目覚めた罪
初投稿です。読んでもらえたら嬉しいです
一月の第二月曜日、東京のとある場所にスーツ姿や袴を着た男性、着物を着て綺麗な化粧で笑顔の女性が続々と集まっている。その中には金髪やピアス、サングラス、オールバックなど見るからに派手な格好をしている者が多数いる。
そしてその者達の近くに、黒く輝やいた高級車が一台止まっている。
「はぁ、今年も酷いですね」
運転席にいた薄い白髪の老人は、枯れ気味の声で呟いた。後部座席には黒髪が長くて若い女性が座っている。
「だがそれも今年までだ。こいつらは今までの罪を受ける時だ」
女性の言葉に、老人は不気味に笑みを浮かべて、アクセルを踏んだ。
長い間眠っていたようだ。目を開けると景色がぼんやりとする。頭が働かず自分が椅子に座っている事だけは分かった。だが立とうとするが動くことができない。見ると手足に手錠をかけられ、身動きがとれない様に縛られている。口を開けようにもガムテープで塞がれ、喋ることができない。
目の前にあるのは学校で勉強する時に使っていた机だ。よく見渡すと自分と同じ状況の人達が沢山いる。男性も女性もいるが同じ様に口にガムテープを貼られ声が出せない様だ。
この静かな空間に、天井の蛍光灯が点滅する音だけが響く。片方の壁には窓がいくつもあるが、黒紙を貼られているため何も見えない。二人の前にあるのは誰もいない教卓に、何も書かれてない黒板だ。
この教室によく似た部屋の、席に自分は座って縛られている。なぜ自分はこんな事になっているのか。
仲 三科太はめでたく成人式を迎えた。中学校の友達と久々の再会を果たし、集まった者で楽しく同窓会を迎えた。三科太は同窓会が終わったらすぐ家に帰るつもりだった。だが友達に何処かの居酒屋に無理矢理連れて行かれ、そこで誰からか酒を勧められた。
三科太は正直酒が飲んだ事が無かった。まあそれは当たり前な事ではあるが、ここにいる何人かの友達は悪さで酒を飲んでいたと語る。大人になったから飲まないといけない。そう暗示された様に三科太は酒を飲んだ。酔いという初めての感覚に、その後の記憶が全く無い。
自分が何をしてここに縛られているのか。もしや何か犯罪を犯したのか。不安に怯えながらも時間だけが過ぎていく。
前に見えていたドアが開き、一人の女が入ってきた。縛られた者達は女の方に目を向けた。長い黒髪の容姿端麗とはまさにこの為にある言葉なのかと思わせる美人だ。女は教卓の前に立ち、笑顔で拍手をした。
「皆さん。成人おめでとうございます」
女のとても素敵な笑顔で祝福の言葉をくれた。だがこの監禁された状況で言われて、嬉しく思う者は誰もいない。女は手を止めると机に強く叩きつける。
「素晴らしいな、どいつもこいつもクソみたいな顔だ」
態度が急に変わって全員驚いた。女の二言目は酷い暴言だった。嘲笑いながら見下す様な目でジロジロと皆を見ている。
「色々と質問したいだろうがまずは自己紹介をしよう。日野 鎖巫子だ。よろしく」
名前だけ言うと鎖巫子は教卓から近い人間、つまり三科太のいる一番前に座った男の所に鎖巫子は歩いていく。その男の口元のガムテープを鎖巫子が剥がすと、男は呼吸が乱れて声が出せないが、段々と呼吸を整えていく。
「なんだよこれ……俺達に何する気だ!」
男はこの状況でまあ当たり前な事を叫んだ。鎖巫子はあえて一人しか口を開けさせなかった。三科太は不本意ながらそれがいい判断だと思う。全員の口を開けると騒ぎが止まないから、一人だけ口を開けさせたのだ。
「ここにいる三十人。お前達は成人までに立派な大人になれなかった。よって死ね」
鎖巫子は簡単に答えた。あまりにも簡単に言われ、男は言葉が出なくなった。ただ単純に死への恐怖と絶望を感じた。
「……何だよそれ! 一体どういうことだよ!?」
ようやく言葉を発することができた男は頭の中を整理しようと必死になった。
「立派な大人って何だ? 誰が決めたんだ?」
質問ばかりに鎖巫子は溜め息をつく。教卓の前に戻ると嬉しそうに話し出した。
「世の中が、世間様が決めつけた。成人式でチャラチャラとしたお前達をゴミの様に見る人達がな。よってお前達はゴミの様に処分される。成人適正制度。それが新しい法律だ」
鎖巫子はまるで楽しくて仕方がない子供の様だ。
「はあ? 何だよその法律? 勝手に決めてんじゃねえよ!」
鎖巫子は笑顔で腰から銃を取り出して、男に突き付けた。男は鎖巫子の急な行動に、何をされているのか一瞬理解できなかったが、騒ぐのは止めた。
「勝手に? 今まで勝手に生きてきたお前達に決める権利はない。この日本は、ちゃんとした国になるんだ! お前達は汚れだ! 汚れは掃除して綺麗にする。綺麗で美しい国、それが日本! チャチャチャ!」
鎖巫子は元気よく日本コールを言い続ける。その中で男は小さく呟いた。
「そんなふざけた法律、だれが決めたんだ?」
その声は鎖巫子に聴こえていたらしくコールを止めた。
「ああ私だ」
「な、てめえ! ふざけんなーー」
男は怒り、叫ぼうとしたが、鎖巫子が銃を上に向けて引き金を引いた。一発の大きな音がこの教室に鳴り響く。
「そろそろ黙ろうか。お前だけに時間を使いたくない」
男は黙った。死への恐怖が襲い空気は重くなる。だが鎖巫子はそんなの関係ない。
「これから一人ずつ、どの様な馬鹿な事をしてきたか確かめる。あとひとつ言っておくが、逃げられないぞ」
ガラガラと扉を開ける音がする。サングラスに黒いスーツといかにも屈強な男達が何人も何人も入ってくる。その中の一人が鎖巫子にファイルを渡した。ファイルには沢山の紙が閉じてある。鎖巫子は男の顔を見て、ファイルを開けた。
「最初はお前からだ。佐剛 竹、髪が派手すぎだ」
一番前の話していた男の名前が佐剛と今更だが分かった。それよりも鎖巫子はそれだけしか言わなかった。
「な、なんだよ、それだけかよ!」
鎖巫子は佐剛の言葉など無視して佐剛の前から動き出す。
「待てよ! 意味わかんねえ」
佐剛はまだ叫ぶ様子を、鎖巫子は呆れていた。すると佐剛の前に戻った。
「お前は叫ぶのが好きの様だな。分からんなら言おう。派手すぎるその髪は会社に迷惑だそうだ」
「迷惑だからってそれで死ぬのか。そんな、簡単に……」
佐剛は言葉を失った。鎖巫子は佐剛の後ろの席に座った男に動き、口元のガムテープを剥がす。男は何も喋らず怯えていたが、鎖巫子は無視して男を語った。
「次、窓辛 松、チャラい格好でいかにもダメ人間だ。漫画とかでヤンキーにでも憧れたのか? 」
「チャ、チャラい格好しているのは皆も成人式でやっているし、お、俺だけじゃなかっただろ?」
「ああそうだ。その皆もお前と同じ事になっているだろう。次」
鎖巫子はまたも会話を終わらせた。そして三科太の前に動き、口のガムテープを剥がした後、なぜか不思議そうにじっと見つめている。持っていたファイルをちらりと見ながら何度も確認している。
「……何でこいつがいる? 見た目はごく普通に見えるし、書類にも特にない。何をしてここにいる?」
三科太も自分が何をしたのか気になっていた。黒スーツの男が一人だけ急ぎ足で近づいて来た。
「仲三科太。成人式の後、居酒屋で暴れてました。酒を飲んでいたらしいようで、すいません。書類が新しくなってませんでした」
「……間違いないか?」
「間違いないかと言われても俺には分からん。その記憶が無い」
「ほう、お前みたいな奴はここにいなくてもいいんだが、残念だが仕方ない。お前はまだ十九歳だからな」
三科太は成人を迎えたが、まだ二十歳にはなってないーー