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成人の罪  作者: AT
2/15

二十歳じゃない罪

 日本にはお酒は二十歳からという法律がある。三科太はその法律を破ったのだ。

 三科太は三月三日で二十歳になる。成人式には出られるが、酒もタバコもダメなのだ。それが三科太のやった罪だ。いくら酒を勧められても断るべきだった。


 鎖巫子は三科太の肩を叩き、歩いていった。後ろの席に座ってる女の口のガムテープを剥がす。


「次。手姫てき 世子よしさん、貴女は小学校の頃いじめをしていたな。その人達と一緒に騒いでいたそうね」


 三科太はその名前に聞き覚えがあった。小学校六年の時に同じクラスの女の子だ。まさか後ろの席にいたのか。

 首をできるだけ後ろに向けると、やはり同窓会で見た顔だ。話はしなかったが、その子の事は学校である問題を起こして覚えていた。


「ちょっと待て。その子は確かいじめのグループにいただけで、実際にはいじめてなかった。それは間違いだ。そもそもそれは小学校の話だろう」


 鎖巫子は軽く舌打ちをし、面倒くさそうにファイルの書類を見直した。


「いじめを受けた子は、自殺未遂をしたそうだ。そして反省の色もなく、それを楽しそうに思い出話にしていた」


 三科太は自殺未遂をした話は知っていた。むしろそれが学校で大きな問題になり、その時の卒業生は誰もが知っているだろう。

 いじめられた子は学校を転校した。それは学校側が問題を隠す為か、それとも両親の思いなのか、今ではもう分からない。

 しかしそのいじめのグループにいただけの世子さんがこの場所に入る必要はない。三科太は納得できなかった。


「だったら、他のいじめた奴がここにいるべきだろう」


「いじめていたお二人は警察の方だ。確か一人は窃盗、もう一人はドラッグの使用だ。そいつらはもう処分されている」


 鎖巫子はいじめた二人がどうなったか知っていた。三科太はゾッとする事を聞き、声が出せなかった。だが鎖巫子にとってそれはどうでもいい様だ。


「世子さん。いじめを知っていて、止めないのはいいことか?」


「……よくないです」


 世子は何も反論しなかった。いや、自分はそう思っていたんだ。いじめをやっていた事に変わりないと。鎖巫子は世子の目を見つめた。



 鎖巫子は後ろの男の前に動くと、ファイルを見て溜め息をついた。男は攫った時の状態でサングラスをかけている。口のガムテープを剥がした。


「次。お前は酷いな。治代ちよ おわり。後輩を恐喝してお金を取っていた。今はろくに仕事もしてない。自分の生活費を後輩から稼ぐとは惨めだな」


「食っていくためにやってんだ。てめえにあれこれ言われる筋合いはねえ」


 鎖巫子は治代のサングラスを外した。返せという治代の言葉は全く聞かず、床に落とした。


「頑張って真面目君になるためには、こんなのはいらない」


 鎖巫子はサングラスを足で何度も踏んだ。レンズは割れていき、フレームは曲がっていく。最後にはレンズの無いベコベコのメガネになった。


「何しやがる! 高かったんだぞ!」


「お前に似合うメガネだ」


 鎖巫子はベコベコのメガネを拾って、治代にかけ直した。鎖巫子は鼻で笑った。治代は割れたレンズから睨み続けたが、そんなの鎖巫子は気にせず前の教卓に戻る。急に立ち止まり、手で頭を抱えた。


「しまった……真ん中の列から始めてしまった。まあいいや」


 鎖巫子は歩き出す。



 三十人の内、残り五人になった。三科太はずっと聞いていたが、殆どが髪が派手。式で騒いでいた。そんな事で連れて来られた様だ。いや、そんな事と思っていたから、ここに連れて来られたのだろう。

 しかし、このままだと流石にキツイ。死ぬ前の地味な拷問だ。鎖巫子も多少なりとイラついた様子が見える。生意気な奴には多少なりにしつけをやっているが、こうも多いとい

 次はでかくて太った男だ。口のガムテープを剥がす。


「次。空楽くうらく うめ。あなたは何もしないで家に引きこもっていましたね。働かないのはいけないね」


 空楽は他とは違い、引きこもりでここに連れてこられた様だ。


「き、聞いたことあるんすけど、人はアリみたいに七割働いて、三割は働かないんですよ。俺達が死んでも、また同じダメな奴が出てきますよ。以外と必要な人間なんですよ俺って」


 空楽は意味もない理論を話し出した。鎖巫子はファイルを見ていたが、止めて空楽の目を睨んだ。


「お前はアリか?私は人間だ。そんなだからダメなんだ。そもそも女王様の為に働いていない。皆それぞれ個人の意思がある」


「お、お前なんかに何が分かるんだよ!好きな人生を送ってんだ。何が悪い!」


「悪いさ。働けるのに働いてないんだろ?」


 さも当然の様に答えた。鎖巫子にとってそれが当たり前な事なのだ。

 残り四人。空楽の後ろに座ってる女の口のガムテープを剥がす。


「次。未江島みえじま 春香はるか、派手な金髪に派手なピアスだね」


  この中で一人だけ長い金髪の女性だ。三科太は不思議に思った。成人式で金髪の人は何人もいたのに、ここには何故か一人だけだ。


「別に髪くらいどうしようが人の自由でしょう!高校生じゃねえんだし、別にいいでしょ!」


「それはこの国に相応しくない。さて、坊主は女の子にあまりしたくないが」


 ボウズは確定なのか。三科太は誰にも聞こえない様に呟いた。金髪だけでここに連れて来られたのか。ならばもっといるはずだ。未江島は反抗的な態度はやめない。


「は? 坊主なんて嫌だし、つってもどうせあんたは押さえつけてでも無理矢理する気でしょ! やれるもんならやって見なさい!」


 とても強い精神だ。だがこういう奴こそ教育する必要がある。鎖巫子の気持ちがたかぶった。


「安心しろ。髪は染めてやるよ」


 鎖巫子は指をパチンと鳴らすと、黒いスーツの男が三人歩いてきた。二人は未江島を机に押さえつけ、もう一人は手袋とカッパを持っていた。

 三科太は驚いた。この女はちゃんと髪を染める気があるんだ。鎖巫子がカッパを着ると、黒スーツの男は鎖巫子にもう一つ渡した。三科太はそれを見た事ある。だがそれはどう考えても髪を染めるものではない。習字の授業によく使っていた墨汁だ。それを未江島の頭にぶっかけた。


「お前に似合う汚い黒髪だ」


 未江島は首を掴まれながらも必死に踠く。しかし机に押し付ける男二人の力に、女が敵うはずは無い。

 未江島は叫ぶが、鎖巫子は笑顔で止めようとしない。

 未江島は泣き出して謝るが、鎖巫子は笑顔で止めようとしない。

 イかれた行動。だが誰も止めはしない。逆らうと殺されるかもしれないと。しかし三科太は、あまりにも酷い状況を、黙って見届けられずに勇気を持って叫んだ。


「もうやめろ! あんたの思想を押し付けるな! その子の個性を崩すな!」


「こいつはその個性を潰して髪を染め、ピアスをつけ、まるで我が者一番の様に歩いていたんだろう?」


 墨汁は空になった。あんなに強気だった未江島の泣く声が教室に響く。もちろん鎖巫子は気にもしない。

 残り三人。未江島の後ろに座ってる男の口のガムテープを剥がす。


「次。思井おもい へさ、お前は……タバコだな」


「タバコもダメなの!?」


「いや、二十歳からタバコは吸っていい。だがお前はタバコを何度もポイ捨てしているな」


「あ……」

 思井は思い当たる節があるんだろう。何も言わなくなった。

 残り二人。思井の後ろに座ってる男の口のガムテープを剥がす。


「次。曽手そて ぜんお前もタバコだが……中学三年からタバコが大好きなんだ。今も持っているね」


「別にいいだろ」


 反抗的な態度に鎖巫子は多少腹が立った。曽手のポケットからタバコとライターを取り出す。


「イライラしてるんだろ? 吸わせてあげよう」


 タバコを曽手の口に、ではなく鼻に刺した。入るだけ入れると、ライターに火をつける。


「すいません! すいません! 許してください!」


 曽手はさっきとは別人の様に謝り続けた。その様を鎖巫子はニコニコと笑って、火を近付ける。


「ああっと残念だ。ここは禁煙だ」


 鎖巫子は寸前で火を止めた。なんとかやられずに済み、曽手はホッとした。鎖巫子はライターを置いて行った。タバコは鼻に刺さったままである。

 最後の一人。曽手の後ろに座ってる男の口のガムテープを剥がす。


「お前が最後だな。倉負くらふ 明蔵めいぞう。親から金を盗って、そして親に借金までさせて、そんなに金が欲しいか。ふふ」


 倉負は鎖巫子の笑みに腹を立てた。縛られているが手錠の音を立てる。


「何笑ってんだ? 俺様が生きていくために親が借金をしたんだ。二十歳になるまでどれだけ金がかかると思う? 親の気持ちを考えろ!」


 鎖巫子は怒りの限界だったのか、倉負の前にある机を強く蹴った。蹴られた机の角が倉負の腹に当たった。倉負は痛さのあまり声が出せない。鎖巫子はそれだけで終わらず、倉負の頭を机に叩きつけて耳元で囁いた。


「お前にそんなセリフを言う資格はない。親の気持ちを考えろ」


 最後の一人が終わると全員死ぬ。できるだけ話が長引いてほしいと、何人かは思っていただろう。だが、三科太はもう腹をくくっていた。


「お前はそれで正しい人間か? 暴力なんておかしいだろ! 俺達はもう死を決められているんなら、さっさと殺せ!」


 三科太の話を聞いているのか、鎖巫子は教卓の前に戻っていく。


「誠に残念ながら、お前達はまだ死なない。もう一度勉強を仕直しだ」


 鎖巫子はわざとらしく残念がっていた。そんな時に扉が開いて薄い白髪の老人が、左足を引きずりながら入ってきた。鎖巫子は教卓の前を老人に譲ると、老人は教卓によりかかった。


亜道あどう 寒暑かんしょだ。お前達の教育係を担当する」


 教育係とは一体何なのか、三科太はまだ分からないーー

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