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幕間



 一方、城内では、ヒルデガルトの自室の前で侍女が所在無く刺繍などしていた。

「あら、あなた、エルヴィン様とべリアル様の決闘を観にいかないの?」

 自身も手持ち無沙汰そうな女官長が声を掛けた。 

「どちらかが亡くなるのを見るのは恐いですし……それにヒルデガルト様はまだお目覚めになりませんし……」

 そう答えると、退屈の為に出る欠伸を刺繍枠の嵌められた布で隠した。

 それには羽の生えた蛇が刺繍されている。成る程、南の国に伝わる天候を司る神を描いたのだな。侍女ながら、なかなか学が在るようでよろしい。と女官長は思っていた。

「ヒルデガルト様もお気の毒に、折角良く効く痛み止めを処方して貰ったのに、効きすぎて具合が悪くなるなんて」

 女官長は扉の取っ手を引き、ほんの細く開け、ヒルデガルトの様子を伺うと、寝台に横たわるヒルデガルトの銀の髪が見えた。

「いけません、女官長、誰も入るなとの仰せです」

「入ったのではありません、覗いただけです」

 時々、この女官長は子供のような屁理屈を捏ねる……と侍女は思った。

「所で、女官長様は決闘をご覧になったのですか?」

「いえ、私はあのような野蛮なものは好みません。王位など話し合いで決めれば良いものを。どうも殿方は血の気が多くていけません」

「そうですよね……」侍女は刺繍の続きを始めた。

「その南の国の蛇神、なかなか良くできているわ」世辞の積もりで女官長がそう云うと、侍女は目を丸くして手を止めた。

「いえ、これは……ニワトリです」

 今度は女官長が目を丸くする。

「えっ?あ、ああ! 嫌だわ私ったら、最近疲れ眼が酷くて。そうそう、ヒルデガルト様のおぐしが乱れてたようだから、お目覚めになったら整えて差し上げて」

 ばつの悪くなった女官長は、そう言い付けると、逃げる様に立ち去った。どうも侍女には絵心が無いようだ。

 それにしても、ヒルデガルト様はいつお目覚めになるのだろう? 

 本当は王と王子が殺し合いをするところを観たくないのかもしれない。冷たく気丈に見えても、あの方はやはり人の心を持っておられるのだわ。

 侍女はそんな事を思っていた。

 

 

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