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自縄自縛  作者: 茶子
7/16

散歩

煌々と夜闇を照らす外灯がぽつぽつと連なり、雨上がりの路面は光を受けてきらきらと瞬く。

見上げれば、それに劣った星々が、ちらちらと雲間から私を見下ろしていた。

風に雲が流れる。

開けた空から覗いた光は、月の無い空を彩る。

冬の星座のオリオン座が、やけに判りやすく、その中央の三つの星を夜空に瞬かせていた。


遠目に見える、いつも彼女が仕事に向かう際に乗っている電車がガタンゴトンと風に乗り、音を運ばせる。

連なった車窓から見える光が、ゆらゆらと駅のホームに吸い込まれていく。

夜にだけ見える、地元の光景、その小さな光達を、堪らなく美しいと思う。


母校の中学から、今帰りの教職員達だろうか、次々と車が連なるように出ていく。

田舎の畑道だ、住む場所がこの田舎から離れているであろう人達は、皆一様に同じ道を選び、子供の遠足の風景宜しく、一列になって大通りに向けて車を走らせていた。

狭い道だ、私は道の端に立ち、私の真横を通りすぎていく車達を横目に見送る。

ふと、空を見上げてみると、外灯が一切無いこの道のお陰か、先程外灯の下で見た空よりももっと沢山の星が夜闇に散りばめられていた。

ぽつぽつと歩を進めながら、空を仰ぐ。

昼は1月下旬にも関わらず、下手をすれば上着が必要無い程度に暖かさを醸していた曇天の下、夜は流石に空は光を閉ざし、熱源を失った世界は昼間の名残を抱きながら冷たさを孕み、空虚に歩く私を一撫でして流れていく。

湿り気のある地面が、歩くたびにじゃりじゃりと音を立てるのが、昔の私を彷彿とさせるようで、妙な高揚を覚えた。


少し歩いた先で、歩みを止める。

人工的な明かりを遠目に、わざと光の無い場所で己の手持ちから人工的な明かりを開く。

携帯だ、動きは悪いが文章を打つにはまだ使えるだろう。

私はこいつにまだ期待している。

もっとも、彼女はさっさとこいつを手放したいようだが、考えても見てほしい、貴女が気の狂いに身を任せて前の携帯を勢い良く自室の椅子の背に叩き付け、真っ二つになったそれを床に放り投げ、自分もベッドに放り投げ、ゲラゲラと気味悪くとても楽しそうに笑ったあの日の数日後から、こいつは狂った貴女の鬱の波を一身に受け、そして回復に至るまでの全容をすぐ傍で常に見てきたのだ。

こんなところで容易く手放すのか、私はこいつが気の毒で仕方がない。

ちょっと悪戯好きなところはあるが、可愛いものではないか。


閑話休題。

ところで、私は久方ぶりの外の空気に胸を踊らせ、死んだ魚のような目で家を飛び出し、この冷たさが幾分か勝る生温い空気に身を晒してこの文章をこいつの身に打ち込んでいるわけだが、何度もちらちらと脳裏の端に浮かんでは振り払っていた、無敵の私に唯一影を落とす事実。


明日彼女は仕事に向かわなければならない。


丁度煙のような雲も、星々を隠してきた頃合いだ。

私も、己の隠れ蓑を布団の中に隠すとしよう。

私はまた、ぽつぽつと連なる外灯の下を、ゆらゆらと歩き始める。

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