて、黒スーツの男達が集まってきた。どうやらここまでか。


「お使いしてきたよ。あら?」


 白衣の男がレジ袋を持って出てきた。非話だ。治代の手を見てあららと言う。


「鎖巫子ちゃん。ここは病院と違って、薬の量が決まってるんだ。見れる怪我人は限られているんだよ」


「分かってます非話さん。あとちゃん付けはやめてください」


 治代は黒スーツの男達に連れて行かれた。


「さて、この件の主犯は誰かな?」


 まずい。この女の事だから、出ないと一人ずつ撃ちそうだ。三科太は腹をくくって前に出た。


「俺だ」


 鎖巫子は三科太が出てきた事に、驚かずに待ってましたという顔をした。


「やはりお前だな、仲三科太。来い」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ