弐
教師が教室から出ていくなり、静かだった空間にどっと湧き上がる生徒たちの声。腰が抜けたようにドカッと椅子に座り、腕を組んで机に伏した。
「はぁぁぁ」
「ため息が長いよ、紅葉」
「だってぇぇー」
聞きなれた声に力なく返事をした。
「テスト、どうだった?」
「どうだったも何も、相変わらずのちんぷんかんぷんさ」
「でもちゃんと勉強はしてたんでしょ?」
「当たり前だよ。それでも今回はいつもよりちょっとだけ良い点取れる気がする」
「その言葉、いつも聞いてるんだけどな......」
――なんか失礼な言葉が聞こえたような気がする。
それと同時に頭を撫でられた。
頭を撫でられるのは嫌いじゃないけど、今撫でられるとそのまま寝てしまいそうだ。
「昂輔ー!紅葉ー!」
昂輔に撫でられながら少しだけウトウトしていた時、廊下の方から俺たちを呼ぶ声がした。
「優ちゃん、シィー」
「なんだ、紅葉のやつお疲れか?」
席の近くまで来たのだろう、声が近くに感じる。
「優志、うるさい」
「そりゃ悪かったな、紅葉はお疲れに加えお眠の時間だったか」
「違うし、昂輔の撫で方のせいだし」
「あれ、僕のせいなの?」
「うん、昂輔の撫で方には絶対催眠作用があると思う!」
「催眠作用って...紅葉そんな言葉知ってたんだな!?」
「優志、俺の事バカにしすぎ!!」
「落ち着きなよ、紅葉。優ちゃんもあまりいじめちゃダメだよ」
「だって紅葉イジルの楽しいんだもん」
物凄く楽しそうに笑う優志を見てると、さっきまでバカにされていた俺までつられてしまいそうになる。
でもそれは、本気で俺を馬鹿にしてるんじゃないって分かっているからこそなんだと思う。