亡者と老騎士
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近隣の村に待機していたグスタフ率いる援軍は、ラインハルトが駆け付けるや否や馬を駆り地響きを轟かせアズウェルに向かった。
この時の為、装備は万全だった。しかし、誰もがそれを徒労に終わる事を願っていたのだが。
グスタフは馬を鞭打ちながら、五十余年前の事を思い出していた 。
運命の歯車が違えば、自分は今、此処にこうして生きて居られなかった。
しかし、結局、あの酔狂なべリアルの尻拭いをする破目になるとは。
苦笑。
そう、苦笑するしかなかった。
もし、許されるなら、アズウェルの王に差し出す事なく、べリアルをこの手で亡き者にしたい。
それは口には出さねど、ヴェロア騎士団の老騎士の誰もが思っている事だった。
あまりにも身勝手な君主、しかし、それに従わなければならない己れの立場。
せめぎあう感情はしかし騎士道の教えを重んじるが故に辛うじて塞き止められている。
ヒルデガルトの哀しげな横顔。
エルヴィンの屈託の無い笑顔。
それは守らなくては、騎士として。
守るに値するものだと老騎士達は信じている。
あの日、べリアルが不老の身体を手に入れたあの日、グスタフ他此処に居る老騎士はべリアル王子の護衛から外された。
それは当時の王の命によるものだったが、事が終り、護衛にあたった者達は全員命を落としたと聞かされた時、友の死を嘆きながらも自分らを弾いた王に心から感謝した。
しかし。
今、老騎士達はその身体に纏った甲冑よりも重いものを感じている。
それはきっと、べリアルの酔狂に付き合わされて死んだ友の怨念に違いない。
「とり憑かば憑け、友よ、その代わり、これから起こる闘いの助太刀を頼む」
グスタフは嗄れてはいるが、太く低い声で云う。しかし、それは数十頭の馬の蹄の音で掻き消された。




