第一章 〈陰謀〉
ついに出た!
【ファンタジークエスト2】
●1人用
●ダンジョンRPG
●CERO-全年齢対象
あの懐かしの名作RPGのパソコン移植版が激安プライスで登場!
伝説の救世主の血をひく、勇者クリムトの大冒険!魔王の手に落ちた大陸を救え!
発売元:株式会社FUKUGAN
販売元:弁天堂(株)
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「はじめから」
問題は、おれという人間が今まで何をしていたのか、という部分。それな。
つまり、記憶が曖昧。気がついたら、家の中にいたんです。
いや、おれの家族の事や、この村の歴史、それからまあ近所の奴らの人となりとか、ね。こういう大まかなものは忘れていない。ただ、昨日のおれは何をしていたのか?その前の日は?
思い出せないんだよ。しょうがないからおれは間抜け面を晒して村の奴らに話を聞いて回った。
「あのさ、変な話、おれ昨日、何してたっけ……?」
そしたら、みんな質問に答えもせず、長老の家に行けだの、長老が呼んでるだの言いやがんの。びっくりだよ。どうしたのこれ?お前ら頭がおかしいのか?
それとも、おかしいのは、おれの方か?
らちがあかねえから、とにかくおれは長老の家に行きましたよ。したら長老が妙な剣をおれに渡して何やら言う。
要約すると、お前は勇者ナントカ(何だか忘れた)の血を引く者だから、この剣を持って今すぐ村を出てけ。そんで魔王を倒せ。そういう事らしい。
選択の余地はなかった。長老や他の奴らが勝手にやいやい言うのはおれの知った事ではない。が、両親にまで「無事を祈る」とか言われてしまうと、もう立つ瀬無し。何しろおれ多分ニートだし。働いてた記憶がないもの。最近の事思い出せれば、もしかしたら就職してたのかもしらんが。どっちにしろこれじゃクビだ。
それでまあ、観念しておれは旅に出た訳で。こうしてテクテクと、炎天下ね。
にしても、衝撃を隠せない。おれが本当はナントカ様の血をひく者で、両親が本物の親でなかった事、それもまあ驚いた。だけど本当にヤバいのは、それ聞いて何も感じないおれ自身のクールさ。全っ然泣けねえんだこれが。記憶がねえから両親との具体的な思い出が無くて、こう……胸に迫るモンがなんもねえの。
おれはやはり頭がおかしくなっちまったんだなぁ……って、重い剣を引きずってタラタラ歩いてたら、ふと何かの視線を感じた。それも上空から。
見上げても何もいねぇ。
マジに発狂くんなの?おれ……。
視線は確かに感じるんだ。今も。おれにはわかる。だけど姿は見えない。悪夢でも見てんのか。
嫌な気分だったが見えないモンを気にしててもしゃあない。弁当でも食って忘れよ。と、おれは木陰を求めて森へ。
失敗だったね。何やら得体の知れん怪物に襲われて、逃げても回り込まれて。仕方ない。ナントカの剣とやらでやってやるよ畜生。って、おれも腹くくりました。
そしたら、何だ?この感覚。視界が急速に狭まって、この世におれと怪物しか存在しないような不思議な……ああ何だコレ。おれが怪物に与えたダメージと、おれ自身の受けたダメージが、数値化されたように正確に把握できるじゃねえの。
成る程、解ってきた。いや、まあ怪物には何とか勝てた訳なんだけれども。そんな事より、この感覚。まさか自分にこんな才能が開花するとは。
この能力、スゲエの。何が凄いって、まずさっきの怪物だったら、剣でぶっ叩いた時、あとどれくらいぶっ叩けば怪物を倒せるか、ってのが丸わかり。
それだけじゃない。おれ天才だよ。自分があとどんだけのダメージに耐えられるかも、休んだり何か食ったりした時の回復した度合いも、恐ろしく正確にわかる。これ、この才能で飯が食えるんじゃない?ビジネスチャンス、あるんじゃない?自分が怖いぜ。
ただまあ、村は追い出された訳だし、金を稼ぐにゃ町に行かねばなんないよね。まずそれだ。
で、町に着いた時はホントおれ、命からがら。ほぼ死んでたね。正確には、あと1回ダメージ受けたら死ぬんじゃねえの?ってぐらい。いや、森ってあんなに変な生き物がウヨウヨしてるもんなの?普通、どうなの?おかしくない?そんでそれがやたらおれに因縁つけてくるってどういう事なの。おれってそんな目付き悪い?何だかなぁ……おれは憂鬱だよ。この先、どうなっちゃうのかなぁって、暗い顔して町に足を踏み入れたの。
まあ村もそうだったのだけれども。何と言うか……妙なんだ。町も。さっきから同じ所ばっかり規則正しくウロウロしてる奴とか、あれはどう見ても狂人じゃあないのかね?いいのかよ、アレは。
まだギリギリ陽は落ちてなかったが、おれは何よりも眠りたかったので、目の前の宿屋に飛び込んだ。安いんだ、一晩5Gだぜ。
そんでおれは眠りこけた。阿呆みたく。キュッ、と部屋が暗くなったような気がして爆睡。で、ふと夜。目が覚めたんだ。
不思議な事に、おれはあの見えない何かの視線から開放されていた。今、奴はおれを見ていない。けけ、見られてないってのは気分がいいぜよ。愉快、愉快。おれは宿を出て、どこか一杯やれる店を探した。
おお、昼間閉まってた居酒屋が開いている。いいねえ。
「おやじ、酒だ」
って、ツウぶっちゃったりしてみる。あほだな、おれ。
その居酒屋で芋焼酎なんぞやりつつ、地元の人達と語り合ったりしてみたら、なんか案外みんな気さくな人達だったんで驚いた。じゃあ昼間あれだけ話しかけても「町の中央にあるお城に住んでいる王様が、剣士を募集している」って同じ事しか言わなかったアレは何だったのよ。おかしいよなあ。しかしまあ、おれもそろそろ呂律がまわんねえし、妙な事追求すんのもアレだからなってんで、宿に帰った。眠かったし。
泥みたいに眠ってたら、すぐ朝。頭ん中からふざけたラッパの音がしておれは跳び起きた。何だ今の。まあいいや、つって顔洗ってて気付いた。また、あの視線に見られてる気がするぜ。クソ。
さほど欲しくもない買い物なんかしながら町の中をうろついてて、わかった。昼間、この町の奴らは大半、やっぱりちょっとイカレてやがるね。王様が剣士を募集って話しかしねえの。店の人も素っ気ない。すごくビジネスライクな感じ。
ただ、建物の陰に潜んでる乞食みたいな奴ら。彼らは気さくで話がわかる。きっと虐げられた存在の人達なんだろうが、おれは彼らと話すとホッとするんだ。そもそも建物の陰そのものが、おれにとって都合がいい。何故って、あの視線だよ。やや斜め上空から感じるあの視線。高い建物の陰に居る時、アレを避ける事が可能だって事をおれは学習した。
乞食のような奴らと仲良くなったおれは、この町について聞いてみる。
「なんでこの町の奴らは同じ事しか言わないんだ?」
奴らは、それは自分達も知らない。ただ、そうしなければならないらしいのだ。と言う。
「じゃあお前らはなぜ、そうならずにすんだの?」
続けて問うと乞食は。
「それも知らん。けど俺達はほら、何と言うか、世界から落伍した者だから。そういった、この世界に必要な役割のようなものは回ってこないのだろうよ」
おれは彼のひきつったような笑みが頭の中にこびりついてしまい、陰鬱な気分でその場を離れた。クソッ、酒がのみてえ。
居酒屋は昼間は開いてねえし、おれは何だかむしゃくしゃしていた。長老から押し付けられた重い剣を引きずって歩くのもうんざりだ。おれは剣を売ろうと思って店に行った。しかし。
「これは買い取れません」
判で押したようにどの店もその一点張り。頑として買おうとしねえ。もうタダでもいいっつったのに奴らはうんと言わない。きちがいめ、もう知らん。
で、おれはその辺の草むらに剣を捨てようと思った。ナントカ様の剣だか何だか知らんが、クソだこんなモンは。
って。どうした事だ、捨てられねえ。捨てても手が勝手に拾ってしまう。
これは本当に、悪い夢なんじゃねえのか?
憂鬱だった。ひたすらに。
忌まわしい剣は、どうしても捨てることができなかった。何度も試したんだが。もう後半は半泣きになってたおれ。でも駄目だったんだ。何なんだろう、おれは病気なんだろうか。この世界は、おれの妄想もしくは悪夢か?笑えねえ。
しかしだ。こうしてただ悪夢に流されてんのは好かなかった。つうか、おれはもう怒った。ああそうかよ、捨てんなって言うならな、見てろ。
数時間後、剣は熔かされ、細かく打ち直され、ギラギラのチェインソウの刃に生まれ変わった。パンク!イカす!捨て置かれたチェインソウをボディに、有り金はたいて、技術屋の乞食に頼んだのだ。頭下げたかいがあったぜ。ざまあみろ!って誰に言ってんのかおれも判らねえけど。実際スッキリしたね。長老のよこした大事なナントカ様の剣が、今やチェインソウ。ぷぷ。
で、まあ、おれは一つの結論に達した。おれを監視しくさってるあの視線。町の奴らに同じ台詞を何度も言わせてるこの世界のシステム。それからおれの手から剣を捨てさせないように働いている、何か超常的な力。それらは共犯だ。多分ターゲットはおれ。理由は知らんが。
総合的に考えてそれが1番つじつまが合う。村を出された時点で、いや、記憶が無いと気付いた時、既に陰謀は始まっていたんだ。
誰かが、おれの人生を、操りたがっている。
正味な話、おれの方が狂ってるのかもしれない。というか、その確率、たぶんかなり高い。けれど、だからっておれはこの妄想を止めないぜ。この際、妄想だろうが構わないね。村も追い出された訳だし、家族もニセモンだったんだぜ。どうでもいいよ。おれは、おれを操ろうとしているものに、ことごとく逆らってやろう、って。今はそれだけを考えているんだ。
ギラギラのチェインソウを片手に、おれはまず。景気付けに一杯やりに居酒屋へ行きました。折しも今は夜、視線もねえし。敵を知らねば戦はできぬっつう話もあるよね。情報集めと洒落込んだ。今夜こそ、町の奴らに昼間の奇行を問いただしてやんのよ。アンド、芋焼酎。
しかし居酒屋は昨夜と雰囲気が違っていた。皆、おれを避けているようだ。既に、おれがここに来た目的を知っているからか。それともアレか、おれを狂人だと思ってんのかね。上等だ。でもまあまずはおやじ、芋焼酎ください。
ああ、美味いなあコレ。なんかもうどうでも良くなってきたなぁ。って、気ぃ持ち良くなっちゃってたおれに、声をかける男が。
「あんた、クリムトだろ」
うんそうだけど、芋焼酎うめえ。
「バグどもと、あんまり喋んない方がいいぜ」
バグって何さ。おれ犬とは喋ってないワン、ってそりゃパグよね〜。ね〜。はっはー。
「よっかかってくんなよ、おい、聞いてんのか?バグってのは、乞食みたいな奴らだよ」
ふにゃふにゃ……え何?おかわり……
ファファラファァ〜ンって、この間抜けなラッパ、何なんだよ。宿で寝て、起きるといっつも鳴りやがんの、頭ん中で。
って、しまった。泥酔しちまった、何やってんだおれ。
昨夜たしか、妙な男が「バグと喋るな」とか何とか言ってたような。バグ……虫って意味か?乞食の事をきゃつらはそう呼んでいるようだった。けっ。毎日同じ台詞を繰り返してるような奴らよりはバグの方がよっぽど人間らしいわ、馬鹿め。おれは喋るぜ、バグと。
で、今日のおれには1つ問題があった。金が底をついたんだよね。まあ、チェインソウ作るのに使っちゃったってのもあるけれど、酒でしたね。うん……反省はしている。仕事探さねえとまずいわ。
っつって、おれは市街に繰り出したわけなんだけども。駄目でした。もう雇う雇わないの問題じゃねえの。町中の店が、阿呆みたいにしゃっちょこばって「何にいたしますか」しか言わねえ。買うか売るか。世の中にゃその二つしかやる事が無いって態度。
「あの、そうじゃなくて、バイトとか募集してないっすかね?」
って何度言っても全然きかねーの。ファック!
おれはもう、疲れた。面倒臭くなったよ。わかりましたよ。王様の騎士募集だか何だかに報酬があるらしいわよって、百万回も聞かされたもんね。そこのパン屋の角に1日中立ってる女から。
くそったれ。行けばいんでしょ、行けば。背に腹は代えられない。おれは遂に城へ向かった。操られるままに動いている自分が情けなかった。このまま大人しく従うと思うなよ、畜生。
馬鹿でかい城門。嫌いだね、こういう事で権威を象徴するのってさあ、なんか腹立つよ。
とか毒づいてたら、頭悪そうな兵士が
「止まれ。お前は剣士志願の者か」
つうから、ええまあ。っておれは志願はしてねえんだけどね。志願させられてるっつうか。ややこしいから言わないけど。したらその直後、そいつが何て言ったかって、
「あまり強そうには見えんな。まあいい、通れ」
だとよ。シツレイじゃねえ?常識がねえよこの男。おれはテメーの知り合いでも何でもないのに、いきなりそんな暴言吐く?普通。ますます胸糞が悪くなった。この城、こんな奴ばっかりなんじゃねえだろうなぁ。少々不安。
そうして気がつくとおれは大広間の真ん中に立たされていた。正面には恰幅のいい王様が。値踏みするようにしげしげとおれを見ている。ちょっと待てこれで緊張しねえのは不可能だろ。正直、ちびりそうですよ。面接王様が直接すんの?なんで?
やがて王様がおもむろに口をきいた。
「その剣はどこで手に入れたのじゃ」
「こ、このチェインソウの事でございますか?これはその、おれの故郷セプテンバー村に伝わる伝説のなんたらいうやつでして、なんか、長老が、くれたんす、よくわかんないんですけど」
ああ、おれ阿呆みてえな喋り方。へこむわ。
「その剣を使えるのはナントカ(また聞き取れなかった)の血を受け継ぐ者だけ。お前ならきっと、竜から姫を救い出せるに違いない」
……はい?今なんと?
すげーマズい事になった。西の塔に竜がいて、そいつが王様の娘をさらってかこってるらしい。大変ですね、としか言いようがねえ話なんだけども。
で、それをおれに何とかしろだって。ご冗談でしょう?だってさ、単に王様直属の兵士を募集してるんじゃなかったの?聞いてねえよそんな話。おれは、ほら、先刻の失礼野郎みたく門の前とかで突っ立ってりゃカネ貰えるんだとばかり思ってた訳で。竜退治とか言われても、あんた。
だがこんな時こそ、じっくり思考する事が重要だ。こうして今夜はとりあえず城に滞在できているのだから、そうだよ。厨房に高級ワインとかあるんじゃねえの?
ビンゴ。厨房に大量のワインがあったので、それをちょっとばかり拝借。適度な酒は脳を活性化させるなあ。おれは素敵な計画をひらめいた。簡単な事。当座の旅の資金はさっきもらっちゃってる訳だから、この金でトンズラすりゃいいのだ。
西の塔でドラゴン退治?誰が行くか馬ァ鹿。まあ姫は可哀相だけども、おれが行った所でどうにかなるわけじゃないし。考えてみたらおれ、別に武芸の心得とか無いし。つまり、彼は全くの素人に竜退治を頼み込んでたのだね。恐ろしい笑い話だ。
いや待て。そもそもこの強引な展開は、おれを操ろうとしている何者かが、おれに竜退治をさせる為にこの町を動かしていたと考えるのがスジだ。ならばおれは当然、それに逆らってトンズラするっきゃない。
思い立ったら吉日。
夜の城はひんやりと、静かだった。しかし無用心だな。窓なんか穴開けてあるだけじゃねえか。これじゃ逃げろって言ってるようなモンだよな。
おれは楽勝で裏窓から城を抜け出した。運動神経はそこまで悪くない方なんだが、ほら、ワイン呑んだからね、少ぉしふらつきながらおれは走った。何処へ?決まってる。この町でおれの味方だったのは乞食、バグと呼ばれる連中だけだ。彼らに礼を言わなきゃ、この町を去れない。それから何処へ行くかは、考えちゃねえけど。どこだっていい。重要なのは、西の塔には絶対行かねえって事それだけ。
視線よ、見てるか?おれは操られたりしないぜ。