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嗤う不死の王



 不死の王とはいえ、首を斬られてまで生きているかは解らない。

 それ以前に、竜をも倒した剣の手練れ。そう易々と首を獲る事は出来ぬだろう。

「エルヴィンに人殺しになれと申すか」

 ヒルデガルトは深く縦皺を刻んだ唇を幽かに震わせていた。

「人も殺せぬような者が王になってどうする? それともエルヴィン、そなたは異形の者は殺せても人は殺せぬと申すか? あれとて元は人間ぞ」

 それを聞き、エルヴィンは全身の毛が逆立つ感覚を感じた。そうだ、あの化け物は元は人間。それも大陸一の美姫と呼ばれたか弱き乙女だった筈。

 今更ながら罪悪感に襲われ呻吟するエルヴィンにヒルデガルトは云う。

「惑うな、エルヴィン。王はそなたの心を試しておるのだ。王の云う通り、人を殺める気概のない者が国を守れるとは思えぬ。それにそなたの倒したあの化け物はアズウェルの民の仇ぞ、成敗されて当然の者じゃ」そこまで云うとその場に跪くように崩れ落ちた。

「王妃様! なんと云うご無理を!」

 女官と侍女が走り寄り、枯れ枝のような彼女を支える。

「妾としたことが、とんだ恥を晒してしまったのう」

 やはりヒルデガルトは、歩くのも立っているのもやっとの思いだったのだ。しかし王妃としての自尊心が、萎えた脚を動かし、老いた者とは思えぬ程の姿勢を取っていたのだ。

「ふむ、気の強い所は変わっておらぬな。余も何も一対一とは云わぬ。何ならヴェロア騎士団総出でかかって来てもよい。それでも足りぬなら他国から傭兵を雇ってもよいぞ」

 何が愉快なのか端整な顔は不敵に笑っている。絶対に負けぬ自信があるのだろう。

「ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか? 父上」

「そなたも変わった奴よのう。このような余を父と呼ぶか。よい、申してみよ」

「父上は、首と胴体を切り離されても死にませんよね?」

 おそるおそる、どう訊いていいか解らず、言葉を選んで云ったつもりだった。しかし、返ってきたのは人を見下すような高笑い。

「解らぬ。あいにく首を斬られた事はないのでな」

 エルヴィンも、周りいた者達も、首のないべリアルが己の首を探してさ迷い歩くのを想像し身震いした。

 ただひとり、ヒルデガルトが崩れ落ちたままの姿勢で冷静にべリアルを見詰めている。玲瓏たる碧い瞳の中に、どんな思いをかくして居るのかと。その碧さに引き込まれ、目眩を感じているとふいに周りが騒がしくなっていることに気付いた。

「何事ぞ?」振り返ると、頭に布を巻き付けた若い男が息を切らして扉の向こうにいる。

「ジル!」

 ミルラは叫ぶと、何の躊躇いもなくその懐へ飛び込み、何度も何度も彼の名前を呼んだ。

 そして、戸惑いながらそんな彼女を骨が折れるのではないかと思う程強く抱き締めるジルを見て、エルヴィンは決心した。

「父上、暫く時間を下さい」

「時間?」

「貴方を倒す為の鍛練をする時間を」

 再び城内にべリアルの高笑いが響き渡った。

 


 

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