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アズウェルの領地




 カミル、ラインハルト、ジル、そしてエルヴィンの偵察隊は ミルラの腕輪の効力のお陰か、“黒い影”に襲われる事無く山脈を分かつ街道へと差し掛かった。

 道の両側が切り立った断崖絶壁。少しばかり圧迫感のある場所だ。もし、崖崩れでもあればひとたまりもない。

「ここを抜けるとアズウェルの領地になります」

 旅慣れた彼の案内で特に疲れる事も無く此所まで来た。

 一頭立てのジルの馬車にはカミルとエルヴィンが、そしてその後ろに馬に乗った伝令のラインハルトが続く。皆、慣れない異国風の装束を纏っていたが驚く程着心地が良く、それも疲れを感じぬ要因のようだ。

「この山脈の一番高い山に竜が棲んでいたと云う伝説があるんですよ」

 元来暢気なジルはそんな事を話して聞かせる。

 事実、一行はジルの話を聞いていると自分達がヴェロアの騎士などではなく、もう長い事どこか異国の地からはるばる旅をして来た商人だと云う錯覚をおぼえた。

 休憩する為の水辺の場所も心得ていて、食用になる野草や木の実も知っているジルには皆が一目置いた。


 やがて、山間を抜けるとアズウェルの城が見えて来た。

 機能重視の武骨なヴェロア城とは対称的に、尖った屋根の高い塔が幾つもそそり建ち、そのどれもが美しい色彩で彩られている。それはまるで細くたおやかな貴婦人が談笑しているようにも見えた。

「なんと美しい……」 

 誰ともなくそんな声が漏れる。この美しい城が従える城下街で、ジルの見て来た凄惨な出来事が起こっていたなど誰が思うだろう。件の街はもう目前に迫る。

「ラインハルト、御主は此処で待機だ。もし、日没までに我等が戻らぬ時は、援軍を呼びに行け」

 日没迄にはかなりの時間がある。城内に探りを入れ、戻って来るのには充分な時間が。

「承知しました。隊長」

 街道を北へ逸れた所に援軍が待機している筈だ。だが“戻れない”と云う事は一行の身に何かあった時に他ならない。

 つまり、その時には既に手遅れになっているかもしれないのだ。

「カミル殿、僕に良い考えがありますよ」

 ジルが恐る恐る口を挟む。そして、馬車の道具入れから、何やら丸いものを取り出した。

「それは?」 

 その見たこともない不思議な形状の物を見てカミルが訊く。

「“雷玉”と云う物です。これを地面に叩きつけると物凄い音がするんです。それはもう耳がどうにかなるくらい。きっと城の中で使っても此処まで音が届くでしょう」

 それはジルが辺境の地で買い付けて来たものだった。売り主の話によると、遠く離れた相手に何かを有事を伝える為の物。

「おお、それは有りがたい。では、何か有ったらこれを使おう。音が聞こえたら走ってくれ、ラインハルト」

「解りました」

「ちょっと待って、一体どんな音がするの? 解らなければ他の音を聞き間違える事もあるよ」 

 雷玉を珍しそうに見ていたエルヴィンが訊くと、ジルは不敵に笑い

「怒る神の落としたいかずちの音ですよ」

 とだけ云った。





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