天界の騎士
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ロイヒ卿の葬儀はまるで王族が死んだかのように盛大に、しかししめやかに執り行われた。
棺に寄り添い静かに泣く奥方、そして父はどうして帰って来ないのだ? と、“死”を理解出来ない幼子が、参列者の涙を誘った。
グスタフの話しによると、アズウェルの城下に着いてすぐ彼とはぐれた。その時既に怪物に拐かされていたのだろう。との事だった。
あの、眷族の黒い蜥蜴に命じたのか、それとも自身の魔力による所業なのか、今更ながらサヴラの残忍さに身の毛がよだった。
「夫は……勇敢に闘って死んだのでしょうか? 妻として夫の死に様を聞きとうございます」
ロイヒ夫人が涙ながらにそう云い、騎士達は一瞬、息を飲んだ。
突然虚空から現れた醜悪な前肢に鷲掴みにされ、為す術もなく握り潰され、大量の血を口から吐き出すロイヒ卿を殆どの者が思い浮かべた。化け物に立ち向かうどころか掠り傷ひとつ負わす暇もなく殺されたのだろう。
その騎士として余りにも無念な死。それを奥方に話して聞かせるのは誰もが躊躇った。しかし。
「ロイヒ卿は勇猛果敢に怪物に挑み、かなりの深手を負わせました。そのお陰で勝機が訪れ怪物を打ち倒す事が出来たのです。誠に彼は立派な騎士でありました」
カミルが嘘を云った。まるで本当にそうであったかのように饒舌に偽りの出来事を話した。
だが、誰もそれを咎める者は居ない。
何故なら、その話を聞いた途端夫人の暗く沈んでいた顔は、ほんの少しだけ明るく、そして誇らしげに見えたからだ。
「僕の父上は凄いんだね。ねえ、早く帰って来ないかな? 怪物を倒した時の事をもっと詳しく父上から訊くんだ」
よもや側にある長細い棺の中に父が横たわっているなどとは夢にも思わずそんな事を云う幼子を夫人は泣きながら抱きしめた。
「父上は、余りに立派な仕事ぶりゆえ、神様が天界の騎士にしたいとご所望したのです。お前も父上のような立派な人におなりなさい」
いつかこの幼子が“死”の意味を理解した時、悲しみと寂しさに襲われるのだろうが、カミルの云った嘘は少なからずとも心の支えになる筈だ。
カミルは天を仰ぐ。
その目には天界の騎士となり、天馬を馭すロイヒ卿が本当に見えている様だった。
グスタフも釣られて何も無いと知りながら視線の先を追う。あの雲の上、きっと昔死んだ友も天界に居るのだ。




