邂逅
何処に居ようとも孤独は埋まらなかった。
埋まらないと思っている半面、自分で解っている事もある、孤独を作っているのは自分だ、孤独になろうとしている、そんなことは百も承知で、今日も自分は孤独だと嘆き楽しむ。
何やら君達は楽しそうだね、世の中に吐き捨てて、へどが出そうになる。
その楽しそうな面に泥を掛けてやろうと、孤独にかまけて気の迷いを起こした。
全てがどうでも良かったのだ。
礼節を重んじ過ぎて先の未来に恐怖し、何もアクションを起こせない有難い有難い主様に唾を吐き、その身を翻して彼に向き、楽しそうな空気に厭らしい笑みをぶつけた。
やあ、こんにちは。
憎々しい腹の立つ姿を描き、その通りに振る舞った、つもりだった。
遊んでやろう、ほふってやろう、転がって貰い、手が伸びてきたら身を引こう、そう思っていた。
しかしどうしたことか、有難い有難い主様は、俺になけなしの礼節を与えていたようだった。
振る舞い切れなかった自分は、可愛がってきた孤独に手を伸ばされる事になった。
そこに手を伸ばされるとは思わなかった自分は、甘やかな温もりに膝を折ることになる、てっきり、その伸ばしてきた手は固く握られた拳だろうと思っていたのだ。
それがどうだろう、孤独に突っ込まれたその手は、緩やかに力を抜いた、手のひらだったのである。
俺はどうだろう、どうなるだろう、そこに手を伸ばされて、掻き回されて、掘り出され、ボタボタと地面に落ちる汚泥は、彼の手を汚さないだろうか。
いつの間にか、彼の心配をしていた自分に、内心で押し殺しながらも、同様は目を剥いていた。
彼の背中はなんだか自分に近いように感じた、所詮は錯覚だろうと思っていたし、歩いてきた距離が全く違う、彼は遥か前方に居なければおかしいのだと思い、目を伏せた、これは幻覚である。
それは差別だね、と誰かが背を突っついた。
振り返らずに、自分はしかめ面を作ったが、後方の誰かは自分の顔が見えているかのように話を続けてくる。
皆が皆、近道を選ぶと思うのかい?
くるりと身体を捻ると、後ろには誰も居なかった。
ぐるりと辺りを見回すと、幾重にも幾重にも折り重なり、絡み合う道が、唸るように自分を威嚇しているようだった。
自分は身震いをして、彼の背を見ることにした、やはり彼の背は近かった。気がした。