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雨上がりの月夜に

『そう、私、まゆきとマキは同じ人物の別人格…』

まゆきの声は淡々としていたけど、暖かさを感じる。一方で、マキは…

「あたしはタクミと逝きたいだけ。タクミなら一緒に逝ってくれると思った」

何だか、マキって子供みたい?…いや、きっと純粋なんだろうな…

マキは僕の身体に近づくのをあきらめたらしく、こちら側を向いている。「ごめんね、僕はまだ逝けないよ。まだやり残したコトがいっぱいあるし…」

マキは、僕の言葉を聞くとあからさまな怒りを見せて叫んだ。

「何よ、それ!?もうあんたは死んだの!私達と逝くしか、あんたに残った道はないんだから…!!」

マキの瞳に浮かぶ涙が、必死なマキの心を映す。

『まだ死んだとは言えないでしょう?何よりタクちゃんが“戻る”というなら仕方ないじゃない。』

まゆき姉ちゃんの穏やかな言葉に、マキは逆上して叫んだ。

「何よ、あんたにそんな事を言う資格無いじゃないのよ!一緒にタクミを車に突き飛ばしたの、あんたじゃない!!」

…愕然とした。じゃあ、僕はこの“二人”に…!?

『残念だけど、それは違うわね…私は、タクミを引き戻していたの。だからタクミは死んでないのよ…』

一人は殺そうとして、一人は助けようとしてくれた。だから死んでないんだ…

「裏切り者!!」

叫ぶマキの声は、悲鳴に近かった。逆上して、興奮状態にあるのか、顔を真っ赤にさせて尚も叫ぶマキ。

「あんたも言ってたじゃない!!タクミの傍に居たいって…あんたも言ってたじゃない!?どうして…!?」

直ぐに返事はなかった。少しして、ゆっくりと諭すような口調でまゆき姉ちゃんは話しだした。

『…確かに言ったわね。でもそれはタクちゃんを“こっち側”に引き込むってことじゃなくて、傍に居て見守っていてあげたい、てことなのよ…』

まゆき姉ちゃんの言葉に嘘が無いのは何となく分かった。でも、マキにはそれが伝わらない。

「ふざけないで!あたし達は、タクミを引き込むしか無かったのよ!そうしなければ、あたし達はあの場所に縛られ続けてたんだからね…!?」

……えっ?どういうこと?それって…

『私達は、俗にいう“地縛霊”だったの。それから逃れるにはただ一つ、誰かを引き込んで、その誰かについて逝くしかない…』

…じゃあ、そのために僕を殺そうとした…?

「違うよ、あたし達は、どうせ逝くなら、タクミと逝きたかった。そして、もう一度姉弟として生まれてきたかった…」

マキの言いたいコトは分かった。でも、それって…

『そう、かなり自分勝手な話よね?だから私はタクちゃんを帰してあげたい。助けられなかったから…』

そうか…僕は、どうしたらいいんだろう…?どうしたらこの“二人”を…?

「どっちにしても、もう時間はあまりないよ…」

マキが力無く呟く。

『そうね…マキもそろそろ諦めがついたでしょう?…タクちゃん。私達はもうじき消える。だから、何も気にしないで帰って…』

えっ?消える?それってどういうこと?

『私達はかなりの間、霊となってたの。その間に、少しずつ私達の霊体、つまり魂は削れていく…もうじき全部無くなるってこと』

そんな…それじゃ、二人はその後は…?

「分からない。まゆきもあたしも消えて無くなるってことは分かるけどね。」

マキの言葉に、衝撃を受けながら、僕は考えていた事を口にした。

「ねぇ…二人も僕と一緒に帰ってみない?」

『えっ!?』

「えっ!?」

二人は同時に驚く。そりゃそうだよね…

「ずっと考えてた…二人と一緒に居られるにはどうしたらいい?って…出た答えがこれ。三人で僕の身体に入ろうって。ダメ…なのかな?」

『タクちゃん、本気で言ってるの?』

「出来ないよ…」

二人を…二人の姉をこのまま失いたくなかった…だから…

「やってみよう?失敗したら、僕は二人と一緒に逝くことにする。」

僕は本気だった。ダメ元でも試してみたかった。

「…じゃあ、行くよ?」

数分後、僕達は僕の身体に入ろうとした。だけど、二人の返事は無い。

「マキ…?姉ちゃん…?」

二人の返事は無い。まさか、そんな……

『…なら…』

まゆき姉ちゃんの声が微かに聞こえた。

「…タイムアップ。元気でね…まだ、こっちに来ちゃダメだよ…?」

マキの声…その時に気が付いた。

「あ、雨が…」

雨が完全に止み、僅かに残る雲を月が照らして…

―雨が降ってるのに、お月さんがよく見える夜は、出会う人に気をつけるんだよ…『こっち側』にいない人も見えてしまうからね―

おばあちゃんの言葉、止んでしまった雨…

「間に合わなかった…」

涙が頬を濡らす。後少しだけ欲しかった時間。

次の瞬間、僕は何かに引っ張られて、強く頭を打った…そして、目の前が白くなっていった――

次に目覚めたのは、集中治療室の中だった。両親が泣き笑いの顔で僕を覗きこんでいる。

「姉ちゃん…」

涙が流れた。三人で帰ってきたかった。そんな僕の耳に、信じられない声が飛び込んできた。

「お兄ちゃん!?気が付いたんだね!よかったぁ」

………マキ!?

次いで、母さんの言葉に、耳を疑った。

「マキ、まだタクミ兄さんは目が覚めたばかりなのよ…あまり騒がないで」

マキが妹!?混乱する僕に、『妹』のマキがそっと囁いた。

「あの後、あたし達は生まれ変わったの。タクミの妹にね…」

どうやら、僕の願いは叶ったらしい。少しだけ違ったカタチで――

もう、雨降りの月夜は来ない、そんな気がした――


何か最後は強引な感じですよね…(苦笑)怖さの無いホラーを書いてみたくて…最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

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