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「あれは貴方様の姉君、アズウェル第三王女サヴラでございます」

 エルヴィンは驚愕の眼を見開くアズウェル王に耳打ちした。

「そなたは?」

 無理も無い。今まで王の意識は黒い霧の中をさ迷い、闇の夢を見ていたのだから、夢から覚めた途端この光景を眼にすれば誰しも混乱する。

 しかも、ジルは見知って居ようがエルヴィンとカミルは初めて見る顔だ。

「お初にお目にかかります。西の国ヴェロアのエルヴィン王子と申します。そしてあそこにいるのが騎士カミル ・キール、商人のジルはご存じかと」

「あの化け物は……?」 

「先程も申しましたが、サヴラ王女です」

「馬鹿な……! 姉上はもう何十年も前に亡くなっている。しかも」王は怪物を恐る恐る見る。しかし自分の事を凝視し続けているのに気付き、更に恐怖と気味悪さが増幅したのか、直ぐに眼を背けた。

「余の姉上は大陸一の美姫ぞ。あのような醜い怪物で在るわけがない」

 それを聞くや否や、化け物は天に向かって一際高く鳴き、その声の凄まじさに驚いた王は玉座から転げ落ちた。

 悲し気な鳴き声を発し続ける化け物は、やっと、ロイヒを掴んでいた前肢を離した。ロイヒ卿はそのまま大理石の床に甲冑の固い音を響かせて落ち、首を奇妙な方向に曲げている。哀れ、もうこの者が命を失なっている事は誰の目にも明らかだが、それでもカミルは彼の身体を揺さぶり「ロイヒ卿! しっかりなされよ、ロイヒ卿!」と、もう永遠に何も聞こえない耳に呼び掛けていた。

 化け物はアズウェル王ににじり寄る。ひとかけらの人間の心が、肉親に拒絶された哀しみに、先程受けた傷より遥かに深く傷付いているのだ。エルヴィンはそれが解っている。その傷がどんなに深く痛いかを。

 そして、この醜悪な化け物が一体何を欲しているのか、期せずして悟ってしまったのだ。

「サヴラ王女」もう一度、その名を呼んだ。

「たとえ何十年掛かっても、必ずや貴女の欲しているものを差し出そう」 

 化け物の動きが止まった。

 そしてゆっくりとエルヴィンを見る。

 その瞳は心なしか醜悪で獰猛な先程のものとはうって代わり、知性と慈悲深さを湛えた人間の乙女のものに見えた。

「だから……」エルヴィンは先程、王の側に行った時に拾った腕輪を後ろ手に、つまり、化け物から見えぬように自分の腕にそっと嵌めた。そして、革帯の後ろに差していた短剣を掴むと化け物に近寄る。もし、化け物が気を取り直し、攻撃を仕掛けたらその華奢な身体は原型を留めぬほどになるだろう。それさえも気にせず、確固たる確信を持っていた。そして

「だから、それまで眠っていて頂けまいか?」

 そう云うと、短剣を化け物の胸に柄まで突き刺した。




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