決戦
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べリアルが赤のマントを脱ぎ捨てた。
エルヴィンは電光石火の攻撃が繰り出される事を予想して構えるも、一向にべリアルは動こうとしない。
それどころか、剣を構えてさえいない。剣を掴んだ右手はだらりと下がり、切っ先は地面にめり込んでいた。
一見すると隙だらけなのだが、べリアルの事だ、油断させて置いて激しい反撃で叩きのめす気やもしれない。
そう思うとうかつに動けないのがもどかしい。
暫くそのままの状態が続き、痺れを切らしたようにべリアルが口を開く。
「どうした? 折角首を斬りやすい体勢をとってやっているのに」
その言葉に場内がざわつく。
「父上はこの神聖な決闘を侮辱するおつもりか?」
戦うのなら決闘だが、無抵抗の者の首を斬り落とすだけなら只の“処刑”。
べリアルは自分を決闘相手としてではなく、下賤の首斬り人としてしか見ていないのか。エルヴィンはそう思うと、これまで抑えて来た感情が一気に沸き上がった。
「いかん、エルヴィン殿、挑発に乗っては……」
カミルのその声も聞こえなくなった赤毛の剣士はあれほど注意された上段の構えのままべリアルに突進する。
しかし、その剣が振り下ろされる事無く、エルヴィンは目を押さえながら悶絶する。
巻き上がる土煙。べリアルは剣の切っ先で乾いた地面の土をエルヴィン目掛けて弾いたのだ。
「父上、なんという卑怯な」土と涙で酷い有り様になった顔を向け、エルヴィンはべリアルに抗議するが、冷たい青い目を愉快そうに細める。
「卑怯? ならばその卑怯な手に打ち勝つ程の強さを身に付けよ。闘う相手が全て騎士道を重んじると思ったら大違いだ」
正論。これ以上ない正論だ。
騎士は守るものの為、いかなる敵にも挑まねばならない。
道理の通じぬ野盗にも、腹を減らした猛獣にも、心を持たぬ化け物にも。
「父上……」
エルヴィンが何かを云おうとした刹那、微かな気配を感じた。それはほんの僅な風の震動。べリアルの腕の骨が、筋が、軋む音。
― 動く……! ―
すんでの所でべリアルの剣を躱す。もし、気配に気付かなければエルヴィンの胴体は真っ二つになっていただろう。
そして、その恐怖を噛みしめる間も無く、もう一撃が繰り出される。
今度は躱す間も無く、剣で受け止めたが、衝撃の凄まじさに腕が痺れた。
「くっ……」
駄目だ。自分は何と云う無謀な決闘を受けてしまったのか。
エルヴィンは今更ながらに後悔したが、気を抜いている暇は無い。
何とかべリアルの剣を押し返し、攻撃に移ろうとするも、また直ぐに次の一撃が繰り出される。
剣を打ち合う音が延々と続き、エルヴィンはやがて闘技場の端に追い込まれ、背中は壁に付いている。そう、逃げ場はもう無いのだ。
べリアルが剣を横になぎ払おうと腕を水平に構えた瞬間、その一瞬の間を見切り、べリアルの腹を目掛けて剣を突いた。が、べリアルは飛び退け、かすりもしない。しかし、そのお陰で逃げ場が出来た。
べリアルの背後に走り、斬りつける。
火花と共に受け止められ、剣を弾かれた。
エルヴィンの剣は回転しながら宙を飛び、手の届かない地面に突き刺さった。
が、べリアルが隙を見せたその瞬間、カミルが躍り出た。
華麗な剣さばきでべリアルを追い詰め、背後にホルトが回り込み攻撃する。が、それも受け止められ次はラインハルトが参戦する。
一度に三人相手にしていると云うのにべリアルはどの剣も受け止め、躱す。
驚くべき事に顔には笑みさえ浮かべているのだ。
「何をしてる! エルヴィン、早く剣を取れ!」
ホルトがそう叫んだ瞬間、崩れ落ちた。
「ホルト!」
剣を取りに走りながら友の身を案じる暇もなく、べリアルの剣はエルヴィンを狙う。
― 躱せない。この体勢では受け止める事すら出来ない ―
そう覚悟していると一段と重い金属音が響いた。




