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真実の王が眠る城  作者: 鮎川 了
Königin
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黒い蜥蜴





 しかし、ヒルデガルトはこの一件で、王子が夜の間彼女をあの化け物から守る為に一睡もせずに居た事を知った。だから、昼間寝てばかりだと云う事も。

 そして昼間はヴェロア騎士団の数名が彼女に気付かれぬ様に警護にあたっていた事も。無論それは王子の命令であった。

「そなたの身に何かあれば、そなたの生家と面倒が起きるからだ。全く、そなたは手間ばかり掛かる」

 礼を云おうとすると、相変わらずそんな憎まれ口を叩く王子だったが、ヒルデガルトは王子を見る目が次第に変わって来た。

 しかし、自分は愛されては居ない。王子が愛しているのは化け物になった姫だけだ。と云う感はどうしても拭えなかった。

 実際、見る目が変わっただけで王子との溝は埋まる事は無い。

 化け物退治だとて、自分の過ちの後始末かもしれないのだ。

 そう、ヒルデガルトは自分でも気付かぬうちに、王子に惹かれていた。永遠に自分を愛する事は無いであろう王子に。

 次第にヒルデガルトの心の中に闇が巣食っていった。闇が心をは《は》む音を虚ろな目をして感じていた。 このまま、この石の要塞で年老いて朽ちる事を思うと涙が出た。自分には何も無い。何も出来ない。ただ唯一の望みの“世継ぎを産む”と云う事さえも。

 王は何と云うだろう? この石女うまずめめ。と自分の事を罵るのだろうか? 世継ぎを産むと云う約束をたがえた嘘つきめ。と。

 そのようにヒルデガルトが闇に囚われていると、王子がやって来た。

 しばらく彼女の様子を見ていたが、やおら厳しい顔をして手を上げた。

 ―叩かれる―

 そう思って頬を庇う。

 しかし王子は叩こうと思って手を上げた訳ではなく

「動くでない」 

 そう云うとヒルデガルトの左の耳に手を伸ばした。

 何か、冷たく長いものが耳から引き摺り出される感覚。

「ひいい」

 くすぐったく、気持ちが悪くなり声を上げると王子が何やら黒いものを摘まみ上げた。

「やはりな」

 それは小さな黒い蜥蜴。今、耳から抜き取られたのはこれなのか? と思うとヒルデガルトは怖気おぞけが走った。

「こやつは、人の耳から入り込み、精神を壊した後、内側から身体を喰い、その宿主を乗っ取るのだ。そなたの侍女もこれにやられた」 

「じゃあ……あのまま放っておいたら……?」

 聞くまでも無い、侍女と同じ運命を辿る事になったのだ。

 王子は見悶える蜥蜴を床に落としたかと思うとすかさず踏み潰す。

「気分が闇に落ちそうな時は耳を調べてみる事だ。どうだ? 気分は」

 そう云えば、先程の暗い気分や焦燥感が嘘のように消えている。

 王子が足を床から離すと其処には、蜥蜴を型どった塵があり、それは見る間に何処かへ消えた。

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