第四章 〈火中〉
熱帯雨林の夜が寝苦しい要因ベスト1を決めるとしたらそいつは間違いなく、蚊だ。眠れやしねえ。たまらん、この羽音。
ペンネは死んだように眠っている。つうか、本当に死体に見えて怖いんだけど。顔色悪いし、半目だし。
ああ、酒呑みてえな。何でもいいからさァ。ブラーマン村を出る時に、せめて1瓶ぐらい失敬してくるんだったなあ、と、おれは猛烈に後悔した。
その時である。
どこからともなく、壊れた、ピアノの音が、聞こえてきて。ちょ……だから、おれそういうオカルト怪奇現象ダメなんだって!怖いってば!
「ペンネ起きろ、おい!」
「うん起きる。あとでね」
しばくぞ若ハゲ……。
最もウスい部分を引っ張るという非道な行為で、ようやくペンネを起こし、おれ達は闇に耳を澄ました。
ポロン、ポロン、ポロン、といった感じの、いかにもオバケ的な音。おい、これ段々近づいてきてねえかこれ畜生。姿が見えない以上、音だけが頼りだ。チェインソウのスイッチはまだ入れられない。うるさくなるから。
あれ?つうことは、オバケが襲って来た時、おれ反撃に出るのが一歩遅れるって事なんじゃねえ?あっ、それは、マズい。
おれは、居ても立ってもいられなくなって、あっさりチェインソウのレバーを思っきし、引いた。
やかましいエンジン音。するとやっぱり、前方の草むらから何かが、慌てて飛び出してきた。
そもそも暗いんだ視界が。ショボい焚火はあるんだが、暑いからって離れた所に焚いてたのがもう失敗。
飛び出してきたものは、小柄な人間のように見えたんだが、暗くて何だか全然よくわかんないの。えっなになに?オバケじゃないよね?って目をこらしてるうちに、そいつは何だか硬い棒みたいなモンでおれの肋骨の辺りを横なぎに、ガツンとやりやがった。
完璧にホームラン。
ぐえっ、とか何とか、おれは間抜けな声を出して数メーターぶっ飛んだ。めっちゃくちゃ痛ぇ。シャレんなんねえ。だ、から言ったじゃん……おれ文化系だから主人公のウツワじゃないですよって。
ああ、吐きそう。いってえし、ちくしょー。
フニャフニャ言いながら、よろぼい起き上がったおれに、そいつは再び棒を振り上げて飛びかかってきた。焚火の僅かな明かりに照らし出されたそいつは、ピエロの姿をしていた。夜のピエロって、間近で見るとかなり怖ェ。
二発目はギリギリでよけたが、しこたま転んだ。間抜けめ。っておれだよ。畜生。
最初の一撃で落っことしたチェインソウまで四つん這いで戻った。もう恥も外聞もねえ。高速ハイハイぐらい、いくらでも見せてやるぜ。
って、ピエロ速っ!駄目だ、間に合わねえ……ジ・エンドか、
「目をつぶれクリムト!」
チェインソウの爆音の中、ペンネが叫んだ気がした。瞬間、
ざあっ。
……何かが、降ってきた。
何だ何だ、コレは。水のような液体が大量に降っている。目に入ったのか、ピエロはおれを襲うのを中断してしきりに顔をこすっていた。
あ、隙ありじゃん。
すかさずおれは、這いつくばった姿勢のまんまピエロの足を掴んで引き倒した。こうゆう姑息な事は得意なんだよね、おれ。
ごちん、と嫌な音。地面のちょうど硬い部分にピエロの後頭部が当たったみたいだ。そのまま動かなくなってしまった。パッpラーン。
頭の中のラッパが鳴った。くっそ今鳴るんじゃねえ、肋骨に響くっつうの……。
しかし、まだ降ってんだけど、この液体、何?
恐る恐る、舐めてみる。
「ワーオ焼酎じゃん!これ!」
何で焼酎が?不思議だから手にすくってジュルッジュル呑んでたら、ペンネが
「うまい?」
って聞いてきた。そら美味いさー!久々のアルコォルだもの。つって、ペンネの方を振り向くと。
ペンネの左手には丸い水の塊があって、そこから焼酎が噴き出していた。
「初魔法なんだけど……、これやっぱ僕が酒場の村人だからなのかねえ」
猫背をたわませて、ペンネは少ししょんぼりとそう言った。ああ、何かこう、よく知らねえからイメージだけども、炎が出たり氷が出たりね、そうゆう感じとは、ちょっと違ったよねお前の魔法。
でも、酒が降るのって、すげえ良くない?何つうか、ロマンだよね!アル中のおれにとっては。
で、文字通り浴びるように焼酎を呑みながら、おれ達は手近なつるでピエロを縛り上げた。何の為にって、そら尋問ですよ。おれ達を襲った理由を聞くのよ。
「おら起きろピエロ〜」
って、焼酎をピエロの顔にびっしゃびしゃかける、タチの悪ィおれら、はい酔ってます、酔ってますよォオ。ピエロの奴、目を覚まして自分のおかれた状況に気付くと、絶望的な表情でプルプル震えてやがる。可哀相にな。しかしだね、おれはさっきお前が肋骨にかましてくれたクリーンヒットのお礼をしてやらにゃあ、気がすまねえんだよな。
題して、「呑んで呑んで、また呑んで。吐くまで呑ませる尋問地獄」
ひっひっひ。やれ、ペンネ。
ピエロは、……というか、気付いたんだけどピエロっていうかこいつ、ピエロの形をした生き物なんだな、よく見ると。それでまあ、そのピエロ生物に、おれとペンネは一晩中、酒を呑ませ続け、しかも強制的に、おれらオリジナルの「呑め呑め踊り」を見せつけるという常軌を逸した恐ろしい尋問を行い、そうして遂に、奴から。おれ達を襲った理由を聞き出す事に成功したのだった。
勿論ピエロは最初、頑として喋ろうとはしなかった。しかし段々と目が虚ろになってきて、幾度目かの嘔吐の後、甲高い、か細い声で、しおしおと言葉を吐き出し始めた。その第一声は
「勘弁してくれ」
これだった。ぐったりと青ざめたピエロ生物は語る。
「そっちのひょろ長い男の事は知らないが、勇者クリムト、あんたの事はよく知ってる……、あんたは、おれ達のボスの敵。邪魔な存在だ。だから、この先のチェザーレ村に行かせてはならない。それがオレたちの仕事なんだ」
うえっ。と、ピエロは目を白黒させて喘いだ。
嘘を言ってる様子じゃねえけど、意味がわからない。
「ボスって誰よ、何の話よ。おれ誰かに恨まれてんの?」
「……からかってるのか?酔っ払いめ……あんたここにいるって事は、バラキア隊長を倒したんだろう?何も聞いてないはずが無い……」
「ああ~、バラキア隊長ね~……って誰だよ。知らねえっつうの」
ボスとやらもバラキア隊長とやらも、全然知らない、恨まれる筋合いがねえ。って説明したんだ、おれは。そしたらピエロの奴、珍動物でも見るような顔で、ほざきやがんの。
「ほ……本当に知らないのか、あんた……し、信じられない、全然ダメじゃん」
な、なんだよ全然ダメって……むっかつくわこいつ。
「じゃあ西の塔のバラキア隊長は無事なんだな……」
「おっ、西の塔!それ知ってる知ってる。ドラゴン退治の場所だよね~確か。まあトンズラしちゃいましたけどな」
「そう、その西の塔のドラゴンを操ってんのがバラキアさんで……って待て、待てあんたドラゴン退治トンズラしたの!?嘘ぉ……ほんとひでえ……クズじゃん、全然ダメじゃんあんた、へぶっ」
おれはピエロをグーで殴ってしまった。ドロドロに泥酔してまいってた所をブン殴ってしまったので、ピエロは白目を剥いたきり、うんともすんとも言わなくなっちまった。
まずった。まだ採れる情報はありそうだったのに。いや、おれも酔ってたんで、つい頭にきてしまったのだ。だってこいつが全然ダメとかクズ連呼するからさ、何か、うざくて、ごめんね。
で、鼻に指突っ込んでも復活する気配ゼロなので。仕方ない、おれ達は諦めて焼酎まみれのピエロをほったらかしたまま村に向かう事にした。
おれをチェザーレ村に行かせないのがピエロの仕事って事はだ、村は虎穴、かもしれない。だからこそ……穏便かつ慇懃な態度で。それが、おれ達の作戦よ。いい笑顔の準備はもうできている。
とは言えチェザーレ村の前まで来てやっぱりちょっと躊躇。だってホラ、ピエロの仲間が大量に出て来てソイヤソイヤって襲ってきたらどうすんの、やだよおれ。酒も残ってるし、走れねえよ。
つうわけで、面が割れてないペンネが先に村へ入り、偵察に行った。奴もかなり嫌がって30分ゴネたけども。
さて時分はもう昼。すっかり太陽は天高く上り、二日酔いのおれは舌など出してヘロヘロである。早く戻って来いよペンネ……ここ、暑いんだよ。
ってな感じで小一時間、木陰で呆けていた訳だが。
「はいこれ」
うわ、ビックリした……。気配消して来んなよペンネ、怖いよ!まあいいや。で、何?その袋。
阿呆みたいなヅラ、化粧品それと眼鏡。それと、これ梅干し?何買っちゃってんのペンネ。
「ああ、梅干しは個人的に焼酎に入れようと思っただけだよ。他のはお前が付ける変装グッズ」
えっコレをおれがですか、付けるのですか。
「ええ~……」
激しく、非常に、嫌だ。しかし、そっか。ピエロの仲間の目を欺くには効果的か。ええ〜でも、おれわりと色白だから、可愛くなってしまうかも。困るぜ、口説かれたりしたら。
「いや、クリムト、別に女装しなくても。適当に使えそうなもの持ってきただけなんだから、ヅラとか切って普通に変装すればいいのに」
「馬鹿、言うの遅ぇよ!」
もうやっちゃったよ。服はそのまんま、シャツとパンツなのだが、おれ、完璧女の子ですよこれ。みつあみ、眼鏡の文学少女。ペンネはキモいとか何とか言ってるが、見る目がねえのだ、奴は。だからモテねえのである。決めつけ。
斯くして、ペンネと、文学少女風のおれは遂にチェザーレ村に潜入したのだった。
……空き家。
住んでる。
また空き家。
面積そのものはブラーマン村よりずっと広い。しかし、これは一体どうした事だ?閑散としていて、異常に人が少ない。たまに見かけるのは何かしょんぼりした老人ばかり。
「だから、空き巣し放題だっだよ」
ペンネが言った。盗品かよ、ヅラも梅干しも。悪ィなお前ほんと。
村の中央の広場まで来ると、何だか縮んだような婆さんがとぼとぼ散歩していた。じゃ、あの人に事情を聞こうぜってんで近づいたら、婆さんは。
「おめーらここで何しくさっとる!」
な、何?田舎のババアって行動が読めねえ。何故キレたんだ、ババアよ。しかしおれは冷静だった。
「エヘヘへ。旅行者なんすよ、田園風景に癒されたくてへへへ……」
そう、キレ返して目立ったりしてはいけん。このババアも恐らくは、物語上の何らかの役割を持っているはず。おれが主人公だと悟られてはマズい。
「しっかし、都会の雑踏とは正反対ですねぇ、自然いっぱい。〈人が少なくって〉、イイっすねぇ」
それとなく話を切り出す、ナイスおれ。
「ばがこくでねえ!なあにがイイもんがぁ!おめら魔物のエサさなりでえんが」
ババアの説教が炸裂した。思惑通りではあるが、くっ、耐え難いモンがあるね、やはし。およそ2時間。正座させられて得た情報は、
「若者はほぼ全員、魔物どもに連れ去られて村にはいない」という事。それだけ。ババアの話の内容の大半は、観光気分の都会人に対する愚痴不満であった。たまらん。
しかし、はっきりしねえのはその魔物どもとやらだった。ブラーマン村では単に墓場からゾンビが出て困るから何とかしろっつう、言わば公害問題的な話だった訳だが、今回は、組織的な犯行な感じがしやしねえか?
夕刻。おれとペンネは例の5Gの宿(こんな状況の村でもしっかり経営してやんの)にて、作戦会議を行った。
ババアの後、数人の村人に話を聞いたが、若者を連れ去る魔物の群れというのは実に様々な種類の魔物の混合部隊であるという。そして、おれ達が最後に話を聞いた酒屋のおやじの目撃証言。こいつは決定的な事実を示していた。おやじは、
魔物の群れの中にピエロの姿の悪魔がいたのを見た。
と、言ったのである。
つまりこれは、やはり。魔物による組織的な犯行。そしてピエロの話も統合して考えると、その組織は、西の塔のドラゴンの件にも関与している大組織、なのだ。
そして問題は。ピエロ達が属する魔物の組織のボスに、おれはどうやら恨まれている、という事。
「知らないうちに、傷つけてたんじゃないの」
ってペンネ、そんな、女子学生の友達関係じゃねんだからよ。くそっ、どこのどいつだか知らんがまったく、いい迷惑だ。
いや……待てよ。これも物語のパーツなのか?もう最初から「とにかく、意味もなくおれにムカついている人物」という役割を与えられた者がいたとしたら、どうだろう。たとえ、会った事が無くても、生まれながらに「主人公」を憎んでいる。そういう役割。
うわっ、ありそう。そうだよ、物語には大概、「敵役」がいるんだ。
梅干し入り焼酎をちびちびやりながら、おれらは考えた。
とにかく、魔物組織のボスがおれの敵役であるという可能性は非常に高い。それを仮定として考えるとつまり、この村の奴らの役割は「魔物の群れを何とかしてくれ」と騒ぐ役どころに見せかけた、物語の罠。
魔物組織の遂行する、何らかの計画を、おれに、ここ重要ね、このおれに邪魔させる、それが真の目的。まあ村人にそこまでの自覚は無いと思うが。
蓋し、おれが敵役(組織のボス)に、ますます恨まれるように仕向けているのだろう。っつうのがおれ達の思う、チェザーレ村での物語の概要。信憑性あんだろ?創造主が作った物語が、おれ達の考えた通りなのかどうか、答えあわせは出来ない。おれ達にできるのは、推測で突っ走る事。それも逆方向に。それだけだ。
そう決意したおれとペンネが翌朝、何をしたかと言うと、
うん。村を荒らしました。
宿賃を踏み倒し、空き巣しまくり、ババアには罵声を飛ばし、広場に卑猥な落書き。
勿論、当然のごとく村人たちはブチ切れる。老人どもは、日頃の鬱憤を晴らすかのように掴みかかってきて、おれらは広場の柱に縛りつけられた。計算通りだ。
村人全員が避難の眼差しで睨み付けてくる中、おれは言った。
「すべて頼まれた事なんです。勇者様に!」
みつあみにしたヅラを被ったおれは、とにかくこんな事をしたのは全て勇者に脅されたからであって、仕方なかったのよ、許して、と哀願した。ペンネも沈痛な面持ちを作ってうなだれている。完璧な演技だった。
村人達は唖然としている。よっしゃもう一押し。
「あなた達は騙されてる。勇者は、救世主なんかじゃないわ!クソよ!人間のクズなのよ!魔物から村を救ったりなんか、するわけない。なぜなら、勇者は、魔物と繋がっている、グルなのだから!」
群集はどよめいた。誰かが呟く。
「……そんな、嘘だ」
「し、しかし……」
「どういう事なんだ……?」
よし、よし、きてるぜきてるぜ。文学少女風のおれは、さらに熱く語る。
勇者は、魔物の組織と仲良しさんなのであって、あなたがたの期待するが如く村を救ったりはしない。この村に若者がほとんど居なくなったという情報を魔物からリークされた勇者は、我々を遣わし、対抗する力のない老人ばかりの村で空き巣を中心とした非道の限りをつくさんと企んだのである。
それが証拠に、ここまで人口が減少したにもかかわらずこの村に勇者は来ないではないか。
と、まあ、そんな感じの口上を並べ立てた。しかし、自分の悪評を流すっつうのは何とも……はは、なんか逆に面白くもあるわな。ちょっとした自虐ネタっつうか、そんな感じね。
将を射んとせばまず馬を射よ……っつうのともちょっと違うか。物語の展開に逆らうというよりも、だ。その展開の基盤にある、関係図式そのものをメチャメチャにすりゃ、おのずと物語も変わって来るんでねえの?おれらはそう考えたのだ。要するに、
一、敵役とおれが対立。
二、おれと村人が締結。
三、敵役と魔物が締結。
四、魔物と村人が対立。
この図式な。コイツをまず台なしにして、別の図式に書き換えるっつう寸法。
今、ヅラなんぞ被っておれがやろうとしてんのは、
改訂版
おれと村人が対立
おれと魔物が締結
ひっひっひ、村の奴ら、信じ始めてやがる。
おれ(文学少女)の話を信じた村の住人達は、当初ただただ悲観にくれていた。
「だとしたら、わしらはどうしたらいいんだ?」
「勇者が悪党となると、もう他に頼る者がいない」
「困った、困った事だ」
少しばかり良心が痛む。彼らはずっと、勇者が到来して、それに救いを求めるのが運命だと信じていたのだ。それ以外の人生なんて、考えもしなかったんだろう。この世界ではそれが普通なのか?
つくづく、ペンネは妙な奴だったのだな、と、おれは思った。気があうわけだぜ。
と、その時。聞き覚えのある声が響いた。
「おめーらばがか?」
あ、昨日のババア……。
「こいづらの言う事、頭っから信用する気が?」
ババアは嫌みったらしい視線でおれらを睨めつけた。マズいぜババア、何を言い出すつもりだ?
「勇者が悪党がどーかはまだわがらね。こいづらのでまかせがも知んねぞ」
ババアの言葉に再び、村人の視線が険しくなる。うまく行ってたのに、ババアめ、畜生。
「しがしだ、村がこんだら時に来ね勇者は、ばがだ。そんげな奴に頼る事あんめ。見っげだら袋叩きだあ。ワシらはワシらで、何どがしだ方がどんだげええが、わがらね」
ババアはそう告げてニヤリ、と笑った。怖ェ。だが、ババア、なかなかいいこと言うじゃねーの。
と、思ったおれは甘かった。
ババアの鶴の一声によって、チェザーレ村は、変わった。
もとより老人達の集団。勇者も若者もいないが、大量の知恵袋がある。その気になりゃあ、おれ達など足元にも及ばねえ恐るべき老獪な軍団なのだ。
……で、どうなったかというと。おれとペンネはその老人部隊に手足を縛られ、教会に投げ込まれたのである。奴らは明朝、おれ達を捧げ物として魔物に引き渡し、そのかわりに魔物たちと友好条約を結ぼうというのだ。
完全にやられました。
おれより先にチェザーレ村が魔物と提携を試みるとは。くそっ、老人村をなめていた。やべえ事になったもんだぜ。
教会の冷たい石の床に、手足を縛られ間抜けに転がったおれたち。
「畜生、ババアめ鬼め!」
罵ってはみたものの、おれは、本当は笑っていた。ババアどもにしてやられたのが可笑しくて仕方なかったのである。ひひ、やりよるね、老人村。
この世界の生き物どもは、創造主の考えた物語にすがらなくたって、本当は充分面白ェ奴らなんだとおれは思う。縛られたまんまのくせに隣で気持ちよさ気にウトウトしてるこのペンネにしたって、まさか酒場の村人に魔法使いの才能があるなんてな。創造主は思いもよらんかったんでねえの?
創造主は、なめてるのさ。おれたちの実力を。