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呪われし血





 エルヴィンが目覚めると、見慣れた天井が見えた。

 自分の家の寝室だ。そして自分の寝台。

 ああ、恐ろしい目に遭ったけれど夢だったのだ。と、胸を撫でおろした。

 しかし、窓から漏れる光りは朝日のそれとは違う。部屋の中も何だか暑い。まるで真昼のように。

 寝過ごしたのか?

 だったら何故、母は起こしてくれなかったのだろう?

 暫く頭が混乱したが酷い空腹を覚え寝台を抜け出すと、居間から話声がするのに気付いた。

 祖父や母とは違う声が混じって居る様な気がする。それがひそひそと、まるでエルヴィンに聞かれるのを怖れるように声を殺して話しているのが気になり、思わず聞き耳を立てた。

「今回の様な事が在っては……この村にも危険が及ぶやもしれぬ」

 男の声。この声は聞き覚えがある。“今回の事”と云うのはあの禍々しい黒い影に襲われた事だろうか? そう、この声の主はあの時果敢に黒い影に立ち向かった青い衣の者の声だ。

 あの一件が夢でなく現実だった驚きもさることながら、自分が此処にこうして生きている事に驚いた。あの時負った筈の瀕死の重傷。それがまるで痛まない。あの時口から流れた血の味をエルヴィンは思い出した。

「お城へ行けばあの子は守ってくださるのですね?」

 母の声だ。

 まるで自分を手放そうとしている母の言葉に、エルヴィンは悲しくなった。

「ヴェロア王家はむざむざ世継ぎを死なせるような事はせぬ。それは安心なされよ」

 あの黒い影が狙っているのは自分だ。自分が城へ行けばあの恐ろしいものから守って貰える。村にも累が及ぶ事は無い。

 しかしエルヴィンはまだ母のぬくもりが恋しい子供。石の要塞と形容されるヴェロア城に籠る事や、ヒルデガルトの冷ややかな眼差しを思うだけで孤独と不安で身体が震える。その時。

「エルヴィン?」 

 話を聞くのに夢中になり、身を隠すのを忘れていたエルヴィンは母に見付かった。

 母と祖父、そして青い衣を纏った人間がエルヴィンを見ていた。 

 この青い衣の人間はヒルデガルトの従者の一人だ。エルヴィンの腕を切ったのもこの人間だった。

「エルヴィン殿、私はヴェロア騎士団のカミル・キール。王妃の命令により暫く見張っていた」  

 ヒルデガルトはあの傷の一件で諦めた訳ではなかったのだ。

「あの……黒い影は何だったの?」

「名を付けるとしたら“災いを為す者”だろう。あやつらはヴェロア王家の血を根絶やしにする事を目的としている」

 あやつら(・・・・)……あれ一体では無いのか……とエルヴィンは愕然とした。

「僕は、死んだんではなかったの? 何故生きてるの?」  

「それがエルヴィン殿に王の血が流れている何よりの証拠。我が王は……」

 カミルは云うか云わぬか逡巡したが、目を伏せた一瞬のち、今度はエルヴィンの目を真っ直ぐ射るように見据えてこう云った。


「我が王は不老不死なのだ」


 不老不死。

 エルヴィンにはいささか難しい言い回しだが、その言葉が以前母の云った“呪い”と重なり思わず涙が溢れた。

 

 それは人間でもドワーフでもなく、あまつさえ呪われし業の血を引く自分の行く末を思い、そしてこの村との別れを確信した涙だった。

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