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真実の王が眠る城  作者: 鮎川 了
Königin
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落胆の王妃





 それから数十年の月日が流れ、ヒルデガルトの黒髪にも白いものが混じりだして来た頃、国王が崩御した。

 当然、王子が王位を継ぐ事になるが、この頃になると彼は殆ど人前に姿を見せなくなった。

 ヒルデガルトや城の者があの黒い化け物に襲われる事は無かったので、化け物退治は続けているらしいが、国王の死に目にも会わず、戴冠式の仕度をする訳でも無く自室に籠りきりなので、とうとうヒルデガルトの堪忍袋の尾が切れた。 

「王子、何をしておいでです! 義父上は死に際に実の息子である貴方様に会えない未練を遺して亡くなりましたよ。せめて戴冠式ぐらい立派におやりなさい」

 扉越しにそう叫ぶと、何やら衣擦れのような音がして王子の声が聞こえて来た。

「父上には挨拶を済ませた。亡くなった日の前夜に。戴冠式は出るが、余の姿を見て驚くでないぞ」

 亡くなった日の前夜……一人で彼は父王に会いに行ったのだろうか? 闇に紛れ、そうまでして他の者に姿を見せたく無い理由とは何だろう。

 ヒルデガルトはあきれ果て、そのまま何も云えなくなった。

 乙女とみまごう美青年が歳を取り、容姿が衰えて来たのを気にしているのだろうか? 女であるヒルデガルトでさえ、それは生きている限り避けて通れない事と諦めているのに。

 しかし、王子が生きている事知り、安心した。この上王子まで死んでしまってはヴェロアの血筋がここで絶えてしまう。

 婚礼以来の晴れ舞台。その筈なのだがヒルデガルトは一人、重く暗い気持ちでその日を待たねばならなかった。



 そして戴冠式当日、ヒルデガルトは我が目を疑った。

 金糸銀糸の刺繍を配し、縁には雪豹の毛皮をあしらった荘厳な衣。まさに王たる者に相応しい装いで現れたのは王子……否、新王となる男。しかし、ヒルデガルトが驚いたのは衣装の豪華絢爛さにではない。 

 新王べリアルは数十年前と同じ若者の姿のままだったのだ。

 式場にどよめきが起きた。無理もない。不惑の歳をとうに過ぎている筈の男が、まるでヒルデガルトの息子と云っても不思議ではない若々しさで現れたのだ。

 ―余の姿を見て驚くでない―

 それはこの事だったのか、とヒルデガルトは納得するも、何処か夢を見て居るようで、現実感の無いまま式は終わった。


 元婚約者を化け物にし、自らは不老の身体。ヒルデガルトは我が夫が人ならざる者だと知り、落胆する。

「ああ、同じ田舎貴族に嫁いだ方がよっぽど幸せになれたかもしれなかったのに」 

 自分の顔の衰えを鮮明に映し出す無情な鏡を見ながら、誰に云うでもなく、そう呟く。しかし、もう後戻りは出来ない。

 彼女は王妃となったのだから。 



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