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RとP、そしてG  作者: T長
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第八章 〈王姫〉

 そんなで、明け方までグダグダ呑んで、最終的にはなぜか泣きながら気が狂ったように肩を叩き合ったりしていたおれたち三人は、いつのまにか爆睡していた。じりじり日の照る頃に唐突に入った大司教からの通信で無理矢理起こされ、痛む頭をぶら下げながらしぶしぶ西の塔へと向かう。

 この塔にはバラキア隊長っつう、そこそこランクの高いドラゴン使いだか何だかの魔物がいる。グイド曰く、バラキアは「ガチガチの魔王崇拝主義」らしいのだが。これからそのバラキア氏に面会し、勇者をおびき出す策を練るのである。おれを謀る会議におれが出んのね。はは、すげえばかみたいなんだけど、そうなっちゃたんだからしょうがねえ。まずは相手の出方を見て、じっくり懐柔、教唆してゆこうじゃねえの。

「どうも〜、モジャ山です」

 跳ね橋を渡った所に塔の巨大な木の扉。小鬼のような門番は、薄く牙の覗く口で礼儀正しく答えた。

「ハデス大司教のお使いの方ですね。お待ちしておりました、どうぞ」

 インテリアなのか何なのか、塔の中は所々炎が燃えており、モジャモジャ生物の毛を纏ったおれとペンネには厳しい気温となっていた。汗で、毛が張り付くの。そんなおれたちにはお構いなしに、失礼、と小鬼は地面に図形を描き、そこに乗れと言う。魔法的な原理を応用したエレベーターで、一気に最上階へと上がる事ができるようだ。しかしこれ、物語通りだったら全部歩きで登ってたんだろうな。くっそ、創造主のサディストめ。

「バラキア隊長をお呼び致しますので少々お待ちを」

 鷲鼻の、紫色の肌をした兵がそう言って奥へ引っ込んだ。最上階は下よりは大分涼しい。コンクリート打ちっぱなし、といった感じの殺風景な部屋で、妙に天井が高かった。キョロキョロと観光気分でうろついていると、

「誰?」

 女の囁き声。はっとして振り返った壁面のど真ん中、鉄格子つきの扉に恐る恐る近付いてみる。

「アンタこそ、誰?」

 すると格子の奥からサッと顔を出した金髪の女。

「アタシはリータ姫。あなた、もしかして勇者様?」

「なな、なわけねえじゃん、なにいってんの?」

 こわっ!なんでわかるんだ?女のカンって奴なのか?少し引いていた汗が噴き出る。

「そうよねー。モジャモジャだものねー」

 焦ったあああ。いきなりバレたかと思ったぜ。しかしリータ姫って、もしかしてアレか?おれがほったらかしにした囚われの姫。ふうん、歳は十七か十八あたり。まあ普通に、可愛い子だと思います。でもなんかちょっとキツそうだし、頭悪そう。そっかこの子かぁ……悪かったなあ。

「何見てんのよ」

「いえ別に」

 その時だ。

「おはようございます。リータ姫。御気分は如何です?」

 実にスマートな感じで現れたのは、角の生えた髑髏。髑髏はおれたちに軽く会釈。

「少々待ってね」

 そしてすぐ姫に向き直ると鉄格子をきい、と開けた。

「お食事の用意出来てますよ、姫。マンゴープリンもあります」

「やったあマンゴープリン!バラキア大好き!」

 リータはニコニコしながら飛び出して行った。ありゃ?どうなってんのコレ。姫は囚われてんじゃあなかったのか?

「お待たせ。私がバラキアだ。ええと、モジャ……」

「モジャ山です。こっちはモジャ原とグイド」

「そうか、よろしく。まあ座りたまえ」

 自ら椅子を出してくれた。紳士的、でも気さく。とてもガチガチの魔王崇拝主義者とは思えないぜ、この人。人じゃないか、この鬼ドクロ。

「早速だけど、君らは勇者をここにおびき出す算段をしに来たんだよね?」

「ええ」

「ちょっと失礼」

 バラキアさんは、ペンネが持っていたハデス司教の小箱を手にとると、何やら呪文を呟きながら指でくるりと1回転させた。

「……これでいい。あのな、その話、忘れてくれ」

「ど、どういう事です?」

 おれもペンネもグイドも、ついついハモってしまう程、驚いた。バラキアさんは口の前に人差し指をあて、穴と化した目を細める。

「しっ。大声は駄目だ。私は君らに協力して貰わねばならない。私が竜を操れるのは知っているよな?悪いけど君らに選択の余地は無いんだ。いいね?」

 こく、こく、と、おれ達が阿呆みたいに頷くと、バラキアさんは少しばかりホッとしたように椅子にもたれた。

「今更、この塔に勇者が来てもらっては困るんだ、私は。君らもハデス司教に内緒でそのように動いて欲しい。頼む」

 その声には何か悲痛なものが含まれているように感じられた。おれはなかなか言葉を繋げなかったが、やっとの事で、一言。

「協力は、します。理由だけきかせて下さい」

 バラキアさんは至って真剣な口調で答えた。

「……リータだ」

 奥の部屋から、そのリータ姫の笑い声と食器をカチャカチャさせる音が聞こえる。

「勇者は来なかった。私がリータと共に過ごした時間は、あまりに長過ぎた……情が移ってしまったんだ。私はリータを愛してしまった」

 バラキアさんは自嘲のつもりか、カタカタと骨を鳴らし。

「だがリータは今も勇者を待っている。勇者が来ればあの子は私より勇者を選ぶだろう。滑稽なのは百も承知、それでも私は、リータを、失いたくないんだ」

 グイドが怖ず怖ずと口をきいた。

「本気なんですか隊長、あなたは、その……ガチガチの魔王崇拝主義と聞いていましたから」

「時は、魔物を変える。グイド君、きみは恋をした事があるかね?リータを失うかも、と思うと、毎日、心が潰れてしまいそうになる。発狂しそうだよ私は。魔王?組織?ははは、そんなもの、犬にでも食わせればいい!」

 言いきりやがった。バラキアさん、あんた本気なんだなぁ。

 正直、おれは色恋沙汰は苦手なんだけども。でもこの人の本気度は凄く伝わる。姫は間違いなく、おれなんかよりバラキアさんを選んだ方が幸せになれるはずだ。

 つうか、おれああゆう子タイプじゃねえんだよね……もっとあの、豊満なさ、姉さまっていうかさ、百戦錬磨っぽい、アダルティな?おっぱいビンタな?いや、今それ関係なかったわ。

 バラキアさんの計画はこうだ。勇者には、姫は死んだとひそかに通達する。組織には、勇者をおびき出す事には成功したがバラキア隊長は勇者と戦って敗北し、死んだと伝える。

「私はリータと共に、逃げる。その後は全て私が君らを脅迫して行った事だと白状して構わない。巻き込んで済まないな。せめて礼金を受け取ってくれ」

 チャリン、と、おれの方に重い袋をよこそうとして、バラキアさんの動きが止まった。その視線を追って振り返った先に、リータ姫が佇んでいた。

「勇者を……来ないようにするって、何よ!バラキアは知らないんだわ!勇者様がどれだけアタシを愛してるか!」

 えっ……?

「行かないからね!アタシ!」

 リータ姫は鉄格子の部屋に閉じこもってしまった。

「リータ……!リータ!」

 返事は無い。バラキアさんは頭を抱えた。おれも頭を抱えた。な、何だあの女、会った事もないおれが、愛してる、だって?何いってんだ?イカレてんじゃねーのか?や、やめてくれ、有り得ねえ。女の思い込みって怖ぇ。

「ワガママで、思い込みの激しい子だと思うかね?」

 バラキアさんが淋しい声を出した。

「でも純粋なんだよ」

 その時、かたん、とペンネが椅子を引いた。

「バラキアさん。彼女、今は貴方の声が届かない。第三者の僕らで説得してみましょうか?」

 そう言ってペンネはおれを見る。ああ、分かったよ、仕方ねえなあ、やるよ。


 バラキアさんには奥の部屋に行ってもらって、おれらは鉄格子の前に集まった。

「おい、リータ姫さん、ここ開けてよ」

「いや!アンタ関係ないじゃないの!」

「そりゃどうかな?」

「開けないもん絶対」

「おれが、勇者本人でも?」

 はた。と、リータの動きが止まる。

「……嘘よ」

「嘘なもんか。アンタを助けに来たんだ。ほら、モジャモジャは変装。な?開けてくれよ」

 リータは扉に近付いてきた。

「……本当にあなたが勇者様なの?アタシと、運命の繋がった、勇者様、なのね?」

 鍵を、外した。扉が開く。

 格子が嵌まった部屋とは思えぬ豪華さ。おれはすかさず、天蓋付きベッド姫を突き飛ばした。

「やめて!何するの!」

 悲鳴を上げるリータの右手左手をペンネとグイドがそれぞれ押さえ、おれは両足をロック。

「アンタ偽物ね!?」

「いいや、本物さ」

 悪党じみたモーションで、モジャモジャの毛を脱ぎ去るおれ。やはりというか、リータ姫は泣きそうな顔になる。分かるんだろうな、本物だって。ごめんな。

「待ってたんだろ?おい」

 そう言って、おれはリータの上着に手をかけた、瞬間、

「やめてーっ!いやだ!助けて!バラキア!バラキアどこ!?」

 すげえ金切り声が響き渡った。想像以上にうるせえ。おれが思わず耳を塞ぐと、

 くいっ、

 と身体が後ろに引き倒された。逆さの視界に怒れるバラキアさんの姿。

「大丈夫か!」

「こわい、バラキア、たすけて」

 リータは躊躇なくバラキアさんにしがみつく。バラキアさんはリータを庇うように抱きながら、尖った靴でおれに綺麗な回し蹴りをきめた。やべえ、かっこいい。おれは阿呆みたいに転がって、阿呆みたいに何度も蹴り飛ばされた。まあ実際、阿呆なんだけどさ。はは、痛ェ、前歯折れてやんの、ちっくしょ。

 リータの危機に我を失っていたバラキアさんは、

「だめだあ退却だあ」

 という、実に白々しい感じのペンネの台詞で、はっ、となった。

「………」

 あ、こっち見てる、気付いたな、あれは。おれは目を逸らした。リータ姫も妙な幻想から醒めただろうし、後は知らねえ。

 おれはペンネに抱えられ、グイドはペンネごとおれを掴んでそのまま窓から飛び出す。最後におれが見たのは、リータ姫を抱きしめながら、こっちに向かって、ペコリと会釈するバラキアさんの姿だった。


 別に、あの二人の為にやったわけじゃねえのだ。

 紫色の夕景となった川のほとりで、口内の血をゆすぎながらおれはボンヤリと考える。だってバラキアさんとリータ姫がくっついてくれりゃ、必然的に西の塔の意義は消滅。ハデスの組織が仕掛けた、おれ抹殺のストーリーを台なしにできるじゃん。それだけの話じゃん。

「塔壊滅作戦の成功を祝して、て事で」

 ペンネとグイドが焼酎を差し出してきた。

「兄貴ほら、乾杯」

「乾杯」

 梅干し入り焼酎は、酸っぱく、しかしほのかに甘かった。

 組織も物語も裏切った恋人ねえ……、別に、おれの知った事じゃねえけど、なればいいよ、お幸せに。

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