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隠してあるもの




 自分が人を傷付けた自責の念に加え、それがエルヴィンの実の母であったと云う驚き。

 ミルラは今にも張り裂けそうな小さな胸を抱えて震えていた。

 ―だから王妃様はあの時、誰にも云うな。と―

 親が死ぬ悲しみは誰よりも解っている彼女であればこそ、罪悪感は重くのし掛かる。もし、あのままマルガレーテが死んでしまったら……と思うと、エルヴィンが帰って来ても合わせる顔が無い。 

 いや、それどころか、あの赤毛の少年は自分を責め、なじるだろう。親を殺した者を許せる訳が無い。


 折角、城に来てからふっくらとした子供らしい体型を取り戻しつつあった彼女だったが、何も口にしない日々が続いた。 女官達は「親を失った寂しさが今出て来たのだろう」と、果実の搾り汁などを与え、後はそっとしておいた。

 しかし、みるみる落ち窪む彼女の目を見て、流石に心配になった女官長は彼女の行動を監視する事にした。異国の孤児とは云え、王子が連れて来た大切な客人。何か在っては王妃と王子にどのような罰を与えられるか解らない。

 それに、ミルラは女官や侍女さえも今は出入りを禁じられている王妃の部屋へ自由に出入りしている。

 子供だと思って王妃が甘やかしているのだ。と解釈した女官長は、それも少したしなめねばならぬ。と思ったのだ。


 そんな女官長の考えなど露程も知らないミルラはただただ涙に暮れていた。  

 ―もし、私の父様や母様が、誰かに殺されたのだとしたら、私はそいつを許さない。だから、きっとエルヴィンも私を許してはくれない― 

 明けない夜をさ迷うように、陸地の見えぬ海を漂うように、彼女は罪の意識の中に沈んでいた。 もし、彼女の夜が明け、陸地にたどり着く事が出来るとするならば、それはマルガレーテの傷が癒え、何事も無かったように村に帰った時だろう。 

「ああ神様」ミルラはアズウェルの方角を仰ぎ、アズウェルの神に祈った。

「エルヴィンの母様の傷が治りますように」

  

 その祈りの言葉はミルラの部屋の外で聞き耳を立てていた侍女を混乱させた。

 王子の母とはヒルデガルト王妃ではないのか?

 王妃が怪我をした等とは聞いていない。

 もしかして、産みの母の事だろうか? 

 しかし、彼女はドワーフの村に居る筈、怪我をしたかどうかなど判らぬのが道理。


 不審に思った侍女は、聞いたままを女官長へ報告した。

「御苦労。ヒルデガルト様がこの処ずっと人払いをしているのは御部屋に何か隠しておいでなのでしょう。ミルラの呟きも嘘や思い違いでないとしたら、王子の実母様を匿っていると……」 

「女官長、実母様がいらしたのなら何故匿う必要があるのですか? お世話や接待もしなければならないし、私達に何か一言有っても良さそうに存じます」

 流石に頭の切れる女官長も、侍女の疑問と同じものを感じていた。

 王子を村に帰さず実母に会わせないようにしていたのは、単に早く城に馴れさせ、王族としての意識を持たせる為だと聞いていた。ならば王子不在の今、実母が訪ねて来たとしても隠す必要は無いだろうに。

「傷……と云ったのですね? ミルラは」 

「ええ、女官長、ミルラは確かに“エルヴィンの母様の傷が治りますように”と、祈るように云っていました」

 女官長は厭な胸騒ぎがした。

 女の勘とでも云うべきか。

 我が子と会えない母親の苦しみは、子の無い彼女でも容易に想像出来た。

「王妃様の部屋をあらためましょう。王妃様に何か在ってはなりません」

「でも、勝手に部屋に入る訳には……」

 侍女が狼狽えるのも構わず、女官長はヒルデガルトの元へと急いだ。





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