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金の籠に住まう小鳥



 まるで雪に埋もれた死人のような枯れた蒼白き顔。見開かれた眼もまた灰色で、およそ色と言うものが無い。

 辛うじて、彼女の纏う衣服が漆黒ではあったが、それは死と闇を連想させる色だ。

「ごめんなさい、王妃様」そんなヒルデガルトにミルラは申し訳無さげに、消え入りそうな声で云う。

 まるで、自分のせいでこの老婦人は命を無くすと思っているかのように。

 やがて、枯れた唇が開き、出たのは深く優しい声。

「何を謝る。何も考えずにそなたを悩ませてしまった妾にこそ非があろう」

「王妃様の事も、エルヴィンの事も嫌いな訳じゃないの。むしろ大好きなの。だけど……」

 若過ぎるミルラに、自分の気持ちを説明する言葉は紡げない。

 所在無く二人とも窓の外を見ると名も知らぬ鳥が飛んで行くのが見えた。

「あの鳥を美しい細工の籠に住まわせ、毎日高価な穀物や果物を与えても、幸せとは思ってくれぬだろう。何故なら鳥にとって空を自由に飛べなくなる事は不幸以外の何ものでもない」 

 ミルラにとっての空はこの城ではない。

 何も憂う事無く暮らせたとしても、其処に自由は無い。それはヒルデガルトが一番良く知っていた。

「王妃様……」

 しかし、ならばこの孤高の友人は己の空と云えるべきものを手に入れたのだろうか?

 この牢獄のような城で、主の代役を課せられ、身を飾る暇も無く生きて来たこの老女は。

 その眼光は気高き隼であるのに、風切り羽をもぎ取られた鴉のような自由とは無縁の人生、それを出来るならば彩ってやりたい。漆黒の髪の少女は常にそう願っていたのだ。

 ヒルデガルトは愛と云う糧に飢えて痩せ細った小さな迷い子。そう、この城に初めて来た時の自分のような。

 病に倒れても溢れる威厳、自信と叡知に満ちたその姿とは裏腹に、寒さに震え、不安に泣く小さな黒髪の少女がこの老王妃の中にいるのだ。

 

 

 ミルラが退出すると、ヒルデガルトは女官を呼び、こう命じた。

「城抱えの医者と魔法使いを呼べ、妾は強い痛み止めの薬を所望だと」

「王妃様、具合がよろしくないのでしたら痛み止めより……」

 女官はいよいよ王妃の最期の時が来たのかとその身を案じたがそうではない。

「今使う訳では無い。エルヴィンの晴れ姿、この目でしかと見届ける為にじゃ」

 それは、エルヴィンとべリアルの決闘、その後の戴冠式の一部始終を居住まいを正し見守る為と女官は受け取った。




 

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