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アズウェルの王





 先程アズウェル王に伺いを立てに行った女が戻って来て、謁見の間に来るよう促した。

 一行は女の指示に従ったがか、まるで幽霊でも見たかのような、不気味な気分は纏わりついたままだ。


 そこには更に珍しく美しい調度品が配され、アズウェル王の権力と財力、そして美意識をまざまざと見せ付けている。

 正面の玉座にした王の両脇にたおやかで一段と美しい装束を身に纏った女達が寄り添う。王妃と王女か、それとも側室か、どちらかは解らないが彼女らもまた、王の権力の象徴の様に見えた。

「商人ジルよ、久方振りであった」

 元々、顔見知りであったらしいジルに、王は威厳の中にも気さくな物腰で語りかける。

「ご無沙汰しておりますアズウェル王。今日は色々珍しいものも取り揃えてございますが、何でも近々武器防具が御入り用とか」

 ジルがそう云うと王は高らかに笑う。心底愉快そうなその声は艶めく石の壁に反響した。 

「余は戦などと云う野蛮なものを好まぬのを知っての冗談か、これは愉快」

 エルヴィンとカミルは思わず顔を見合わせた。今まで、書簡でのやりとりではあったが、“ヴェロア王を差し出せ”と云って来たのは他ならぬアズウェル王であった筈だ。それとも何者かが王の名を騙り、ヴェロアに脅しをかけていたと云うのか。

「見よ」アズウェル王は大きく開いた窓の外を指差し云う。

「この豊かで美しい国を、幸せそうな国の民達を、戦などして何の得があると云うのだ」

 窓の外の街は、祭りでもあるのか大層賑やかだった。しかし、エルヴィンはあの死んだ街こそが真実の姿だと思った。 

 では、何故城の中だけが別世界なのだ?

 城の中から見る街は何故“生きて”いるのだ?

「まことに、王のご尽力の賜物でございます……が」ジルは含みを持たせた云い方をする。人の腹を探るのは商人の専売特許、それを引き出す話術も。

 エルヴィンとカミルは此処はジルに任せるべきだと踏んだ。

「他国では王の偽者が横行しているようです。お気をつけあそばせ」

 ジルのこの言葉で笑みを湛えていた王の顔が曇った。今にも怒り出すのでは? とエルヴィンは気が気で無い。

「なんと、余の偽者と? 他国とはどこの国であろう?」

 ジルはうやうやしく跪き、頭を下げ、云う

「西の国、ヴェロアでございます」

 ……と。







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