Snow Days ~Winter Vacation~
「今日から冬休みです!」
「そうだな」
雪がちらつく中、帰り道でユキが突然そう宣言し、俺は適当に返事をする。
「あれ、トシ君素っ気ない……」
嬉しそうな表情から一転、俺の返事を聞いてユキは捨てられた子犬のような顔をした。
やめろ、そんな目で俺を見るな。
「冬休みなのに、嬉しくないの?」
「冬休みって言っても2週間もないんだし、どうせ受験勉強で潰れるだろ。別に嬉しくもなんともない」
雪道を通学しなくて済むのは楽だが、受験を控えている身としては長期休みに魅力を感じない。どちらかというと、家より学校にいる方が集中できる。
「で、でもでも、お正月来るよ!」
「それが?」
「初詣いけるよ!」
「……行きたいのか?」
「うん! トシ君、一緒に初詣行こうよ! ……ダメかな?」
「別に正月じゃなくても神社には行けるだろ。初詣の時って人も多いし」
同じ学校の奴に見つかったら尚更厄介だ。
カズにでも見つかったら、生涯ネタにされてからかわれ続けるに違いない。
想像したらムカついてきた。今度会ったら殴っておこう。
「うぅーでも、受験でしょ。合格祈願しようよ、一緒にお参りして、おみくじ引いて、お守り買おうよ!」
「神頼みするほど切羽詰まってない」
「ト、トシ君はそうかもしれないけど、私は神頼みしたい!」
「じゃあ一人で行けよ。親と行くとかさ」
言うと、ユキは悲しそうに目を伏せた。
「お母さん、大晦日までお仕事だから、疲れてると思うし、夜遅くに付き合ってもらうのも悪いなって……」
言われて俺は二の句が継げなかった。
「あ、あとあと、夜に一人で外に出るの怖い!」
「お、おう……」
「だから、トシ君と一緒がいいなって……」
尻すぼみになってしゅんと黙ってしまったユキに、俺はため息をついた。
しおらしくされると弱い。
俺はポンとユキの頭に手を置いた。
「わかったよ、一緒に行ってやるから」
すると、パァッと花が開くようにユキの顔に笑顔が浮かぶ。
「ほ、ほんとに!? ほんとに一緒に行ってくれるの!?」
「行くって言ってるだろ、しつこい」
「えへへー! ありがとう、トシ君!」
「……おぅ」
眩しいくらいの笑顔を向けられて、つい目を逸らしてしまった。
雪道で転びそうになるユキを支えながら家まで送り、また明日と言って別れた。
冬休み中、暇な日は勉強会をすることになっている。俺は一人の方が集中できるのだが、ユキがどうしてもというので仕方なく付き合ってやることになったのだ。
冬休みでも、あの天然っぷりに振り回されるのか。
俺はため息をつきながら家に帰ると、自室のストーブを点けて、机に向かった。
ふと、机上の卓上カレンダーを見て、1日に赤ペンで丸を付ける。
ユキとの初詣を楽しみにしている自分がいることに気づき、なんだか恥ずかしくなってベッドに倒れこんだ。
誰も見ていないのはわかっていたが、枕に顔を押し付ける。
母親が夕飯だと呼びに来るまで、俺はそのままじっとしていた。
顔の火照りはすっかりおさまっていた。