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居場所の無い故郷





 そのまま駆け続け、村が見えてきた。

 生まれ故郷のドワーフの村、懐かしさで張り裂けそうな胸を押さえながらエルヴィンは更に馬の足を速める。

 鍛冶場から昇る煙、粉引きの水車の音、羊や鶏の鳴き声。何もかもが懐かしかった。

 母は、祖父は、友は、驚くだろうか? 喜ぶだろうか?

 自然に笑顔になるのに、涙が出るのが止められない。

 ふと、小川に子供達がいるが見えた。あの時と同じだ。親友ヤンの姿が見え、直ぐ様声を掛けると、彼は驚いた顔をして駆けよって来た。

「エルヴィン!」

「エルヴィンだって?」

「エルヴィンが帰って来た!」 

 他の子供達もヤンに続き走って来る。馬を降りたエルヴィンはその一人一人と抱き合い、再会を喜び合った。

「どうしたんだ? 王様になるんじゃなかったのか?」

「うん、でもちょっと村に帰ってみたくてさ、母ちゃんとじいちゃんは元気かなあ?」

 しかし、そう訊いた後、ヤンの顔が曇った。

 懐かしく楽しい気分は何処かへ消え、厭な胸騒ぎを覚えた。

「まさか……」

 どちらかがやまいでも患ったか、それとも……

「母ちゃん! じいちゃん!」

 家まで駆けようとしたエルヴィンをヤンは引き止め、こう云った。

「元気だ! 心配するな、二人共元気だ! でも行っちゃいけない、このまま城へ帰れ!」

 元気ならば何故会えないと云うのか? ヤンの言葉は矛盾に満ちているように感じる。

 やがてエルヴィンはヤンを振り切ると家へ向かった。夢にまで見た懐かしい我が家へ。


 煙突からは煙が漏れ、何かを煮炊きするいい匂いがする。

 ああ、いつも、いつもこの匂いを嗅いでいた。幸せだったあの頃。

 堪らず扉を叩くと母の声がした。

「誰だい? 今、手が放せないから勝手にお入りよ」

 相変わらずの母の様子にさっきの胸騒ぎは消え、嬉々としてエルヴィンは扉を開けた。

 椅子に腰掛けている母がいる。

 そしてその腕には……

「エルヴィン?」

 驚いた母の顔。でもその顔には再会の喜びよりも困惑が浮かんでいた。

 母がその腕に抱いていたものは、産まれたばかりの赤ん坊だ。そして

「どうしたんだい? マルガレーテ」

 そう云いながら家の裏口から入って来たのは村の男だ。確か鍛冶職人のペーターだ。

 その光景を見て、ヤンの云っていた矛盾だらけの言葉の意味を理解した。 

「うわああ!」

 小さい子供が泣くように、恥も外聞も無く泣き叫びながら家から走り去る。

 ずっと、帰る日を夢見ていた我が家、会うのを楽しみにしていた母。しかし、もう此処には自分の居場所は無い。 

 解っている、村一番の美人である母がいつまでも放っておかれる筈がない。

 だが、その真実を受け入れるにはエルヴィンは子供過ぎた。

 馬を繋いでいた場所まで戻ると、ヤンと他の子供達が心配そうにエルヴィンを迎えた。

 急いで涙を拭うと、家にいた男……ペーターが追いかけて来ているのが見えた。

「すまないエルヴィン、でもマルガレーテはお前の事を捨てた訳じゃないんだ、いつまでもあいつはお前の母ちゃんだ、それだけは解ってくれ」

 そう弁解し、肩を掴もうとしたその手をエルヴィンは振り払い、冷たく燃える眼で云い放った。


「気安く触るでない、無礼者! 余はべリアル王が嫡子、エルヴィン・フォン・ヴェロアなるぞ!」


 ……と。






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