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母との誓い




 マルガレーテは先程の、エルヴィンがヒルデガルトを庇う光景を繰り返し思い出していた。

 泣き虫だった小さな息子は強く優しい大人へと成長している。それは誇らしく嬉しい事ではあったが、同時にヒルデガルトへの嫉妬も募らせた。しかし、

 ……自分と一緒に暮らしていたら、エルヴィンは今も泣き虫のままだったかもしれない……

 と、一方ではヒルデガルトに感謝する自分もいた。

 そんな様々な感情がせめぎ合い、その感情が融合し、結晶化した結果

「私はお前を連れて帰る気はないよエルヴィン。お前はもうすっかりこの城の王子じゃないか」

 そんな言葉を口に出していた。

 エルヴィンは勿論、ヒルデガルトでさえも珍しく滑稽な程この一言には驚いた。

「そなた、ならば何故城に参った? 自分の腹を痛めて産んだ子と再び一緒に暮らしたいとは思わぬのか」

 エルヴィンは混乱したままこのやりとりを聞いていた。ヒルデガルトもマルガレーテも一体何をしているのだ? と。そして、城に残るか村へ帰るか決めかねている自分にも心底驚いていたのだ。

「ええ、確かに。最初はエルヴィンを無理にでも連れて帰ろうと思って此処へ潜り込みました。でも、多分エルヴィンは、村へ帰っても此処へ残っても後悔する事になるでしょう。同じ後悔するのならこの城へ残り、立派な世継ぎになる方がいい。村に帰って来るのは王位を継いで、妃をめとり、子をもうけてからでも遅くはないでしょう。勿論エルヴィンにその気があれば、の話ですが」

「でも母ちゃん」とうとうエルヴィンはいたたまれなくなって口を挟んだ。

「俺が大人になったら、母ちゃんは婆ちゃんになっちゃうじゃないか。じいちゃんもその頃になったらもう死んでるかも知れない」

「馬鹿だねお前、ドワーフは人間に比べて長生きなんだよ。お前が髭面の中年男になったって母ちゃんは小娘みたいな姿でいるから安心しな」

 ヒルデガルトはこの話に納得したのか一人頷いていた、ドワーフは人間に比べて頑丈であると共に長寿だと云うのは誰かから聞かされた事がある。無論、竜のように何千年も生きられる訳ではないか、人間の二倍の寿命は軽く越えられる筈だ。

「じいちゃんの父さん……お前のひい祖父さんのオイゲンなんて187歳まで生きたんだからね。まあ、あの人は殺したって死にゃしない人だったけど」

 マルガレーテはそこまで云うと、やっと笑顔を見せた。

「母ちゃん……」やっと、エルヴィンはマルガレーテが強がっている訳ではなく、考えた末の事を云っているのに気付き、少しばかり肩が軽くなる。

「それに、何かを途中で投げ出すなんて、そんな子、ウチには入れないよ。お前はドワーフの長エンリケの娘マルガレーテの子だ。それは未来永劫変わらないよ。お前が厭だって云っても私が厭だって云っても、変わらない。だから」

 先程まで、笑顔だったマルガレーテの眼が潤み、言葉を詰まらせる。しかし、彼女はエルヴィンの両の肩をしっかり掴み、云った。

「立派な王におなり、エルヴィン。母ちゃんやじいちゃんが自慢出来る立派な王に」

 エルヴィンは黙って頷き、ヒルデガルトは二人の肩を優しく包んだ。




 

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