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姫様の一日1ー1

「結婚しましょう」



スペクトラム王国の首都、ロックの中心に建つ王城の一室。第二王女シャルロット・イルミ・スペクトラム付き近衛騎士ライン・コルテオは告白された。


「では、今日の予定を説明させていただきます。午前中は講師の方達との勉強。午後はエリトリア公爵令嬢とのお茶会があります。夜はセイン様が一緒に食事をしたいということでした。」




「結婚しましょう。ライン」




人の話を全く聞かず、また同じ事を言う王女。いつものことなので聞き流して続きを話す。気にしていては埒が空かない。



「講師の方は、魔法史学のリッター様。王国史学のセント様。後は時間があれば、古史学のホフマン様の三名になります。」


「史学ばっかりじゃないのよ!!」


「ルー様より勉強させろとのことでしたので」



ルー様とは、シャルロット様のお兄様だ。この王国の宰相をされている。16歳にして宰相に任命されたことから天才と名高いお方だ。文官達と貴族・市勢の子女達の憧れとなっている。




「ルー兄様なんて嫌い!!」


「セイン様も言っておりました」


「セイン姉様も嫌い!!」


「ワタシもそう思っております」


「ライン大好き!!結婚しよう」




これである。本来ならばこの予定をシャルロット様に伝える役目は、執事もしくはメイドの役目である。それをシャルロット様は私に行わせる。困ったものだ。


「講義の間は私は練兵場におります。用事がありましたら使いをいただければ参ります。お茶会では、後ろで警護をさせていただきます。お食事の際は部屋の外で待機させていただきますので。」


「ライン。聞いてほしいことがあるの」


「何でしょうか?」


姫様が真剣な表情で私を見る。説明した物の中で嫌な物があっただろうか?講義中は私は居ないが居ないが、メイドがいる。戦闘力は私が苦戦するレベルで、不意討ちされれば私でも捌ききれない。何度騎士に誘ったか分からないぐらい強く、何度追い払ってもいつの間にか後ろにいるメイド力を持つ人間だ。奴がいる限り、講義中に何かあっていることは無いだろう。


エリトリア公爵令嬢と姫様はとても仲が良い。エリトリア公爵令嬢の方が歳上ということもあり、姫様はエリトリア公爵令嬢をセイン様と同じぐらい慕っておられる。それにエリトリア公爵は第一王子のアルバニア王子の腹心であり、アルバニア王子はシャルロット様を溺愛されていることは有名だ。私が居ない場所で姫様が嫌がらせ等を受けていることはあり得ないだろう。万が一そんなことが起きていたとしても、あのメイドが気がつかないはずがない。なのでこれもありえない。


ならば最後の夕食の件だろうか?いや、それが一番ありえないだろう。姫様はセイン様を慕っている。セイン様も姫様のことが大好きだ。というか王家の方々は姫様が可愛くて仕方がないのだろう。第一王子も第二王子もセイン様も陛下も王妃様も姫様には甘い。姫様も少し手がかかるが、素直で気配りの出来るお方だ。他の方々が自分をどう思っていてくださっているのをよく分かっていらっしゃる。なのでこれもありえない。



だとしたら何が言われたいんだろう?



「私と結婚すれば、爵位も上がるし給金も今より多く貰えるわ。兄様達のことだから私が嫁ぐ家には、それ相応のお金が渡されると思うし、それに王との縁が作れる。私の子どもだったら兄様達はきっと私と同じぐらい溺愛されるかも知れないし、同じ時期に生まれたら乳兄弟として子ども同士が仲良くする可能性も高いわ。それに王家も救国の英雄を取られずに済む訳だし何よりもこれが大事なんだけど私が貴方のことが好きで、好きで、好きでたまらないから結婚しよ!!」


「姫様、流石です。そんなことだろうと思いました。」



色々と考えて損をしましたと小さくぼやく。だがそれを姫様は聞き逃さなかったようだ。座っていたベッドから立ち上がり身を乗り出して近づいてきた。



「色々考えてってことは、心配してくれたってことだよね。心配してくれるなんて嬉しいな。やっぱりラインはやさしいね。そうゆう所が大好きだよ。勿論、やさしい所だけじゃなくて、強い所もちょっと厳しい所も大好き」



私はちょっとめんどくさくなってきた。それに時間も何時もよりかかってしまっている。遅くなると私が色々な場所の方から嫌みを言われるのだ。メイド長や執事長。更には、陛下からも言われたりもする。正直、騎士の仕事じゃないのだが、私が言うと皆揃って同じ事を言ってくる。




「「「良い目にあっているのだから贅沢言うな」」」




何が贅沢なのか分からない。良い目にもあっている自覚もない。第一王子に相談すれば、剣で斬りかかられ、第二王子に相談すれば、小言を言われ、セイン様に相談すれば、極寒の眼差しで見られる。

正に四面楚歌だ。どうしようもない。



コン、コン、コン、コン、コン



控えめなノック音が部屋に響いた。ノックの音は五回。ノックは三回だとトイレ。四回だと仲の良い友人や知人、家族の部屋に入る時に使う。五回の場合は礼儀の必用な相手である上役や王家の方々の時に使うものである。



「入って来なさい」



姫様が入室の許可を出した。この時間に入ってくるには恐らくメイドだろう。時間的に見て、そろそろ準備をしなければいけない時間だ。基本的に私はこの時間には姫様の部屋を出ているようにしている。理由は二つ。一つはメイド達の邪魔にならないようにするため。二つは姫様付きのメイドに会いたくないからだ。



「失礼します。・・・おや、いらっしゃったのですかライン様」


「ああ。今日は姫様がしつこくてな」



姫様付きのメイドである彼女の名前はメルという。王族付きメイドだけあって能力はとても高い。一人で有りとあらゆる仕事をこなすことが出来なければ王族付きメイドには成れない。私の見る限り、彼女は他のメイド達と比べても頭一つ飛び抜けていると思う。



「聞いて、メル。ラインに結婚しよって言ってるのにラインってば、全く本気にしてくれないの。どうしたらいいのかしら?」


「姫様。メルに提案があります。これが成功すれば、確実にライン様は姫様をお嫁に貰ってくださいます。」



二人の会話を聞きながら、ため息をつく。実の所、メルは姫様の信者と言っても良いぐらい姫様を崇拝している。なので、二人が嵌まってしまうと大変な事になってしまうのだ。それに姫様がいくら騒いでも私と結婚することは出来ない。私の爵位は子爵。王族と結婚するために、最低でも伯爵程度の爵位が必用だ。なので私はまだ姫様とは、結婚出来ない。



「その提案ってなにかしら?」


「簡単です姫様。要するに姫様の覚悟をライン様に教えればいいのです。今の姫様ですとライン様は冗談としかとられないでしょう。なので、姫様が本気であることをライン様に知らしめるのです」



方法としては・・・・・と姫様に耳打ちするメル。話を聞きながら、頷いたり考えたりしている姫様。どうでもいいが、そろそろ準備をしないとメルは次の仕事に間に合わなくなるだろう。まぁ、自業自得としてこれに懲りて欲しいものだ。



「ライン様。姫様が言いたいことがあるそうです」


「何でしょうか?姫様」



呼ばれたので視線を姫様に向ける。姫様は上着の胸元を少しはだけさせて、目に涙を潤ませ上目遣いをしながら私に言った。



「ライン、だいすき。しよぉ?」



横で馬鹿が鼻血を出しながら倒れた。倒れたまま、とてもいい笑顔で親指を掲げていた。全く一応ここは姫様の寝室だぞと思いながら姫様を見る。


少し赤く染まった頬に潤んだ瞳。はだけた胸元から覗く白い肌に膨らみ。


これだけ揃っていれば、その気がなくても手を出してしまうだろう。それだけの色気が今の姫様にはあった。私は姫様に近づき、姫様の肩に両手を優しく置いた。すると、姫様は目を閉じ、唇を少しだけ前に出した。私は姫様の肩に置いている両手に力を入れて、姫様をベッドに押し、姫様はベッドに倒れ込んだ。


姫様は目を開けて、一瞬体を固まらせた。だが、直ぐに体の力を抜き体をベッドに委ねた。私はそのまま・・・・・




体を反対方向に向けて歩いた。途中、倒れている馬鹿に蹴りを入れて起こす。馬鹿が起き上がると私は二人に言う。


「そろそろ時間がありませんので支度を」


姫様はしぶしぶ。メルはバタバタと準備を始めた。私はその間、部屋の外に出て、二人が終わるまで待つ。何時もなら少し長く感じる時間が今日はそれどころじゃなかったので短く感じた。待っている間に私が思っていたことは、




(今日の姫様はヤバかった。ギリギリだった)




そんな事を考えている内に部屋から声が聞こえた。私が部屋に入ると、そこには着替えを終わらした姫様と鼻血を拭いているメルがいた。姫様に一礼し、扉を開けたまま、姫様を誘導する。講義のある部屋まで二人で歩く。通ると仕事をしている兵士やメイド、騎士達が姫様に頭を下げる。それを繰り返している内に講義の部屋の前に着いた。



「では、姫様。私はこれで。またお迎えに参ります」



私は姫様に一礼して、踵を返した。練兵場に向かって歩き出そうとすると姫様が私の手を握って引っ張ってきた。何だと思って姫様をみれば、膨れっ面で不機嫌そうにしている。私が首を傾げていると姫様が言った。



「今日はいつものをやってもらってないわ」



私は納得をした。確かにいつも部屋を出る前にやることを今日はやっていない。今日はバタバタしていたせいで忘れていた。姫様も何も言って来なかったので完全に忘れてしまっていた。



「今ここでやって」


「ここで、ですか?」


「ここで」



この場所は特に人通りが多いわけでもないが、少ない訳でもない。いまここでやったらそこそこ人目に着いてしまう。だが姫様はこれをしないと、許してくれないだろう。以前は一日中不機嫌だった。私は周りを見て人目がこちらを向いていない事を確認してから姫様の耳元に顔を近づけ言った。



「I've always been crazy about you 」



私は顔を離し、姫様を見た。姫様は万変の笑顔になっていた。私はまた一礼し、今度こそ練兵場に向かって歩いて行った。



今日もまた一日が始まった。

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