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 兵舎の鍛練場には木剣がぶつかり合う音が響く。

 ホルト、カミルは二人掛かりでエルヴィンを前後左右から攻撃する。

 しかし、それを難なく躱し、返す剣で心臓を狙う。

「駄目だ! どうも上段に構える癖が抜けない!」カミルの一言で鍛練場は静寂に包まれる。

「エルヴィン殿、以前から思っていたのですが、どうもここぞと云う時に上段に構えてしまう」

 それを聞き、ホルトが汗を腕で拭いながら何かを思い出したように云う。

「そういえば、俺との試合の時もオマエが上段に構えるもんだから隙が出来て俺が勝ったんだ」

 カミルとホルトの云う事も尤もだ。自分では無意識にやってしまう癖なので、自覚出来ない。それを指摘して貰えただけでもありがたいと思った。

「良いですか? 上段に構えると、確かに太刀筋は加速度が付いて強力になります。だが、それゆえ、打ち損なった時の体勢を立て直すのが遅れる。しかも構えている間は無防備になりやすい」

「そうそう。だから俺が勝てた」

 途中で水を差すホルトに内心苛つきながらも、それでよくあの化け物と戦えたものだ。と、背筋が冷たくなるのを覚え、エルヴィンは身震いする。

 竜をも倒したと云う剣の手練れであるべリアルの首を獲るどころか、自分の首を獲られるかもしれない。

 今更ながら、無謀な勝負を受けてしまったものだ。そう思い、赤毛の剣士は深い溜め息をついた。

「ほう、やっていますな」

 背後から柔らかな声が聞こえ、一同が振り返ると、杖をついた好好爺が居た。

「ローゼンマイヤー卿!」

 カミルが師匠との久し振りの再会に顔をほころばせる。

 退役して数年経つが、見た目は現役の頃と差ほど変わらない。ただ、重い剣を艶やかな樫の木の杖に持ち替えただけのヴェロア騎士団きっての重騎士の姿が其処に在った。

「御変わり無くて何よりです。聞くところによると十二番目のお孫さんが産まれたとか」

「また、男じゃったがのう。邸がむさ苦しくなって困るわ」

 そう云いながらも孫に囲まれた平和な暮らしを満喫している風の老人は愉快そうに笑う。

 しかし、一頻り笑うと、急にエルヴィンの方を向き真顔でこう云った。

「王子、この老人のたっての願いを聞いて下さらんか?」

 その眼は今までの好好爺は何処に行ったのだ? と思う程、鋭い眼光を放っていた。




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