其れと云う者
其れを自覚したのは一体何時の事だったか、実のところそこまで定かではない。
ぼんやりと始まりを思い浮かべれば、其処は人生の記憶の始まりにまで遡る。
俗に言う、物心の付いた頃、である。
敷布団の下に敷くマット、それをジグザグに折り横に立たせ、窓から差し込む暖かな陽光を受けながら、風を通しておくのである。そうすることは、毎朝の母の日課だった。
よちよちと歩き始めたこのわたしというモノは、幼稚園というものに何回もの夜を超えた先に通わなければならないという、突然の母との反復して繰り返される離別に遭遇する未来への憂いなんぞ露知らず、時間の概念すらも無い麗らかな世界で、ただひたすらに安寧を貪る。
窓から降り注ぐ、うっとりとする様な春の陽だまりに、わたしはぽとんと腰を落とした。
犬猫は日差しを受けて眠る、爬虫類は陽光の熱を体内に蓄えて死の淵に片足を差して歩くような、凍える夜に備える。何の脈絡も無い、ただわたしは、世界から自己を吸収し、確立の為に、日向ぼっこに勤しんでいた。にゃあ、と一鳴きを加えて丸くなる。
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飽きた。