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一筋の勝機




 例え醜い化け物とは云え、元は美しく心優しき姫君。

 それを無残にも斬り刻むのは気が引ける。もし、呪いを解く方法が在れば、元の美姫へと戻り、安らかな眠りにつく事が出来るかもしれない。

 三人共に、そのような気持ちは在った。しかし、今は化け物……サヴラ王女に対する憐欄の情など、遥か彼方へ消し飛んでいた。

 ロイヒ卿は、もう既に命を失っているのだろう。紅い血と対照的な蒼白い顔、力なく項垂れる首を見れば、誰しもそう思わずには居られない。

 しかし、それなのに、カミルは化け物を攻撃しようとはしない。ロイヒ卿の亡骸を傷付けるのを恐れてか、それともまだ彼の命が在ると思って居るのか。

 そんな三人を嘲笑うかの様に、化け物は鋭い牙が並んだ口を大きく開けた。

 喰う気なのだ。ロイヒの身体を。

 なんたる冒涜。なんたる浅ましさ。

「止めろ!」

 力の限りエルヴィンは叫び、その時、身体の自由が戻っている事に気付いた。

 骨が折れたのか、筋が切れたのか、思うように動かせ無かった身体の自由が。

 音をさせぬよう細心の注意を払い、腕輪を外すと、カミルに放る。

 しかし、腕輪はカミルに届かず、化け物の背中に当たった。

 その時。

 化け物が苦し気に身を捩り、苦痛に満ちた鳴き声を上げているではないか。

 腕輪が当たった箇所からは煙が上がり、焼け爛れたようになっている。

 先程感じた微かな熱は、悪しき者にとっては溶けて沸騰した鉄のような温度となるのかもしれない。

「ロイヒ卿を離せ! 化け物!」

 カミルが叫ぶが、痛さに暴れる化け物は、それでもロイヒを握って離さない。

 その前肢を闇雲に振り回す度にロイヒの身体は首が千切れんばかりに舞う。

 一方、エルヴィンは物云わぬアズウェル王の元へと向かった、もうこの化け物は名を呼んだとてサヴラ王女の姿には戻らぬだろう。

 それはひとつの賭けだった。アズウェルの民が死に絶えたのに、王族だけが生き残っていたその意味を、サヴラのほんのひとかけら残った人間の心を、逆手に取るのだ。

アズウェル王の耳を調べると、右耳の孔から小さく細いものが覗いている。

 これこそ、ヒルデガルトやミルラが語っていた“黒い蜥蜴”に相違ない。

 王はこれで操られていたのだ。

 耳からそれを引き摺り出すと、成る程やはり、小さな黒い蜥蜴だ。

 王は目に知性の光が戻ると共に、目の前の光景の余りの凄まじさに驚きの声を上げた。

「何事ぞ? その醜い怪物は何なのじゃ」

 王が正気に戻ったのを察してか、化け物はゆっくりと王の方を向く 

 愛しき弟に“化け物”等と云われるのは心外だ。そう云わんばかりに背中の痛みも忘れ、王を凝視しているように見えた。 

 


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