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闇への誘惑




 エルヴィンは悟った。サヴラの恨みはべリアルだけに向けられているのではない。

 自分の死の真相を闇に葬ったアズウェル王家にも、べリアルの愚行を止める事が出来なかったヴェロア王家にも、そして、五千余年生きたにも関わらず人間ごときにむざむざ殺された竜にさえ、その恨みと怒りの矛先は向けられていた。

 つまり、自分に関わった全ての者を恨み、憎み、呪っているのだ。

 しかし、気が遠くなる程の激しい怨念の濁流の中、ほんの一粒の星のように光る“想い”はかろうじて、サヴラをほんのひととき人間の姿と心に戻る為の足掛かりとなった。

 ―― 二人一緒に年老いて一緒の墓で眠りたい ――

 その、永遠に叶わぬささやかな願い。

 

「ヴェロアの王子、貴方も、深い恨みをお持ちでしょう?」

 甘い声、とろけて眠ってしまいそうなその声が紡いだ言葉はしかしエルヴィンの心臓を凍らせた。

「恨み……?」

「それを持っている限り、貴方は私と同じ。嬉しいわ、仲間が出来て、さあ何十年掛かってもべリアルを探し出して一緒に頭から食べてしまいましょう」

「一緒にするな、俺は……」

「実の母親に捨てられたのでしょう?可哀想に、その母親も食べてしいましょう」

 心臓を、氷の刃で抉られる思いがした。

 何故それを知っている?

 何故、自分の想いを知っている?

 エルヴィンは激しく動揺し、剣を抜く。紫の血が吹き出し、彼の顔を染めた。

 紫色の視界の中で、マルガレーテの身体を食らう自分を想像し、不覚にも甘美な感情が沸き上がるのを感じていた。

「そう、人間の血肉はえもいわれぬ美味。食ろうてみたいとおもわぬか?」

 サヴラは甘い声で誘惑する。もしここで首を縦にふれば自分もサヴラの眷族と成り下がる。

 このような業を背負わせたべリアルを、マルガレーテを、ヒルデガルトを、その身体を引き裂いて貪り食えばどんなに気が晴れるだろう。

 エルヴィンの心は黒い深淵に浸された。

 赤い筈の自分の血が、紫に変わって行くのを感じる。

 このまま闇の者と成る事を拒めずにいた。



 

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