二又の襖
猫又だ、お前は猫又。丁度良いじゃあないか、なあ。
尾は二股に分かれ、人を化かし、しなやかな体躯を滑らせ、絵のように嗤う。
丁度良い、なあ、丁度お前は妖怪だ、妖怪、人が語る通りの、お前は歴史になれるだろう。
全ての条件を揃える象徴だと思わないか、素敵じゃあないか、真っ黒で、艶やかな、妖怪である。
黒猫は、すっと尾を翻し、すとんと音も無げに襖を閉じた。
すらりと見えたその尾は、確かに、真っ二つに引き裂かれていた。
しかしながらその尾っぽは、根が身体に引っ付いていたのである。その尾を携える身体、当たり前に、尾は身体のバランスを取るものであって、尾が本体である筈がなかった。
ある筈が、無かったのである。
毎晩の如く、猫の首を絞める夢を見る。
一匹狼なんて言葉をその小さな背にはみ出しながら背負ってはいるが、お前は犬にも成れぬだろう。
差し当たっては、猫だ。小さな小さな可愛い子猫。
小さな牙で、噛み切るにも力を入れる可愛げのある様。フーフーと声を上げながらぺんと音を立てて食い込ませる、切りそろえられた美しい小さな爪。
小さな子猫は、本当に美しかった。
美しい仕草でごろごろと独り、縁側に差す日向の一歩手前、涼しい日陰の畳の上で、手毬を揺らす。
ゆらりと二つの尾っぽが揺れた。
どんなに尾が揺れていても、身体の影は、一つだけだった。
礼儀正しく、正しいフリをして、すとんと静かに襖を閉じる。
閉じられた襖を開けることはない、何故なら猫にとって、その閉じた襖はパンドラの箱になってしまうからである。
小さな体では、不幸も、幸せも、背負いきれずにぺちゃりと潰れてしまう。
猫はとうとう、箱の中身を背中に背負えるほどの体を、手に入れることはできなかったのである。
真っ白な背は、真っ黒に風が抜け、さらりと毛並みが美しく揺れる。
どうだと言わんばかりの猫又の背中は、どうしようもなく軽くて、どうしようもなく美しかった。
美しく、汚れに塗れた大きな身体の猫たちに比べ、比べるのも申し訳ない。
ただ、影が一つ、細く、長く、消え入りそうな美しさで、伸びる。