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竜の涙




 怪物が狙いを定めたのはホルトだ。

 若過ぎる騎士は、突然の事に逃げる事すら出来ず、呆然と異形の者の真っ赤な口の中に並ぶ鋭い牙を見ていた。

「ホルト!」

 エルヴィンは思わず怪物とホルトの間に飛び込んだ。

 ……次の瞬間、凄まじい痛みがエルヴィンを襲う。

 肩から胸までを怪物に噛まれたのだ。

 ぎりぎりと牙が肉を裂き、骨まで達する感覚。あまりの痛みに声すら出ない。

「うわああ! エルヴィン!」

 我に返ったホルトは闇雲に剣を突き刺し、他の騎士達も何とかエルヴィンを救おうとするが、思わぬ馳走を手に入れた怪物は、弄ぶようにゆっくりとエルヴィンの身体を噛み砕く。

 骨の折れる厭な音。

 怪物の口の中に入っている腕は、どうする事も出来ず気持ちの悪い唾液にまみれていた。

 せめて、咥え込まれた腕に短剣の一本も握っていたら、舌を突き刺し、怯んだ隙に逃れられるかもしれないのに。

「エルヴィン殿!」

 騎士達が口々に叫ぶ。

 余りの痛みに意識が朦朧とする中、宮殿の窓から何かが飛んで来るのをエルヴィンは見た。

 青い光を放ち、飛んで来たそれは、怪物の足元に固い音をさせて落ちた瞬間、まばゆい閃光を放ち、弛んだ顎からエルヴィンは解放され、大理石の床に落ちた。

 怪物は大きく開いたままの口から唾液を垂らし、まるで突然石像になってしまったかのように動かない。

 死んだのか? それとも罠か?

 千載一遇の好機にも関わらず、騎士達は武器を手にしたまま異形の者を見据え、深手を負ったエルヴィンを引き寄せた。

 怪物はみるみる縮み、人間の女の姿になったが、あの美姫の姿ではなく怪物と指して変わらぬ醜い老婆となった。

「こ、これは……」その青い光を放つ物を見て、ジルが息を飲む。

「“竜の涙”だ! 間違いない。何故これがここに?」

 それはきっと、途方もない価値の在るものなのだろう。いつまた化け物に姿を変え、襲って来るやもしれぬ老婆の側でジルは輝く青い石を拝むように見ている。

「何をしておる、折角加勢してやったと云うに。早くとどめを刺さぬか」

 聴いた事の無い声が響き、現れたのは頭からすっぽりと、薄汚れ擦りきれた襤褸をまとった者だ。

 エルヴィンは痛みに呻きなからも、その者の声に何故か懐かしさの様なものを感じていた。





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